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ある整体師さんの過去生(1)

光の前世療法  ある整体師さんの過去生
関東の大きな城下町に代々続く按摩師の過去生に降りました。
「私は七代目で、この町で一番の按摩です。時々、お城にも呼ばれます。お殿様のお母上様にとてもよくしていただいています」
町人の身分でしたが、お城からの呼び出しにすぐに応えられるように武家屋敷の町割りのすぐ隣に屋敷がありました。
「先々代のお爺様が殿様のひどい腰痛を治したご褒美に名字帯刀を賜ったのが我が家の誇りです」
「私は幼い頃からこのお爺様に按摩を教わりました。按摩だけではありません。中国の鍼灸と薬膳も教わりました。漢方薬は実際になめてみて、味と効能を覚えさせられました。お爺様はお薬の煎じ方にとても厳しくて、わずかな違いが大きな薬効の差になることを教えてくださいました。」
「お爺様のお得意の漢方薬は麻布に浸して何度も患部に塗り込む・・・今で言う温湿布でした。急な痛みのほとんどはこれで治りました。」
私が少し大きくなると、お爺様は双手唐剣を伝授してくださいました。それは毎夜、屋敷の地下にあった隠し部屋でお爺様とふたりだけの秘密の剣術修練でした・・・5年続きました。
お爺様の剣術修練は「見えない敵を見る」でした。
初めは背後からの打ち込みをかわしました。
次に隣の部屋での打ち込みを気配でかわしました。
5年を過ぎた頃には、遠く10里離れていても、念じればその人が何をしているのか?が感じ取れるようになりました。
この秘密の剣術の鍛錬のおかげで、私の按摩の技も飛躍的に上達しました。
触らなくても、どの穴を按摩すれば病が治るのかが立ち所にわかります。
城内はもちろんのこと、この町中なら相手を意念するだけで、どんな病なのか? どこが悪いのか? がわかるようになりました。
剣術の鍛錬が終わりに近づくと、お爺様の昔なじみだとおっしゃるお婆様から「闇を学べ」と命じられました。
お婆様は傀儡の風体をされています。
かなりのお歳で腰もすっかり曲がってしまっていますが、双手唐剣を極めた目には、仮にこのお婆様と斬り合うと確実に自分が負けることが察せられました。
ヨボヨボの老人の風体でゆっくりと辛そうに動かれますが、いざという時には風の如く消えてしまうでしょう。
私はこの世で最も恐ろしい人に出会った感を覚えて、お婆様といるといつも鳥肌が立っていました。
お婆様がボソボソと語ってくださった闇は呪術でした。それは中国でも南蛮でも天竺のものでもない不思議な言葉の呪文でした。
「昔々の もっとずっと昔々の この国の言葉じゃよ」
「言葉を覚えるのではないぞ。音を覚えてもいかんぞよ。目の奥に浮かんでくる景色で額に刻むのじゃ」
お婆様との縁は3年続き、それ以降はお婆様に連れられて、お婆様の一族の集まりに加わって学びを深めました。
その集まりは夜の河原や浜辺、山中の小村など人里離れたところで隠れるように行われましたが、時には城下町の大通りで松明を煌々と照らしながら行われることもありました。
「何重にも結界が張ってあるから一族以外の者は決して近寄れないのよ」と一族の娘たちが茶化すように言いました。
「あなたにも一族の血が流れているから大丈夫」・・・この言葉の意味がわかるのはそれから数年後のことでした。
一族のお婆様たちが集まって一晩中呪文を唱え続けた翌日には、必ずどこかの国の城中で弔いが出ました。
そしていつもその弔いが出た国の農民、町人たちには活気と笑顔が戻ってきました。
時には別の一族たちが合流して大きな集会になることもありました。
長老様たちとお婆様たちが例の不思議な言葉で何かを静かに語り合って・・・決着がつくと一同で車座に座って右に左に揺れながら独特な節で不思議な言葉の唄を歌いました。
この大きな集まりの数日後には、いつもどこかの殿様が亡くなられました。
このような話は家に帰っても誰にも話せませんでした。
恐ろしかったのではありません。話してはならぬと自分の中の何かがいつも語りかけてきたからです。
(つづく)


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