孫泰蔵『冒険の書 AI時代のアンラーニング』から 人はいま何を学ぶべきか?
読書が好きな筆者が、新旧様々な書籍でためになった、考えさせられた、他の人も読んだらいいのに、と思う本をランダムにご紹介します。
今回は孫泰蔵さんの「冒険の書 AI時代のアンラーニング」です。AI時代?アンラーニング?冒険の書?既にタイトルだけで面白いですね。
1.どのような本か
■どんな本?
起業家・孫泰蔵氏が、昨今のAIの発展を受けて、「これからの時代を生き抜くために身につけるべきこと」とは何か、そもそも何かを身につけなくてはいけないのか?なぜそうなったのか?本当は何が必要なのか?といった「問い」を掘り下げていきます。
著者の思考を、教育制度の始まりや思想と共に追体験していくような、独特なスタイルで、まさに「冒険の書」のように、物語のようにドキドキワクワクとしながら読むことができます。
■どんな人向き?
本書は、まさに今のAI台頭の時代背景を受けて書かれた本でもあり、著者が子供時代に思っていた学校教育への疑念を出発点に書かれた本です。そのため、こんな方が読むと面白いのではないでしょうか。
最先端のAIに触れて、これから何をしていけばいいのか悩んでいる方、不安に思っている方
あまり勉強や学びが好きではなく、意味を見出せない方
リスキリングや資格取得に悩んでいる方、
子供の教育方針で悩んでいる方、学校の教育に疑問がある方
■目次
はじめに
父からの手紙
第1章 解き放とう 学校ってなんだ?
第2章 秘密を解き明かそう なんで学校に行くんだっけ?
第3章 考えを口に出そう なぜ大人は勉強しろっていうの?
第4章 探究しよう 好きなことだけしてなぜいけないの?
第5章 学びほぐそう じゃあ、これからどうすればいいの?
おわりに 新しい冒険へ
旅の仲間たちへの謝辞
世界に散らばる冒険の書たち
本書の問い
2.何が面白かったか
■ポイント① AI時代
ポイントはやはり「AI時代」ということと、「アンラーニング」ということだと思います。
AIに関しては、最近の成長は著しく、今後さらに「加速度的に」成長が進むことを考えると、今後人類ができることは何か、考えさせられます。ほとんどの学びは役に立たないのではないか、AIに代替されてしまうのではないか、そういった危機感を非常に持ちます。
実際著者は、AIの進化を目の当たりにして、数か月間筆が止まったとYoutubeの対談で語っていました。本書は、それらを乗り越えて、どう生きるべきかということのヒントも語っているように思います。
■ポイント② アンラーニング
アンラーニングは面白い概念だと思います。今世間や政府はリスキリングを推奨していますが、本当にリスキリングは必要なのか、そもそも人間に「能力」という概念ができたのはなぜか、「能力」の起源にまで遡って考えを深めさせてくれます。
その上で、能力主義でいる限り、最終的にはAIに取って代わられると著者は主張します。それよりも、根本的な問いを持ち、その上で新たな学びにとりくむ「アンラーニング」が、通常のラーニング以上に大事になるといいます。
■ポイント③ 多様な「問い」
本書は、問いを中心に著者の思考が進行していくため、問いが非常に重要です。それは最後の結論にもつながっています。そこで、私が面白いと思った問いをいくつか並べさせていただきます。
なぜ学校の勉強はつまらないのだろう?
もしなにも制約がなかったなら、どんなふうに学べたらいいか?
これからの時代を生き抜くためになにを身に着けるべきか?
子供と大人はなぜ一緒に学べないか?なぜ子供が大人と区別されるようになったのか?
学習レベルが早く上達するとなにがいいのか?
能力という概念はどこから生まれたのか?
なぜ能力が実在すると信じるようになったのか?
そもそも「役に立つ」ってどういうことか?
アンラーニングとはなにか?
あらためて、なぜ学ぶのか?
人々にとって公共の利益とはなにか?
3.感想+α
ここからはネタバレを含みます。
結論ファーストの本ではなく、思考自体を楽しめる本
本書の面白いところは、結論ファーストではなく、著者の思考に合わせて自身の思考をゆっくりと進められることです。といっても、著者にはある程度答えがあったのではないかと思いますが、いったんそれをなくして、思考の旅をしている所は非常に面白いと思いました。これは、昨今のファーストフードのような新書と違って、これ自体が豊かな「学び」の体験をもらったような気がします。
また、問いは様々ありますが、その答え自体には大きな意味はないと思います。まさにこれらの問いを自分自身で考えて、そして答えを探していくことを自分自身で楽しむこと、これこそが著者が言いたかったことなのではないかという気がしました。
様々な先人たちの本を読むきっかけを与えてくれる本
この本では、様々な先人たちの本が紹介されています。作中ではややコミカルに演出されて、簡単にその思考に触れられるようになっていますが、ほんの導入に過ぎないので、実際の本を読んでみたいと思いました。そのような読書のきっかけを与えてくれる本でもあります。
ルソー「エミール」、ホッブズ「リヴァイアサン」等の古典も紹介されていて、彼らが「社会」と「教育」を同時に考え、どうにかしようとしていたことが少し驚きでした。というよりも、教育は「より良い社会」を描きその実現のためには不可欠だったのです。
また、これは皆さんもしばしば感じることがあると思いますが、たいていの問い・課題・問題は、既に過去何百年も前にも同じ問題・課題を発見・直面した偉人が必ずいるということです。根源的な問いは錆びない。そして必ず何周もして同じ問いに戻ってくるのではないかと思いました。ただし、問い・課題と理念は同じであっても、時代背景が違えば手段が違うのだと思います。だからこそ、ラーニングは大事であり、そしてアンラーニングが重要になるということなのだと思います。
★なお、この紹介は完全に筆者の主観で書かれており、私が感じたこと、面白かったこと、そこから着想を得たことを中心に記載しており、特定の見解を断定したり、本書を網羅的に紹介するものではありません。著者の方、読者の方、それぞれ様々な見方もあると思いますので、そんな考えもあるんだなあ、くらいに思って、ぜひ手にとって実際に読んでみていただけたらと思います。
★この文章は、私が思いつくままに加筆・修正することがあります。
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