見出し画像

自殺した魂は・・・

拙著「前世物語」から・・・

 これは交通事故で亡くなった息子さんとコンタクト出来たお母さんの症例です。

  自殺
 昔々、とある貧しい農村に仲の良い兄弟がいました。竜たつと良太です。
 竜が十二歳の時、両親は兄弟を捨てて村を逃げ出しました。二人はおむすび一つを持って両親を探し
に出かけました。夕方になりました。良太がいなくなりました。竜は慌てました。
「ずっと手をつないでいたのに、チビはチョロチョロするからこんなことになるんだ。どこへ行ったん
だろう」
 竜は山の中を走り回りました。息が切れます。兄は途方に暮れました。
「早くみつけなきゃ・・・」
 ふと目をやると、大きな松の木の下でチビがおしっこをしていました。兄はホッと溜息をつきました。
 二人はまた、手をつないで山を下りていきました。麓のお地蔵さんと並んで座って、おむすびを半分
ずつ食べました。そして三人は身を寄せ合って眠りました。竜は江戸へ出ようと決めました。
 数年後、竜は大工になっていました。江戸の町は賑やかです。彼は喧嘩とバクチに飲み込まれました。
大工で稼いだ金はすべて酒とバクチに注ぎ込みました。飲めば喧嘩です。毎日、同じことの繰り返しで
した。弟の良太は酒に溺れた兄とケンカして出て行ってしまいました。
 時が過ぎました。竜はボロボロでした。ひどい肝臓病で血を吐きます。長屋で寝込んで、もう動けま
せんでした。
 時々、良太が見舞いに来てくれました。弟は結婚してまじめに暮らしていました。そんな弟を見るこ
とだけが竜の喜びでした。でも、兄は口には出しませんでした。
 五十二歳の時、竜は死の床にいました。
「俺はダメな人間だったなぁ。全然、弟に兄らしいことをしてやれなかった。弟は自分独りでよくがん
ばったなぁ」
 良太がそばに来てくれています。
「兄ちゃん、死なないでくれ」
 兄は答えました。
「俺はもうダメだ。ごめんな、何もしてやれなくて・・・」
「いいんだよ、二人でがんばって来たじゃないか」
 良太が手を握って泣いてくれています。
 竜の心が落ち着き、安らかに身体を離れました。
 先生は竜の魂を高みへと導きました。そして竜の人生と、今、生きている人生を高みから見比べても
らいました。
「・・・酒とバクチに溺れちゃいけないなぁ。弟より先に死んじゃいけないよ。もっと真面目に、きち
んと生きなきゃいけないね」
 先生は更に高みへと導きます。真っ青な空の上に大きな白い光がありました。魂が光の中へ入って言
いました。
「・・・辛いことも何もありません」
 先生は光に尋ねました。
「今回の人生で、死んだ息子との関係は何ですか?」
 お母さんが泣きながら答えました。
「愛することです」
「息子に会わせてください」
 光が答えました。
「まだ早い」
「どうしたら会えるのですか?」
「人を憎むことをやめないとダメです」
 先生は光に頼みました。
「もう人を憎みませんから、息子に会わせてください」
「大丈夫です、息子は元気だから安心しなさい」
 先生は光にお願いしました。
「ビジョンだけでも見せてください」
「雲の上でバイクに乗ってる!」
 お母さんが驚いて叫びました。
「お願いですから息子の所へ行かせてください」
「近づきました。私に気づきました。恥ずかしそうにしています。元気?って言ったら、ああ、だって」
 お母さんが笑いだしました。
「息子さんをしっかり抱きしめてください。そして、あなたが言いたかったことを全部言ってあげてく
ださい」
 お母さんが言いました。
「ヘルメットを取って、って頼んだら取ってくれました。まっすぐな髪の毛で、カッコつけちゃって革
ジャン着ています。ごめんね、ごめんね、って抱きしめて、その後は手を握っていました。かまわない
よ、って言ってくれました。全然私を恨んでない、って。お母さんが先に死ぬのが嫌だった、って。今
はイラストを描いてバイトしてるんだ、上手くなったぜ、って。また会いに来てもいい? って聞いた
ら、いいよ、って言ってくれました」
 先生は息子さんに尋ねました。
「君は今回の人生では早く死ぬ、って決めてたの?」
 息子の魂が答えました。
「死ぬつもりはなかったけど、強くなりたかったんだ」
「死んだら強くなれた?」
「いや、バカなことをしたもんだ」
「自殺して苦しんだの? すぐに雲の上にあがって来れたの?」
「結構大変だったよ」
「なぜこのお母さんを選んだの?」
「お母さんが子どもを欲しがっていたからだよ。オレしかいない、と思ったんだ」
「君が死んでから、お母さんのことを見守ってくれてるの?」
「そんなこと、わかってるだろう」
「お母さんはどうしたら君に喜んでもらえるのかな?」
 息子の魂が答えました。
「タバコは止めた方がいいよ。ビールも飲み過ぎないようにね。仕事をしているお母さんんが好きだか
ら、出来るだけ長く仕事をして、長生きしてくれよな」
「そう出来るように手伝ってくれる?」
「それは自分の意志で決めることだ。オレを頼りにするなよな」
 先生は光に聞きました。
「今回の私の人生の目的は何ですか?」
「人を憎んだり恨んだりしてばかりだったから、あなたには本当の悲しみが足りなかった。その悲しみ
で憎しみを洗い流して、愛することを学びなさい」
「私の人生はここまで順調ですか?」
「はい、悲しいこともありましたが計画通りです」
「その計画は誰が立てたのですか?」
「私自身と、天にいる『上の存在』とで決めました」
「私にそれをクリアーすることが出来ますか?」
 光が答えました。
「息子をそれだけ愛せたのだから出来るはずです」
 先生は光に続けて尋ねました。
「父との関係は何ですか?」
「勇気です。嫌なことをちゃんと拒否する勇気です。今まではそれがなかったのです。今、なかったこ
とに気がつきました。だから、これからは本当に嫌なことにはノーと言う勇気が必要です」
「夫との関係は何ですか?」
「もっと彼のことを愛して理解してあげなくてはいけません。愛も理解も足りません。自分のことばか
りを考えていました。もっとおおらかな心で人を愛することが大切です。大きな愛です。だのに愛され
ることばかりを求めていました。心の底の悲しみや本当の孤独感がわかっていませんでした。頭だけで
考えていました」
 先生は息子の魂に言いました。
「お母さんをこれからも見守っていてね」
 息子の魂が答えました。
「お母さん、元気でね」
 先生はお母さんに聞きました。
「息子さんに何を約束しますか?」
 お母さんが答えました。
「最後の日まで生きるぞー!」
 光もお母さんに言いました。
「あなたはもう大丈夫ですよ。見守ってあげますからね」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?