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なぜ宗像大島にコミュニティスペース「umiba」を作ったのか〜交流と経済の起点として

ローカルツーリズム株式会社では、地域が自らでお金を生み出し、稼げるようになる「地域循環経済」の実現を目指しています。この夏、福岡県宗像市の大島に新しいスペース「umiba」をオープンしました。なぜこの開設に至ったのか、代表の糀屋総一朗が自らの言葉で語ります。

地域にお金が循環する仕組みを作る

私が代表のローカルツーリズム社は、2019年から福岡県宗像市の離島・大島で『MINAWA』という1日1組限定の宿泊施設を作ったり、害獣である猪を犬向けのペットフードにしたり、アトリエ住宅を作りアーティストの応援などをしたりと、地域の魅力をサービスに転化し「地域循環経済」を拡充させるための試行錯誤を繰り返しています。

今年の6月に大島村時代の村役場(地元の人は旧行政センターと呼んでいます)をリノベーションしてumibaというコミュニティスペースを作りました。大島に来た当初から、島内外の人の接点となる場所を作りたいと思っており、今年やっとそれが実現した形となります。

僕らの会社は、地域の衰退という課題を「地域循環経済圏の拡充」によって解決していこうと考えています。地域の衰退とは何か? という点については様々な見解がありますが、私たちは「産業のモノカルチャー化」が地域の衰退の本質であると考えています。その解決のためには、産業を多様化することが必要であり、具体的にはスモールビジネスを創造していく人に投資をしたり、もしくは今ある事業を継承し現代的な価値観により生まれ変わらせることが必要だと考えています。

umibaもこの考えをベースに構想したものです。いわゆるコミュニティースペースと呼ばれるものは域内外の人々の交流による関係人口の増加という公的な目的に重点が置かれ、そこで売上を作ったり、将来的な事業の種を探し出すといった経済的側面は軽視されがちという印象があります。

しかし、私たちは、そのような考えではスペースを維持することが困難だと考えており、補助金に依存しない形でどのようにスペースを維持しつつ地域循環経済の拡充に接続させることができるかを重視しています。

具体的には、umibaでのワークショップをきっかけに、大島で立ち上げられるような商売の種を模索し、そこに投資をして、その成果が島内に循環していく仕組みを作ろうと考えています。ワークショップが頻繁に行われれば島内の先生役の人たちが講師代を得られ、地域の一人当たり所得が上昇することにつながります。さらに島内のアクティビティーとしても認知され、ファミリー層の誘致にもつながるようになれば、また島内にお金が落ちることになり、一人当たり所得の上昇にフィードバックしていくことになります。

「特殊能力者」を可視化して事業の種をつくり出す

新しい事業を作っていくという考えを具現化するため、地元の人に限らず「特殊能力者」を探し出して、ワークショップの先生になってもらうのが効果的だと考えました。

特殊能力者と言っても、超能力が使えるとか、プロ級の腕前を持った何かといったものではなく、例えばジャムを作れるとか、魚を上手に捌けるとか、地域の草木にとても詳しいとか、そういったちょっとしたことだけれども、その地域の魅力につながるような知識や技能を持っている人のことを指しています。

そうした特殊能力者を可視化する場所として手っ取り早いのは、いわゆるカルチャースクール的なものや教室的なものを、ワークショップというカジュアルな形で提供することだと考えたわけです。まだumibaはオープンしたばかりですが、タコライスのポップアップストアや、BAR LIGHT HOUSEという不定期のバー、子供も楽しめるハワイアン教室、移住してきたアーティストの絵画教室、野草茶の飲み比べイベントなど多様なワークショップが生まれてきています。

ダンスやバー、絵画教室など様々な利用のされ方をしています

専業スタッフを置かず運営できる形を考える

コミュニティースペースのような場所を将来的に持続可能なものとして運用していくことは、最低限実現しなければいけないことです。補助金がなければ持続できないようなものであればそもそもやるべきではないとも思います。

補助金に依存せず、コミュニティスペースを維持していくためには、まず専業スタッフを置かないことが大事だと思います。

おかしなことを言うようですが、特に立ち上げたばかりの頃は、コミュニティースペースに常にお客さんがいるという前提でものを考えないことが重要です。コミュニティースペースにおいてカフェなどを併設し、ビジネスを行って何か売り上げを作るのは実際にはなかなか難しいことです。もちろん、カフェのスタッフでコミュニティスペースを並行して回すことで固定費を圧縮することができるのですが、カフェ以外のワークショップなどの立ち上がりも最初からスピーディに行かないでしょうから、その間の人件費負担が重くのしかかります。運営する側のメンタルも毀損していきます。

最初は、人がそこに集う時間にだけ人件費が発生するような仕組みを考える必要があります。ベストなのは、レンタルスペースのように、場所を借りる人が、そこでワークショップをやりながらスペースの管理も同時にやるといった形です。これなら、固定のスタッフを置かないですみます。ワークショップやポップアップストアが多様化し増えてきて固定費をまかなえる算段が見えてきたら、カフェなどを併設して固定スタッフを入れる、などすると経営的には安全だと思います。

では、利用者とのやり取りは誰がするのか? という疑問があると思いますが、専業スタッフがいない当初は、コミュニティスペースの運営者が自らやればいいのです。LINEやオープンチャット、SNSなどのチャットベースで十分ですし、予約が必要なコンテンツであれば、そうしたチャットサービスで無料で使える予約サービスなどをうまく使っていけば良いでしょう。固定スタッフはスペースの運営が軌道に乗る算段が見えてきてからで十分です。

人件費不要で交流の起点となるコインランドリー

umibaにはコインランドリーを設置しています。コインランドリーといっても、業務用の乾燥機と洗濯機が1台ずつの小さいものです。もちろん、島内在住の方も利用できますが、島外から来て連泊するお客様の利用が想定されます。島外の方がここを利用してもらうことで、ワークショップの存在に気づいてくれて、それをきっかけに島内外の交流が生じる可能性があります。それは、地域循環経済の観点からも良いことです。

そして、スペースの維持という観点からもコインランドリーは優れものなのです。基本的には従業員が不要の装置産業であり、投資回収期間も早い、といいことづくめです。小型のものを想定するのであればコインランドリー業者を使うこともなく、自分で購入して始めることは可能です。免許も要りません(クリーニング屋さんをやるのであれば必要です)。

キッチンを製造所として使って地元物産を作る

umibaにはキッチンを必ず作ろうと考えていました。一つの理由は、島内の飲食店のバリエーションが少なく、しばらくいると飽きてしまうので、人の到来が多い土日くらいはポップアップストアを誘致して、普段は楽しめない食事を楽しめるようにしたかったからです。

もう一つの理由は、平日のアイドルタイムを利用して自社でこのキッチンを使って物産を作りたいなと思っていたからです。umibaを作るまでは具体的な物産のアイデアはなかったのですが、ある野草茶のワークショップをきっかけに、ここで野草茶を製造して販売しようという構想が生まれました。うまくいけば、雇用も生まれますし、umibaの維持コストも賄えるようになります。

大島の野草を使った野草茶製造販売の構想も

裸足でも使える場所にする

ちょっと細かい論点なのですが、メインスペースを土足にするかどうかは悩みどころです。スタイリッシュな空間にしたいのであれば、正直、土足の方が絶対に良いです。スリッパや裸足で移動している姿はあまり見栄えがよくないからです。

しかし、ここをリトリート観光の拠点にもしたいと考えており、ヨガなどもとりれたいと想定していたことから、裸足で運動できるようにフラットなフローリング仕様にしました。また、これなら小さい子ども連れのファミリー層も利用がしやすいでしょう。意匠よりも機能性を重視しました。

アーティストやクリエイターとの協働

新しい場所を作っても、島外の人に知ってもらうのはなかなか一苦労です。そこで、何らかのインパクトが欲しいなと考えていました。ちょうどumibaを作るタイミングで、知人でアーティストである井口真理子さんが大島に移住してきました。彼女に壁画を描いてもらいたいと相談をし、「島内に光をもたらしたい」というコンセプトをもとに「PRISM」という大作を描いていただきました。島内のお年寄りの方々にも興味を持ってもらってアーティストと島民との接点にもなりました。

井口さん(右)と糀屋、壁画の前にて

Instaglamを筆頭に、画像、動画SNSによる自己表現に強いニーズがある現在において、美術館などへの来訪者が年々増えているようです。美術館で、自分が「映える」と思う作品を撮影したり、自分も一緒に映り込んである種の自己表現をしているわけです。僕自身は、いわゆる映えスポットを作りたいというような浅慮な構想でumibaを作り壁画を描いてもらったわけでは決してないということを強調したいのですが、結果として、PRISMをきっかけにumibaを知ってもらって訪れてもらったり、アーティストの活動も知ってもらえるようになれば、それは良いことだと考えています。

今後は、アーティストやクリエイターに離島という特殊な場所を使ってさまざまな活動をしてほしいなと考えています。umibaのある旧行政センターの2階と3階が空いており、今年、クリエイターによるいままでにないセレクトショップを作ろうと考えています。まだ詳しく言えませんが、かなりワクワクするショップです。

小さなスペースではありますが、ここから地域の新しい可能性を見つけていけるよう、引き続き模索していきたいと思っています。

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