Local Craft Market / Online β - TALK イベントレポートvol.1:「ポストコロナ時代における産地の役割と展望」
Local Craft Market 運営事務局の高木です。
2020年5月16日、17日の2日間に渡って「Local Craft Market / Online β」が開催されました。「場所を超えて、作り手の想いにふれる、ローカルがつながる」というコンセプトのもとで企画がスタートしたのは、なんと4月30日。わずか20日間足らずの準備期間ではあったものの、計20社以上に出展いただき、300名以上の来場がありました!
こちらのnoteではオンライン・マーケットと並行して行われた4つのトークイベントの模様をひとつずつお届けしていきます。テーマによって、ローカルクラフトにおける登壇者の立ち位置も異なります。つくり手の方、プロデュースにたずさわる方、これからローカルに関わろうとしている方、それぞれの立場でご自身の状況と重ねられる内容が盛りだくさんです。各イベントはアーカイブされていますので、もっと詳しく知りたいという方は、こちらから動画をチェックしてみてくださいね。
「ポストコロナ時代における産地の役割と展望」
登壇者のお二方は、オンライン・マーケットの出展者でもありながら、アドバイザーやクリエイターといった、つくり手を支える立場としても、ローカルクラフトに関わられています。新型コロナウイルスの影響で生じた、あるいは加速した変化に、産地として、産地を支える立場としてどう向き合っていくのか。多面的な携わり方をしているお二人ならではの、本質に迫るトークセッションとなりました。本レポートでは印象的だったシーンやコメントを抜粋しながら、その模様をお伝えしていきます。
「登壇者プロフィール」
西堀 耕太郎 株式会社日吉屋 / 株式会社TCI研究所 代表取締役
1974年、和歌山県新宮市生まれ。高校卒業後カナダに留学。帰国後地元市役所勤務を経て、結婚と共に老舗京和傘工房「日吉屋」の5代目を継ぐために和傘職人の道を選ぶ。2003年株式会社日吉屋代表取締役に就任。インターネット販売やメディアと連動した新しい京和傘のブランディングや、各分野のデザイナーやアーティストとのコラボレーションに取り組む。2006年照明デザイナー長根寛氏達と開発に取り組んだ和風照明「古都里-KOTORI-」シリーズを発表。グッドデザイン賞特別賞、新日本様式100選、FORM2008、iFプロダクトデザインアワード(ドイツデザイン賞)等を受賞。「グローバル老舗ベンチャー」を標榜し、国内外で活動中。2012年日吉屋で培った経験とネットワークを活かして、日本の伝統工芸や中小企業の海外向け商品開発や販路開拓を支援するTCI Laboratory(現:株式会社TCI研究所)を設立、代表に就任。延べ約500社以上の企業の新商品開発や海外販路開拓を支援。2018年にはJAPAN BRAND PRODUCE SCHOOL設立。日本の地場産業や伝統工芸にデザイン・クリエイティブを取り入れ、商品開発・販路開拓を手がける地域プロデューサー育成にも取り組む。
日吉屋:www.wagasa.com
TCI研究所:www.tci-lab.com
堀内 康広 トランクデザイン株式会社 代表取締役 / クリエイティブディレクター
2009年に「トランクデザイン」を、神戸垂水・商大筋にオフィス&ショップをオープン。2018年4月には印刷会社である有限会社グラミックプロセスを事業継承し3代目として就任。地場産業のプロデュースやブランディング、百貨店広告などのディレクションやデザインを幅広く手がけ、2011年には兵庫県のモノづくりを紹介する「Hyogo craft」を立ち上げ、兵庫県の間伐材や地域材を活かしたオリジナルプロダクト「森の器」、播州織の職人とつくるアパレルブランド「iRoDoRi」・「megulu」、淡路島のお香メーカーともに日常で使えるお香ブランド「Ku」「Daily」も手掛ける。2018年台湾のデザインアワード「Golden Pin Design Award」3プロジェクト入賞、1プロジェクト最優秀賞受賞。2019年 GOOD DESIGN AWARD グッドデザイン・ベスト100 / グッドフォーカス賞(中小企業長官賞)を受賞。Local Craft Marketの発起人の一人。
トランクデザイン:https://trunkdesign-web.com/
澤田 哲也 ミテモ株式会社 代表取締役
採用コンサルティング会社を経て、2007年社会人教育・研修を手がける株式会社インソースに入社。5年間で述べ300社の民間企業に対して、次期経営人材育成や組織変革をテーマに人材育成プログラムの企画・設計に携わる。また、新規事業開発にも取り組み、2012年にミテモ株式会社の事業開発を担当、同年 代表取締役に就任。オンライン教育サービスやデザイン思考をベースとした新規事業・商品開発プログラムをはじめとした多種多様な育成支援事業を立ち上げる。また、2016年から全国各地の地方自治体との連携による事業創出・商品開発・販路開拓・デザインイノベーションのための教育事業に取り組む。2018年にはJAPAN BRAND PRODUCE SCHOOL設立。日本の地場産業や伝統工芸にデザイン・クリエイティブを取り入れ、商品開発・販路開拓を手がけるプロデューサー育成に取り組む。
ミテモ株式会社:https://www.mitemo.co.jp/
「コロナウイルスで、時計の針は一気に進んだのかもしれない」
まず、基調講演として西堀耕太郎さんから、日本で進んでいるマクロ的な変化と、新型コロナウイルスが経済に与える影響を踏まえ、いま感じていることをお話しいただきました。
マクロ的な変化や影響と、取り組むべきことをざっくりまとめてみると…
・国内の人口減少と高齢化が進む一方、世界の人口は100億人に向かって増加を続けている
→インバウンドを含む海外需要を取り込んでいく必要がある
・生活におけるデジタル技術の利用は加速していく可能性が高い
→デジタル化の加速に対応する
当然、考えられている方も多くいらっしゃると思います。
地域の事業者をサポートする立場でもある西堀さんが、それをあえて口に出すということ自体が、ローカルクラフトを取り巻く現状を物語っているのではないでしょうか。
多くの人が想像できる未来に、やってくるであろう課題。数年先、数十年先に起きると思っていたことが、コロナウイルスの影響で目前に迫ってきている。ローカルクラフトの産業は今、一つの分岐点を迎えようとしているのだと感じました。
この分かれ道を前にして、つくり手や伝え手はどのようなことに向き合っていけばいいのでしょうか。お二人の言葉の中にヒントがありそうです。
特選番傘:昔ながらの素朴で重厚感あるデザインが特徴
和風照明「古都里-KOTORI-」:手漉き和紙の暖かい光の拡がりが楽しめる
「アナログでつくる価値とは何なのか?」
日本だけでなく世界各国に和傘を展開をしている西堀さん。アナログなものづくりの価値をグローバルに伝えてきた一人のつくり手としてのコメントが印象的でした。一時期は国内で年間1700万本以上も製造されていたという和傘。京都においては、日吉屋が現存する唯一のつくり手だといいます。
「和傘には雨の日にさすという価値はないかもしれない。ただ、アート的な価値や人間がつくっている価値があるはず。その価値を100億人のうちの0.01%に届けられればいい」
効率を追求する中で、ロボットやAIに置き換えられるものは多かれ少なかれ増えていくでしょう。それでも残る、生みだせる価値は何か。届ける手段が増え、届けられる範囲が広がった現代では、本質的な価値と向き合った上で、その価値を理解してもらえる人にさえ届けることができればいい。こだわりを持ち、グローバルに価値を届け続けてきた西堀さんだからこその言葉の重みがありました。
窯元「丹水窯」の丹波焼:丹波焼は兵庫県丹波篠山市で焼かれる陶器で、その起源は平安時代末期まで遡ると言われる
「0.01%の人にどう届けていくのか?」
オンラインのチャネルを設ければ全てが解決するというわけではありません。堀内康広さんは、プロデュース、ブランディング、デザインといった幅広い範囲でつくり手を支えてきています。変化が進み、ルールが変わっていく中で、”伝える”ということに対して、どんなことを考えているかお話しいただきました。
「ファンを増やしていく機会を見つける、自分たちで機会をつくる」
今回のコロナウイルスで多くの展示会が中止となり、百貨店を含めた小売店の営業自粛も重なりました。これまで正攻法とも言えた、届けるための手段が断たれてしまったつくり手も少なくない中で、温度感の高い情報を自分たちで発信できる相手、方法を増やしていくことが求められていると言えるでしょう。
まとめ
「簡単にコミュニケーションがとれるからこそ、本物であることが問われる」
依存していたものの信頼が揺らいだときにルールや構造は大きく変わります。信頼が失われてはじめて依存に気づくことも多いでしょう。展示会自体や実際の小売店が無くなることはないかもしれません。ただ、一つのものに依存しすぎることはリスクが高いのだ、ということは多くの人が感じたはずです。
今回のコロナウイルスの影響を受けては、届ける手段に限らず、届けるものの価値やその届け先についても、立ち止まって考えることが求められています。時にはつくり手自身が、伝え手になるように役割を変える必要もあるでしょう。
デジタル化が加速することで、消費者やパートナー企業とのコミュニケーションがとりやすくなる。対面のコミュニケーションの方が、たしかに熱量やこだわりは伝わりやすいかもしれない。それでも、価値や想いが本物であれば伝わる。産地としては想いを見つめなおしたり、外部の人と関わる中で気づきなおす、捉えなおすことが求められているのかもしれません。
「デジタル上の熱意は確かにあるし、その熱意は画面上でも伝わる」という発見は、Local Craft Marketを実施した上での一つの救いとも言えるでしょう。
未知の変化に対しての恐怖心はたしかにありますが「人間関係で価値を広げていただくのは変わらない。信頼関係を作るために行って会って話す、ということがデジタルに置き換わっただけ」という西堀さんの一言が的を射ているようにも感じました。価値を理解してくれる層にどう伝えていったらいいのか?という問いの答えは、いつの時代も変わらないのかもしれません。
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4つのトークイベントについては、順次レポートを更新していきます。残りの3つのセッションもお楽しみに!
文章:高木 孝太郎
編集:柳瀨 武彦
写真提供:日吉屋/TRUNK DESIGN
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6月10日19時開催 オンラインセミナー「Local Craft Marketのつくり方」
「産地とつながるあたらしい場」として試験開催されたLocal Craft Marketを振り返りながら、企画や運営に関する知見を公開・共有します!
オンラインの場をどう活用するか悩まれている方、With コロナ時代における産地・作り手の支援方法を模索・検討している方には、おすすめの内容となっておりますので、ぜひご参加くださいね。