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これからの地域に必要なのは「楽しさ」と「手を取り合うこと」 谷口竜平×糀屋総一朗対談3

ローカルツーリズム株式会社代表取締役の糀屋総一朗と、地域で活躍する方の対談。今回は、福岡県宗像市にオフィスを構えデザイナーとして働くかたわら、地域のコミュニティづくりなどにも関わっている谷口竜平さんです。対談の最終回は、地域で「何かをするとき」に重要な考え方と、今後の地域が向かうべき方向についてです。

「飲む」「時間を共有する」が1番の近道

糀屋:谷口さんはずっとローカルでやってらっしゃいますが、地域で何かをおこしていく難しさはあると思うんですよ。それを克服していくポイントってどういうところにあると思いますか?

谷口とりあえず地元の人と酒飲むことですね。まずそこからみたいなところは、あると思います。向こうから誘ってくれたら絶対に断らない。1回飲んでたら割とお願い事ととを聞いてくれるみたいなことはありますよ。「一緒に飲んだけん、わかった」みたいな雰囲気があったりする(笑)。

昔は人の家に行って飲み会をやる「寄り合い」っていうのがあったんですけど、それが今はほぼなくなってしまった。それは女性陣の負担が大きかったりとか、やはり核家族化が進んでいたりとかいろんな理由があるんですけれど……でも、何か体験を共有するみたいなことって田舎の人のDNAとしてあるんだと思いますね。

神事などの祭りも地域では重要な要素の一つ

さっきの祭りの話と同じで、地域には「一緒に何かやるというDNA」みたいなものがまだまだ残ってる。大島に行くと仲のいい方から「今日泊まらんとね」とか「今日、飲めんとね」ってめっちゃ聞かれるんですよ。そう言われるってことは、もうだいぶ距離が縮まってるってことなんですよ。だからそう言われるのは嬉しいし、できる限り一緒に飲むようにしています。

糀屋:マジでそうですね。僕はそこでなにをするか? という内容ではなくて、形式が大事な一局面だと思っています。あとは草むしりをしたりして、頻繁に顔を出し「ここにいるよ!」っていうのをアピールするのもけっこう大事

谷口:たしかにあります(笑)。

魅力的な地域だといかに気づき、伝えていくか

ーー糀屋さんがいま大島や宗像市について気になっていることはありますか?

糀屋:実は今日、駅からここまでタクシーで来たんですけど、車にナビがついているにもかかわらず、運転手さんはナビが使えないんですよ。それで本部に無線で連絡とかしてて……こういうところから変えていかなければいけないんじゃないか? って感じました。そういうちっちゃいところが実は重要だと思ってるんですよ。サービスとか、ホスピタリティっていうのは、全体で取り組まないと駄目なんだって痛感していますね。

谷口:それ、地域にある課題のコアの部分かなって思いますね。宗像って9万7000人の町で、それなりの規模があるので、市内での商業で成り立つみたいなところはあるんです。外から何か頑張って引っ張ってこなきゃいけない、というハングリーな感じはない。市内の事業者さん、飲食店の人とかも地元のお客だけ見てるってところがあるんです。

でも、隣の福津市は5万人ぐらいの町なので、ちょっとガツガツしてる感じがある。市内だけの需要だけではちょっと足りないんです。5万人よりも低い人口の地域は、もっとそうですよね。でも、ある程度足りていると、「外のお客さんを呼び込もう」「自分たちで頑張ろう」という気持ちが薄くなってしまう。せっかく宗像っていう価値があるんだから、もっと頑張れるんじゃないか? という思いはあります。伊勢と比べても負けない歴史がある地域なんですから。

歴史、自然……ポテンシャルは充分だ

ーー歴史好きにはたまらない場所で、ポテンシャルはあるのにもったいないですね。

谷口:そのあたりは地元の人たちも気づいてなかったりするんですよ。地元の宿泊施設での話なんですが、東京から来たお客さんから「宗像の観光ってどこですか?」って聞かれて「ないですねえ。太宰府とかに行ったらいいんじゃないすか」と答えてて……。駄目じゃん! もっと何か出してよ! って気持ちになるんですよ。いいところがたくさんあるじゃん! って。

世界遺産にもなっている宗像大社があって、福岡県内でもトップクラスの漁港がある。農業も盛んで「あまおう」の生産量も多い。一次産業がすごい豊かなんですね。さらに、経済圏的には北九州と福岡市のちょうど真ん中にあるので、両方の街のベッドタウンでもあるから所得も割と高い。いろんなものが既に整ってるんですよ。道の駅も九州でナンバーワンの売り上げ。

全体的にアベレージが高いから、突出して「これを売っていこう」みたいなところがないっていうのもあるのかもしれないんですよ。恵まれてるがゆえ、甘えてる部分がある。いいものがたくさんある、っていうところを外からくる人たちにどう表現するのか? っていうところは、宗像の課題だと思います。

ーーもともと宗像市民から見た大島はどのような印象なんですか?

谷口:親戚がいないと、釣りに行く人くらいしか行く理由がないところですね。近すぎるから、ということもあるんでしょうね。ドライブだったら、福岡市内と砂州でつながっている志賀島に行っちゃう。大島にはどっちかといえば、市外の方のほうが興味を持ってくれるかな? っていう感じです。でも市外の人から興味を持ってもらった方がいいんですよね。外の人が「いい」って言えば市内の人を動かすことができそうだし………。今、宗像の一部には『MINAWA』を知ってる人が出てきていて「高いけど泊まってる人多いらしいね」みたいなところから関心を持ってくれるんですよ。

「外の人」に関心、興味を持ってもらうことも近道となりうる

糀屋:興味を持ってもらうって、そういうところからかもしれないですね。一方で僕が大島でやってるのは、魅力的な仕事をどんどん増やしていくこと。そういうことを、いろんな地域で始めてるんですけど、それによって地域の所得も増えるし、大島にも働き口やチャンスがありそうだってこともアピールしていけると思います。

地域創生としては小さいところからのスタートですけど、そういうところが大事かなって思っています。地域創生というといろんな定義があると思うんですけど、谷口さん的にはどんなことを考えていらっしゃいますか?

今後重要なのはグラデーションを帯びた広域連携

谷口:糀屋さんの言う経済的な部分は大事だと思っています。地域の産業が安い値段で買い叩かれていくみたいな部分があるので、『MINWA』みたいに都市部から高所得者がやって来るような、単価の高いところを作らないと雇用も生まれない。

それに加えて新しいものを始めるためには、結局「人」だなと思うんですよ。月並みな言い方になっちゃうけど、町を作っていくのは人なんですよ。魅力的な人、活力のある人たちがいないと町って衰退してしまう。そういう人たちがその地域にいてくれたり、来てくれたりするのが一番大事だって僕は思ってます。これは宗像だけの話じゃないんですよね。これからは一市町村だけでは全部を賄いきれない地域が増えてくるでしょう?

ーーということは、地域同士が連携していかなければならないということになりますね。

谷口:はい、広域連携が非常に大事になってくると思うんですよ。例えば、隣の町には総合病院があるけど、こっちの町にはない。そういう時は連携させることが必要になる。お隣同士の町にそれぞれに似たような施設があって維持が難しければ、片方を潰して共同で運営するということもあるでしょう。農作物もそうだし、防災に関してもそう。広域で考えていかなくちゃならない部分もあると思います。

ある程度お金があった時代は行政区域で割っていましたけど、これからはボーダレスというか……区切りがグラデーションになってるというか………。それぐらいの感じで連携していくことが大事だなあと思っています。

糀屋:なるほど、それも考えなきゃいけないですね。

谷口:だから、隣の町とは仲良くしていく。「困ったときに醤油を貸してくれるお隣さん」みたいな感覚で協力し合うことがより大事になってくるんじゃないかなと思いますね。地域同士が好敵手みたいなライバルであるのはいいことだけど、常日頃、自治体レベルでも、民間レベルでも良い関係性は作っておく必要があると思います。

イベントをやるにしても二つの町が連携してやることで、もっとでかい規模のものになったりする。遠くから人が来て、ちゃんとお金を落としてくれる。そういうことを実現させるためには、ある程度のマンパワーがないとでできないからですね。

それで、今、僕は近くの古賀市の方達と仲良くさせてもらっているんです。一緒にイベントやろう!って。市長が面白い人で「いろんなものをクロスさせる」っていう考え方なんですよ。もちろん地域の「守るべき」良いところは「しっかり守る」。地域にとっては「利益」だけが目的じゃないと言うことですね。残したいものはやっぱりある。それを排除して目的を達成させたところで「だったら、その地域じゃなくていいじゃん」っていうことになるんですよ。上手いさじ加減でやっていくべきですよね。

コミュニティのつながりを維持しつつ、どう未来を考えていくか

糀屋:地域で活動してるときにそれは思いますね。僕みたいな起業家とか投資家とかって、やっぱちょっと卓越主義的なところがあるから、目的を達成するためにいろんなものを動員して、いろんなものを犠牲にして、結果、周りに屍が散らばるみたいなことにもなりかねない。それは本末転倒な話になるんですよね。ビジョンとか目的とかすごく大事なんですけど、そこ一点にお金とか人を動員し始めると、小さいコミュニティは崩壊しちゃうかもしれない。そういう意味でのバランス感覚は必要になってきますね。

谷口:そこは、難しいところですよねえ。これは……言葉で説明しづらいなあ。隣のおばあちゃんとかが「息子が帰って来るかもしれない」みたいなことをいまだに言ってるんすけど、正直な話……多分戻ってこないんですよ。

糀屋:ああ………。

谷口仕事のこと、家族や子供たちの未来のことを考えたら、やっぱり田舎よりも都市を選ぶっていうのが現実的だろうなと思うんです。でもそうやって地域の人口が減り、ローカルのインフラを維持していくっていうことが難しくなる。そういうことをいろいろ考えると、残っていく地域、残れない地域って絶対出てくるんですよ。それで、隣のおばあちゃんの話を聞くとなんて答えていいのかな……ってすごい考えちゃいますね。

つきあいの長い2人だからこその突っ込んだ話もできました

糀屋:宗像市って行政単位で見たら、いろいろ不便はあるけど、補助金も入ってれば年金も入ってるんで、実は貧乏なところでも何でもなく、みんなそれなりに豊かに生活しているんですよ。だから現時点で、大島、宗像市の人にとっては、僕みたいに地域創生がどうのこうのとか言っている人間はいらないと思われているのかもしれない。

でも、将来のことを考えていくと、自分たちで地域を良くしていこうっていうメンタリティは必要だと思うし、それを発信する人間がいないといけないんじゃないか? とは常々思っています。今日は話を聞いて、さらに頑張ってやっていこうって思いましたよ。あと谷口さんには、宗像市長になっていただいて、どんどん変えていってもらいたいなって思いました(笑)。

谷口:そうかあ(笑)。

糀屋:谷口さんを見てて思うのは、みんなと仲良く酒を飲み交わすみたいなところの重要性。もっと楽しむ面は本当に大事だなということですね。真面目なことをやっていくのも大事だけど、楽しくみんなで一緒に何かする。そういったことを起点にした街作りみたいなものを打ち出していければなって思いました。

構成・齋藤貴義 写真提供・谷口竜平


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