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アーティストは地域において伝統と今をつなぐ役割を担える 藤田直哉×糀屋総一朗対談4

ローカルツーリズム株式会社代表・糀屋総一朗と、様々な分野で活躍されている方の対談。今回は、SF・文芸評論家で『地域アート――美学/制度/日本』などの著書もある藤田直哉さんとの対話を、4回にわたってお届けします。対談の最終回は、地域にアーティストが入っていくことの意味、果たせる役割についてです。

前回はこちら

「まれびと」としてのアーティスト

糀屋:今、大島では場所づくりを進めているんですよ。最近移住した井口真理子さんというアーティストがそこで創作活動したり、あとは島内で特殊能力を持ってる人たちに先生をやってもらって、ワークショップが出来るような場所です。

藤田:え? 特殊能力って、どんな方たちなんですか?

糀屋野草にめっちゃ詳しい人とか、蔓でバッグ作ってる人がいたり。そういうちょっと変な人がいるんですよ。

藤田:面白い!すごいですね!

糀屋:『MINAWA』の宿泊者や、島外からの人も参加できる形にしようとしています。それで島の人と外の人との繋がりとか、集まる人同士のコミュニティだとか。

藤田:場所とイベント的なものはとても大事ですよね。普段の立場とか地位とかシステムから離れた人間同士が自由に交流し合う非日常的、という意味でのイベントです。それができればこれまで出会わなかった人たちに出会いも生まれ、トラフィックが生じる。新たな知識や情報が出会えば化学反応が起きるかもしれない。

アートは利害関係がないからこそ、地域に入っていきやすいとも言える

例えば現代美術だと加藤翼さんがやっている「引き興し」というものがあります。被災地とかで、大きな謎の巨大な物体をみんなで引っ張って倒すとか、みんなで引っ張って起こすみたいなことを全国でやっているんです。昔あったお神輿と同じことで、集団で何かをやって体験を共有すると、それは一つの伝説になるわけです。それをきっかけに、みんなが話し始めたり横の繋がりができたりする。それを福島の被災地とかでやることによって、地域を失った人たちのコミュニティを回復するきっかけになる。人が理解しあうためのツールとしてのアートイベントというものも確かにあるんですよ。

糀屋:なるほど。

藤田:何か「わけわかんないことやってる人たち」を地域に送り込むことの意味って、僕はそこにあると思うんです。実際、島に移住したアーティストを見て、いかがですか?

糀屋:やっぱりみんな興味持っていますよ。今までそんな人、大島にいなかったんで(笑)。今は壁にいろいろ絵を描いているんすけど、みんな注目してるみたいで。

藤田:面白いですね。

糀屋:今度、子供たちに絵を教えますよという話になっていて、子供たちがキャッキャ言ってるみたいなことが起きてるんですよね。それってなんかちょっと可能性感じるじゃないですか。

藤田:「まれびと」みたいな感じですね。昔も「芸能」という形で地方によそから人が来るっていう図式があったわけですけど、そういう機能をアーティストが果たしてるんじゃないですか?

糀屋:なるほど。

藤田:他だと巫女の格好をしてるアーティストもいるんですよ。それはわざと「まれびと」として、自分目当てに人が集まるということを理解した上で、逆算的にそう振舞ってるわけです。そこは今のアーティストの新しい芸能的な機能ですね。

糀屋:なるほどなるほど。それはすごい実感としてわかりますね。

地域に根ざす伝統を、アートで作り直す

藤田:彼女の周りでは何が起きてますか?

糀屋:地元の人が野菜をくれたりしています。

藤田:(笑)。アーティストが地方に住むと、変な有機反応が起きることが多いんですよ。交流していくことによって、地元の人から引き出されてくるものもある。野菜をくれるだけじゃなくて、そのうち蔓の巻き方とか教えにきてくれたりするんじゃないですか?

糀屋:そうですね。1週間で野菜が来たので、あと2週間ぐらいしたら、何か違う……魚が来たりとか(笑)。もしくは何か一緒にちょっと作るとか。さっきのセーラームーンじゃないですけど。

アーティストと地域の関わり方について改めて考えさせられた

藤田:セーラームーンでもいいと思うんですよね僕はね。最初は。

糀屋:「うちの壁を塗ってくれ」みたいなこと言われたりとかすると、リノベーションの人みたいになっちゃう可能性もありますよね。そうなると、さすがにちょっと忍びないなって思いますよ。

藤田:あんまりにもそればっかり嫌になってくるでしょうけど、でも、ちょっとぐらいはやった方がいいと思うんですよね。

糀屋:大竹さんがやってるくらいなんだからね(笑)。

藤田:奈良美智さんも青森でいろいろ活動しているし、身近な日本の土着的な中に根ざすようなアートをもう1回作り直すってのは多分地域アートのコアだと思うんですよ。

糀屋:その発想は僕は希薄だったかもしれないです。どっちかっていうとそういうことに対してはちゃんと拒否をしていかなければいけないんじゃないか、みたいなことをちょっと思ってたんですけど。やっぱりバランスですね。

藤田:だから逆にそこで得たものを、ホワイトキューブ(美術館などの展示空間)に持ってきたりすると、面白くなったりするわけです。多分、大竹伸朗さんも今度の東京国立近代美術館では、地方の朽ち果てた建物みたいなものにあるセンスを持ってくると思うんですよ。アーティスト側にもローカルに関わることに絶対メリットがあるはずなんですよ。美術の歴史の中で形にされてない何かをそこで見出すことができれば、それは美術史的に評価される可能性があるんです。それは同時に固有の価値として地域資源にもなる。

糀屋:大島の井口さんも、宗像大社と一緒に今何かやりたいと言ってるんで、そこは繋げたいと思っています。

古くからの歴史がつながっている大島だからこそできることもあるはずだ

藤田:それは面白いですね。地域に関われば多分、地元の人たちから「こうじゃない」「そうじゃない」「これを体験しろ」とかいろいろ言ってくると思うんですよ。そしてどんどん深いところに入っていくことによって、明かされてなかった物が見つかってくるかもしれないですよ。

東北芸術工科大学が、東北をモチーフにした絵を学生中心に作っていこうということで「東北画は可能か」ってプロジェクトをやっているんです。学生たちも山の上の修験道の聖地みたいなところに泊まりに行ったりして、地元の旧い文化と接続する回路を作りながら作品を作っているんです。そういうことは、宗像大社でも起きてくるはず。

糀屋:「この祭りにこなくちゃ駄目だ」とかね。

藤田:そうです、そうです。アーティストって利害関係があんまりない人たちだから、みんな素直に教えてくれたり面白がってくれると思うんですよね。僕はそれが楽しみです。だって、世界遺産の宗像大社があるような場所で、地元の宗教共同体の人たちが教えてくれるって、深いレベルで文化人類学的な価値があるわけです。それを現代的な美術として形にしたものって絶対価値が出ると思いますけどね。それが成功したら、その作家の作品を集めたミュージアムだって成立するかもしれない。

糀屋:あり得ると思います。正直、不安なところもあったんですが、お話を伺っていて思い直した部分が色々とあります。

藤田:20世紀にいろいろ設計主義的な経済の試みがあって、現実には失敗もいろいろあったわけです。建物とか事業とかになると、金銭的にも何度も何度も回せないところがある。でもアートは、失敗したらまた作ればいい。

糀屋:確かにおっしゃる通り。それはありますね。

藤田:駄目だった! じゃあこれはやめよう! という試行錯誤ができる。逆にアーティストはお金や事業計画などには無頓着なので、そこの住み分けをすることで、アーティストにも投資側にもお互いに利益があると思うんです。

糀屋:自分がやっていることに確信が持てました。何か間違ったことしてるんじゃないかって今日まで思うこともあったので、少しほっとしました。

藤田:そう思われるときもあるんですか?

糀屋:「エリートを育てる」みたいなことを言うと「ファシストか?」みたいなこと言われがちじゃないですか(笑)。僕は「そういう意味では使ってない」ってことをいちいち説明しなきゃいけない。ただ、あまりに言われると「もしかしたら、そういうことをしてしまってるんじゃないか」とか不安になることは多いです。地域創造、社会創造みたいなことって破壊と表裏じゃないですか。根本的には不安なんですよ。

藤田:わかります。それは僕もあります。何かを作り変えたり、何かやっていく人の恐怖と不安と孤独ですよね。僕も「どうしたらいいんだろうな?」と思うんですが……先行研究を見てみると大体、神頼みになっちゃってる(笑)。だって根拠がないんだもん。

合ってるか合ってないかは、誰にもわかんないんですよ。だけど、やるしかないと思ったらやるしかないし、それはもう正しいことであってくださいと祈るしかないのかな? っていうふうに僕は思いますけど(笑)。

糀屋:(笑)。最後は祈りかもしれないですね。本当に今日はありがとうございました!

藤田直哉
批評家。1983年札幌生まれ。東京工業大学社会理工研究科修了、博士。日本映画大学准教授、『新世紀ゾンビ論』(筑摩書房)『シン・ゴジラ論』『虚構内存在 筒井康隆と〈新しい《生》の次元〉』『攻殻機動隊論』(作品社)、『シン・エヴァンゲリオン論』(河出書房新社)。 編著に『地域アート 美学/制度/日本』(堀之内出版)、『3・11の未来 日本・SF・創造力』(作品社)など。

(構成・齋藤貴義 編集と撮影・藤井みさ)

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