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Diggin' the invisible local. 歴史をdigるとまちは見え方が変わる

どうして池袋に?

ついこの間、池袋駅西口にある「千登利」へ行きました。
お隣のロサ会館の伊部さんに教えていただいた池袋のやきとんの老舗。絶品のやきとんに舌鼓を打ちつつ、ハイボールを飲みながら、ちょうど1年くらい前のことを思い出しました。

僕の住んでいる東京都豊島区の池袋駅周辺では、昨年「東アジア文化都市2019豊島」が開催されてて、メインプログラムの一つとして「Oeshiki Project ツアーパフォーマンス《BEAT》」が上演され、僕は空間資源活用ディレクターとして制作に関わってました。このプログラムは池袋駅の西口に居住している多くの中国人をはじめとしたアジアの国々からの移住者(移民)たちが池袋駅の西口エリアでもう一つの新たな御会式を立ち上げて、ツアー体験者とともにまちをパレードしながら、JR山手線や駅で分断された池袋駅南東エリアの雑司が谷の本物の御会式にジョインして最後は一緒に鬼子母神にお参りするという、大都市池袋を舞台にした壮大な移動型の演劇体験でした。

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この制作期間中、池袋西口のエリアを何度も訪れては、普段とは違う目線でまちを見て、まちの雰囲気を肌で感じたりしながら西池袋のまちの実態をリサーチし、ツアーパフォーマンスに会場として使えそうな広いスペースを探していました。そんな中でロサラーンドの伊部さんにもロサ会館の地下のスペースをお借りできることになり、すごくお世話になりました。

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さて、そんな風にリサーチを重ねる僕に、ふと「そもそもどうして池袋に中国人は集まったのだろう。」という素朴な疑問が湧いてきました。東京の数あるエリアの中でなぜこの西池袋だったのか。

風水的な意味合い?
先駆けとなった人たちのアクション?
渋谷でも新宿でもなくなぜ池袋なのか?

ちょうど昨年、ビジネスの相談で北京に招かれて、東京の大学で東洋思想史を専門に研究されている日中文化や歴史に大変造詣が深く博識な中国人の先生(その先生も西池袋にお住まい)と何度もお会いする機会があったので、思い切って先生に「どうして中国の人たちは池袋に来るんですか?」と聞いてみたのでした。

そうすると先生は「嶋田さん。僕たち中国人にとって池袋は、文化の香りがするんですよ。」という思いもよらない答えが返ってきたのでした。
それから先生は僕の知らなかった池袋を教えてくれました。

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宮崎滔天が暮らした西池袋

先生は戦前の革命運動家・宮崎滔天が西池袋に住んでいたことを教えてくれました。
宮崎は明治3年に熊本で生まれ、明治30年に孫文と知り合い、池袋で亡命してきた孫文や蔣介石をはじめとしたアジアの革命家たちを支援したした革命運動家です。1914年(大正3年)に黄興の支援で建てられた旧邸は今も西池袋(当時は高田村)に残っており、子孫のご家族が暮らしているそうです。ちょっと話は変わりますが、この宮崎滔天の長男は、飯塚の炭鉱王・伊藤伝右衛門の元妻柳原白蓮と駆け落ちし前代未聞のスクープ事件(白蓮事件)で知られる宮崎龍介であります。

そんなことを思い出しながら、千登利でのやきとんはすっかり食べ終えたのでお会計を済ませて、徒歩1分の「新珍味」へ。実はこのお店も中国・台湾との縁が深い。やはり昨年のリサーチの最中にネットで見つけた衝撃的な記事で知りすっかりとファンになってしまいました。

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ここは戦後、中国からの独立を目指す台湾の独立運動を支援した史明が開いた店。残念ながら史明は昨年9月にお亡くなりになってしまったのですがお店は健在。武力革命も辞さないスタンスで台湾独立を目指していた史明の活動拠点として新珍味では、革命勉強会を開催したり、店の台所の一部を改造して、日本赤軍のメンバーからアドバイスを受けながら黒色火薬や塩素酸ナトリウム、爆薬火薬などを調達し爆弾を作っていたこともあるといわれています。かつては、あの武者小路実篤も通ったとか通わなかったとか。そんな新珍味で生ビールにネギザーサイ、それからタコのウィンナーを注文。

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池袋のまちが中国の革命や台湾独立とこんなに深くつながっているなんて、想像だにしませんでしたが、宮崎が暮らし、孫文も身を隠し、史明が独立を指揮した池袋に、その後多くの中国の人たちが引き寄せられるようにやって来て、根付くようになるというのは、ある意味で歴史の当然の帰結でもあると思います。

池袋駅北口を出て歩きながら注意深く観察すれば、カラオケ屋さんは中国の若者やファミリー向けのカラオケだし、中国人留学生向けの携帯ショップや日用品雑貨屋さん、ビルの中の料理店なんかは裏口の鉄の扉が半開きになっていて中の厨房を覗き込むことが出来たりするのですが香港の裏路地で見かける料理店の厨房そのまんまの雰囲気(ジャッキーチェンが出てきそうな)を垣間見ることも出来ます。

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昨年一緒にOeshiki Projectの制作に関わったアーティストのひとりは、こんな都市の様相を評して「見えない中華街(Invisible China Town)」と表現していて、なるほどなと思いました。

世界各地のいわゆる中華街と違って、池袋は建物というハードはどこにでもある普通の日本の都市の風景なのですが、ビルの中は中国の人たちが営む様々な中国人相手のコンテンツで埋め尽くされていて、中身のソフトを見れば紛れもない中華街です。

そこにはまさに、今日的な都市のコンテンツの変化を見出すことができ、都市の役割の変化を肌で感じることが出来ます。

僕は産業史の中での都市の役割の変化に興味があります。都市やエリアのリノベーションにおいて、ハードウェアとしての建物と中身のソフトウェアとしてのコンテンツはどちらもその地域の産業の歴史に深く根ざしていたはずです。

ソフトコンテンツの変化とハードウェアストックはそれぞれ変化のスピードが違うので、ギャップが生まれる。そこに都市やエリアのリノベーションのチャンスがあります。

池袋の見えない中華街化は、すごいスピードとエネルギーでソフトコンテンツが変化している状況で、僕は、そういう視点で自分の住んでいるまちを眺めて都市の変化を捉えるのがすごく好きだし面白く感じます。恩師の小嶋一浩はいつも「都市は人間の欲望の塊」って教えてくれたけど、今の東京・池袋にはまさにそういう欲望のエネルギーによる変化を感じます。

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加えて、中国の先生から教えていただいた池袋と中国との歴史的な繋がりを知ったことで、僕は、自分が普段持っている池袋の北口・西口に対するイメージやメディアで語られるのとは、少し違う切り口で見られるようになり、すごく新鮮でした。(東京の新しいチャイナタウンー池袋)。

12年くらい前に池袋を中華街にしようという構想(拡散する新チャイナタウンの実態)があったといいますが、そんな構想を大々的に叫ばなくても、都市の文化とソフトウェアは年月を経て着実に変化し、僕たちの暮らしの中に根づき始めているのだと思うとともに、普段見えない生態系に触れたような気分になりました。

さて新珍味を後にします。

グローバルインフラが分断する都市のコミュニティ

最後の締めは無性に沖縄そばが食べたくなったので、沖縄料理屋の「首里城」へ。ここも地元の常連で賑わうお店。

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ところで、お会式プロジェクトに話を戻すと、西池袋で中国人の人たちをはじめとしたアジアや世界からの移住者が新しいお会式を立ち上げて東池袋の公園までパレードして、雑司ヶ谷のお会式に合流するというツアーパフォーマンスなのですが「西口で立ち上げ、東口に行く」というのが物理的にものすごく困難であることが分かったのでした。

池袋駅、南のビックリガードから北の跨線橋まで、おそらく800メートルくらいあると思うのですが、その幅800メートルで人が行き来できる箇所がビックリガード下、ウィロード、跨線橋の三カ所しかないんです。
だから西口で御会式を立ち上げられない。
万灯も移動も大人数では難しい。駅で東西はつながっていても駅の地下道を御会式集団は通過させてはもらえなません。だから公共的空間だと思っている駅も、こういう時には全く公共性を持っていると言い難い場所になってしまっていると感じました。

プロジェクトの集団パフォーマンススペースとして場所を提供いただいた、西池袋の平舎の深野さんから聞いたお話によれば、昔は西池袋にも御会式のに参加する人たちがいたけど、最近ではほとんど見かけなくなったということでした。

鉄道は便利な都市のインフラだけど、この鉄道の線路と駅によって生まれた池袋の西口と東口の物理的な分断が、お会式コミュニティを崩壊させてしまったのではないかと、これは地域のコミュニティにとっては絶望的な分断だと思いました。

ハイウェイによる分断が都市のネイバーフッドコミュニティに壊滅的な影響を与えるというジェイン・ジェイコブズに学ぶまでもなく、僕たちが暮らしているこの足元のまちの目の前で、まさに起きていたことなのだと。

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見えない歴史をdigるとまちは見え方が変わる

そんなことを考えながら沖縄そばを平げた後、最後は喫茶店「炭火焼珈琲 蔵」で自家焙煎のブレンドコーヒーをいただきながら1日の振り返り。

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今日のお店、千登利、新珍味、首里城、蔵は全て徒歩1〜2分の圏内。池袋西口のチャイナタウンのすぐ脇のエリアでこんなに地元民と触れ合えて歴史と文化の息づくお店の集積が西池袋の魅力でもあります。

さて、皆さんもローカルダイブの楽しみを、まずは自分の住んでいる足元から探ってみてはどうでしょう。見えない歴史を掘ってみると、自分の住んでいるまちは全く変わった様相に見えてきますよ。
(嶋田洋平 /LOCAL DIVER)

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