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Local Craft Market / Online β - TALK イベントレポートVol.4:「ものづくりに物語を。産地の文化を伝えるために、今考えていること」

Local Craft Market 運営事務局の高木です。

2020年5月「場所を超えて、作り手の想いにふれる、ローカルがつながる」というコンセプトのもとに開催された「Local Craft Market / Online β」。そして、2020年6月27日、28日に第2回目となる「Local Craft Market 2」が地域コミュニティメディア「LOCAL LETTER」、ギャラリースナック「ちんぷん館TOKYO」との共催という形で、地域が想いでつながるオンラインスペース「DOOR to LOCAL」にて開催され、たくさんの濃密な出会いが生まれました。

こちらのマガジン「Local Craft Talk」ではオンライン・マーケットと並行して行われたトークイベントの模様をひとつずつお届けしています。テーマによって、ローカルクラフトにおける登壇者の立ち位置も異なります。つくり手の方、プロデュースにたずさわる方、これからローカルに関わろうとしている方、それぞれの立場でご自身の状況と重ねられる内容が盛りだくさんです。各イベントはアーカイブされていますので、もっと詳しく知りたいという方は、こちらから動画をチェックしてみてくださいね。

ものづくりに物語を。産地の文化を伝えるために、今考えていること

「都心をはなれて仕事をしたい。もっと顔の見える関係性の中ではたらきたい」今このタイミングで、これまでのはたらき方や生き方を見直し、キャリアチェンジを検討している人も多いのではないでしょうか。地域へ拠点を移して活動している富川岳さん、石井挙之さんと、都心から拠点は移さずに活動する柳瀬武彦さん。バックグラウンドが違うからこそ、葛藤や決断もそれぞれ。

トークセッションVol.4では、そんな3人のこれまでの歩みや、今考えていることをお話しいただきました。一歩踏み出すにはどうしたらいいか、その踏み出した先でどうするのか。地域に関わっていきたい想いはありながら足踏みをしている方は必見のトークセッションです。本レポートでは印象的だったシーンやコメントを抜粋しながら、その模様をお伝えしていきます。

登壇者プロフィール

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柳瀬 武彦(Takehiko Yanase) P inc. プランナー・コピーライター / PEOPLE 店主
プロデューサー/コピーライター。東京都練馬区生まれ。イベント制作会社、クリエイティブエージェンシーを経て、現在は企業や自治体のコミュニケーションデザインや社会課題解決型プロジェクトを中心に東京と埼玉県小川町の1.5拠点で活動中。サウナ・スパ健康アドバイザー。Local Craft Marketの発起人の一人。

P inc.: https://p-inc.jp/

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富川 岳(Gaku Tomikawa) ローカルプロデューサー 株式会社富川屋 / to know 代表
新潟県長岡市生まれ。都内の広告会社(spicebox / 博報堂常駐)を経て2016年に岩手県遠野市に移住。Next Commons Lab 立ち上げを経て独立。プランニング&プロデュースを生業とする。また、東北の豊かな地域文化に傾倒し、民俗学の視点からその土地の物語を編み直し、”いま”を生きる人々の糧とするべくフィールドワークや商品開発、デザイン、教育機関と連携した取り組み等を行っている。プロデューサーとして岩手ADC2018コンペ&アワード グランプリ受賞。遠野文化研究センター運営委員。遠野文化友の会副会長。宮城大学非常勤講師。

富川屋: https://www.tomikawaya.com/

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石井 挙之(Takayuki Ishi) 仕立屋と職人・装飾
千葉県育ち。武蔵野美術美術大学を卒業後、都内のグラフィックデザイン会社へ就職。グラフィックデザイナーとして、大手企業の広告やパッケージデザイン、ブランドガイドブック開発に携わる。それと同時に、千葉県漁村や長野県山間地域プロジェクトにも関わりはじめ、ここで都市型デザインと地域型デザインの違いに興味と疑問を抱き始める。同社を退職後、長野県での短期村暮らしを経験し、その後渡英。University Arts of London, Central Saint Martins, MA Narrative Environmentsにて、“人が集う場所(環境)”に顕在する“コンフリクト(問題)”をあらゆる視点から調査、分析、実験、可視化し、Narratology(物語論)を用いてデザイン成果をあげる研究をし、修士課程を2016年6月に修了。2017年1月以降、伝統文化の職人のデザイン+ビジネス支援を行うクリエイティブチーム仕立屋と職人を主宰。現在は滋賀県長浜市に作業場を開設し、シルクの機織り産業である長濱シルクや、福島県郡山市の張り子職人など、職人に弟子入りしながら日本各地でプロジェクトを行う。

仕立屋と職人: http://shitateya-to-shokunin.jp/
CREATIVE "GARDEN" : http://creativegarden.jp/

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澤田 哲也(Tetsuya Sawada) ミテモ株式会社 代表取締役
採用コンサルティング会社を経て、2007年社会人教育・研修を手がける株式会社インソースに入社。5年間で述べ300社の民間企業に対して、次期経営人材育成や組織変革をテーマに人材育成プログラムの企画・設計に携わる。また、新規事業開発にも取り組み、2012年にミテモ株式会社の事業開発を担当、同年 代表取締役に就任。オンライン教育サービスやデザイン思考をベースとした新規事業・商品開発プログラムをはじめとした多種多様な育成支援事業を立ち上げる。また、2016年から全国各地の地方自治体との連携による事業創出・商品開発・販路開拓・デザインイノベーションのための教育事業に取り組む。2018年にはJAPAN BRAND PRODUCE SCHOOL設立。日本の地場産業や伝統工芸にデザイン・クリエイティブを取り入れ、商品開発・販路開拓を手がけるプロデューサー育成に取り組む。

ミテモ株式会社: https://www.mitemo.co.jp/

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地域に飛び込む、都心をはなれる不安をどう乗り越えるか

まず、ファシリテーターの澤田哲也さんから「産地の物語を紡ぎ、伝え、受け継いでいくという生き方を、僕らはどのように作っていくのか」というお題が提示されてトークセッションははじまりました。

都内の広告会社での勤務を経て岩手県遠野市に移り、ローカルプロデューサーとして活躍する富川さんは「縁もゆかりもない地域にいくなんて、そんな決断はすぐにはできなかった。友だちや仕事のネットワークを断ち切ることになると思っていたし、7年間積み上げてきたものがゼロになるんじゃないか、会社を辞めて飛び込んだ先に本当に仕事がつくれるのかという不安もあった」と当時を振り返ります。

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富川さんが代表を務める地域団体の「to know」は「豊かな地域文化を知るプロセスをつくる」を使命として活動している

柳瀬さんはそんな不安を解消する、ひいては生き方を作ることにもつながっていくポイントとして「いきなり大きなステップを踏まなくとも、いろんな高さのステップをつくって踏んでいくことが重要なんじゃないか」といいます。

富川さん、石井さんの地域活動への入り方はどちらも地域おこし協力隊がきっかけであるし、柳瀬さん自身は東京に住みながら埼玉県の小川町に通うことで顔馴染みが増えていき、ローカルに入り込んでいったように、経済面や人間関係などあらゆる点において自分にあった幅のステップを踏んで小さなチャレンジを続けていくことが、心折れることなく地域へと関わっていく秘訣といえるかもしれません。

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石井さんは滋賀県長浜市木之本町を拠点に、伝統工芸の職人へ弟子入りをし、知ることからはじめ、その生き様を仕立て、伝えて、繋げていくクリエイティブチーム「仕立屋と職人」として活動している。

はたらき方、生き方のスタイルをつくっていくポイント

富川さんは地域に伝承されている文化の受け継ぎ手として、石井さんはものの価値だけではなく、それをつくっている職人の物語を伝えるという役割で、柳瀬さんは東京に住みながら地域へ通う1.5拠点活動を続けつつ東京の強みを生かして、といったように単に地域で仕事をしているというよりは、3名がそれぞれのスタイルを確立しているようにもみえます。独自の立ち位置、関わり方をつくっていったポイントや背景をお話しいただきました。

柳瀬さん:自分の中に多様性を持っておくこと。たとえば、ぼくが小川町にいくと東京のものや知識、人を持っていけるんです。小川町から東京へ帰るときは採れたての野菜を友人に渡せたりする(笑)。なにか特殊な能力がなくても2つの場所を行き来するだけでその人に価値が生まれ、自分なりのポジションが自然とできてくることってあると思うんです

富川さん:「2015年ごろの地方自治体のPR施策はバズを狙ったおもしろ映像など打ち上げ花火的な施策が多く、本質的な解決に至ってない、と感じるものが多くて違和感を感じていたんです。自分はそういった地方を消費するような関わり方はしたくなかったので、自分が現地に飛び込んで、徹底的に地元のひとたちとつながる。地元のひとより地元のひとになって考えたいと思ったのがきっかけですね

石井さん:「東京ではたらいていた頃とは違い、なにかをつくるにあたっての情報も体制も整っていなかったからこそ、プロセスの全体に関わる必要があってこのスタイルになったし、今では全体に関われること自体も楽しんでいます

特別なことができないと地域に関わることは難しいんじゃないか、というイメージもありますが「地域に多いのはなにかをつくるのが得意だけど発信するのは苦手という人だから、ただ議事録がかけるとか、メールがかける、というようなベーシックなスキルが活きる」というコメントは、これからアクションを検討されている方にとっても安心材料の一つになるのではないでしょうか。

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柳瀬さんは埼玉県小川町にある1888年築の養蚕伝習所「玉成舎」を修築するプロジェクトに関わり「玉成舎」の一角にある蔵を活用して「PEOPLE」という飲食店兼物販店を営んでいる。

まとめ「オンライン上での出会いも地域に入り込むステップになりうる」

「自分が物語の一部になる、歴史の文脈の中に入り込んでいく感覚をもてるのがローカルならではの醍醐味なんだ」という富川さんのコメントをきくと、地域とつながりを持つことへの期待がさらに高まります。

ただ、地域に関わりたいという人が増えているといいながら、地域にすむ年配の方々がバトンを渡したがっているのにそれが果たせていないのは、両者の間になにかまだ深い溝があると感じる方が多いからかもしれません。
地域に入り込む、バトンを受け取るには「まずは行ってみること」というのは基本に立ち返るようではありますが、柳瀬さんの「間をあけずに2回目に訪れることが、地域の方々に顔を覚えられ関わっていくきっかけになり重要」という点はあまり語られてこなかったし、実践しやすいように思います。

今回のLocal Craft Marketの参加者の方々から「出展者さんを訪ねたくなりました」「近くに行ったら寄ります!」といった感想が多かったことを考えると、顔が見えるオンラインでの交流の場を経てから地域を訪ねることは、関わりを深める2回目の出会いになるともいえます。

オンライン上の出会いが地域に入り込む上でのステップになる。バトンを渡したい人、そこにバトンがあることを伝える人、バトンを受け継ぎたい人がオンラインの場で一堂に会せば、一万人が一斉にバトンを渡すことが実現できるかもしれない。そんな夢のようなシーンを現実のものとするために、これからもチャレンジし続けるLocal Craft Marketを引き続きよろしくお願いします。

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残念ながらLocal Craft Marketをライブで楽しめなかったという皆さんに朗報です!第1回目の様子が動画メディア「bouncy / バウンシー」に掲載されました! 

オンラインを通して画面越しに産地・工房・蔵・カフェなどと直接つながれる体験が動画にギュッと凝縮されていますので、こちらもチェックしてみてください。

文章:高木 孝太郎
編集:柳瀨 武彦
写真提供:富川屋仕立屋と職人玉成舎


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