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福岡県宗像市大島へ移住した画家 創作がはかどった4ヶ月目

月1回のペースでお送りする、「Oh!! 島セキララ記」。京都から福岡県宗像市の大島に移住した井口真理子さんが、島に移っての「セキララ」な日常を綴ります。創作が充実し、島との対話も進んできた移住4ヶ月目の9月を振り返ってくれました。

一粒の種が、少しずつ根を伸ばし芽を出し

大島に来たばかりの私は、言うなれば、一粒の種だった。

植物の発根は外側からは見えないが、まさに根幹を成す大事な成長過程だ。
私は初めて入る「大島」という土の中で、右往左往しながら、少しずつ根を下ろしてきた。

たとえば、虫との戦いにあれほど腐心していた自分が、今はよっぽど大きな虫ではないかぎり、ある程度は見過ごし共存できるようになってきた。(「まぁ、いっか」って大切......)

また、移住後まもない頃は家の中がカオスでストレスを抱えていたが、思い描いていたイメージがDIYを進める中でだんだん現実となり、コスモスを感じられる空間になってきた。やっと、部屋と自分との呼吸が整ってきて、パーソナルヘヴンに近づいてきたと感じる。(パーソナルヘヴンとは自身の造語で、「自分にとって極楽な空間」を指す)

床の間には作品「CANDY CLUB」を展示している

制作面でも、移住直後に壁画「PRISM」を描いたことで、少しずつ根を張れたように思う。その後の制作もだんだん軌道に乗ってきて、ようやく、大島でのアーティスト活動という芽が出てきた。内外において、ようやくその成長過程が見えてきたかな、と感じる。

次第に生まれてきた「道具たちとの対話」

芽というのは、アトリエでの制作も含まれる。
アトリエと自分の息があってくる、というのか。環境が整い、作品を生み出す空気感が出てくると、次第に道具たちとの対話が始まるのだ。

道具には、いろいろある。
アナログであれば、鉛筆、紙、絵具、キャンバス、筆、工具、と無尽にあるし、デジタルであればPhotoshopやIllustrator、今ならiPhoneなども。
これらの道具と仲良くなることが、創作がはかどるポイントだと私は考えている。

職人≒創作の神に仕える職人という意味での芸術家には、身体的な技術だけでは不十分で、道具を使いこなす≒仲良くなることが欠かせないからだ。
仲良くなると、対話ができるようになり、道具たちが一丸となり、あれやこれやと創作方法を提案してくれる。手が、その道具と懇意でなければそうした仲にはなれず、そのために必要なことは、まずはやってみる、使ってみることだ。

座学と実学、両方大事だけれど、創作においては、この「やってみる」という実学がより大事だと思う。

私がまだ出会っていない道具も、世の中にたくさんあるだろう。
これからもひとつずつ使ってみて、仲良くなっていきたい。

絵を描く時は心地よい孤独な時間だ

ただし、道具はあくまでも道具なので、肝心なのは、イメージだ。これを、この世に現したい、と強く想う何かである。それには、想像力が必要だ。その想像力がエンジンで、道具は車体のようなもので、この二つが組み合わさって走っていく先に、イメージが出現する。手は、読んで字の如く運転手となる。

こんな感じで、走っていくとイメージが出てくる。

アートと伝統が融合した大漁旗「MOVE ON」

今回、新たなアートプロジェクトとして、「オリジナルアート大漁旗」を制作した。大漁旗とは、新たに造船された際のお祝いや、縁起物として使われているもので、通常、船名や「大漁」という文字等が入っている。

私の住む福岡県宗像市大島では、毎年10月1日に「みあれ祭」という宗像大社のお祭りがある。神様を載せた漁船のほか、200隻近くの漁船が玄界灘を疾走する、豪快なパレードが催される。当日は各漁船に日章旗と、それぞれの大漁旗が掲げられるのだが、ここに私の作品を旗にして掲げよう、というのが、今回のプロジェクトだ。

大漁旗はとにかく派手で、日本固有の縁起の良い様々なモチーフと海らしさが満載である。その中でも欠かさずあるといってもよいモチーフが、「旭」「波」「魚」である。

今回、私はそこから着想を得ながら、オリジナリティーを潜ませることに成功した。

メインとなる部分は、自身の創作テーマである「NEW PEOPLE(=創造的未来人)」であり、派手なフンドシを身につけている。背後には旭にも見えるが実際には宇宙信号的な光線が差している情景だ。

大漁の魚と見せかけたSPITUNE(=創造的妖精)を手に纏い、口からふっと吐き出すNEW PEOPLEを担ぐ波は、実はSPITUNEの波形(=創造的波動)となっている。

タイトルは「MOVE ON」大島/宗像の神様と一緒に、創造的な未来へMOVE ON、という想いを込めた。

初めはアタマから手に、「イメージ」を紙の上にのびのびと走らせる。道具たちと対話を楽しみながら、いろんなアイデアを出し合う。そこで、次のイメージが出てくる.......という風に繰り返して、photoshopやIllustratorを使って作画していく流れになった。

それでできたのがトップ画像の作品である。

島の方々にできたデータ画像をお見せしたところ、想像以上に好評で、「ぜひやろう!」というような前向きなコメントを多数いただけたのが嬉しかった。また何より「これは今まで見たことない」という反応が多く、アート旗が掲げられるのは恐らく、みあれ祭史上初らしい。誠に光栄である。

大漁旗制作の業者さんにも迅速かつ、綺麗に染めていただき、無事大漁旗が完成した。

横200cmx縦120cmのアート大漁旗「MOVE ON」

大漁旗を制作するだけではなく、それを掲げてくださる船を探すことも同時に進めた。

ローカルツーリズム社の大島現場監督であるもりさんが定期的に主催する「BAR LIGHT HOUSE」で島のママさんたちと親睦を深めたり、飲食店で漁師さんたちと交流するなどしながら、ご縁をいただく。

最終的には、第二宮一丸さまに掲げていただけることになった。
また当日は、糀屋さんがプロの撮影部隊を召喚くださることになり、とても嬉しい。(記録するって大切......)

女人禁制の厳かな祭事につき、私は乗船できずもどかしいが、頼もしいエキスパートの方々に全てを託している。当日はフェリーターミナルからお見送りする予定だ。

新たな創作も

9月はこの大漁旗のほかに、一棟貸し宿「MINAWA」のためのアートワークの依頼もあり、制作した。新たな、「スーパー余白」というシリーズである。

新しい技法でのテクスチャ作りを試み、結果的にMINAWAの由来である「水泡(みなわ)」を彷彿とさせる仕上がりとなった。

通常、余白といえば「モチーフありきの余白」であることが多いが、こちらは余白がメインというか、余白を初めから対象として逆算して描いていくプロセスとなる。

写真だと一見、淡く薄く見えるが、実物は仄かな奥行きがあり、10層以上塗り重ねてできている。

タイトルは、「IN MINAWA」

そこに、なにやら一点、ポツンとある。
それは、あたかも無限の宇宙に滴る、一雫の有限である。石。
SPISTONEという、自身の石作品である。

この石作品は糀屋さんが以前、購入くださったもので、MINAWA室内にさりげなく展示されている。

今回はこのSPISTONEを、この余白をスーパー余白たらしめる、無限を生み出す有限として描く、という試みで、実寸をつぶさに描写するように努めている。

余白は贅沢であればあるほど、よいのかもしれないな。なんてことをふつふつと思う。

このシリーズも今後、深化させ継続していきたいと考えている。

***

そういえば9月は、大型台風が二度も大島を直撃した。
家が壊れるのではないかという程の暴風雨に怯え、不眠不休の心細い夜を過ごしたものだ。

離島で、一軒家で、相方不在時に一人きりで史上最大級の台風を体験したことで、私はサバイバルレベルを一段上げたんだな。と、いうことにしておこう。

まだ養生テープが貼られたままの窓を開け、ふと空を見上げると、秋風に吹かれて鰯雲がどこまでも広がっている。

2022年9月29日
井口真理子

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