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ご当地小説がひらく可能性の扉

はじめに

「ご当地」と聞いて皆さんは何を思い浮かべるでしょうか?私は、「ご当地キティ」や「ご当地サイダー」など、原則その土地だけでしか手に入らない、あるいはその土地独特の個性を表現したお土産のイメージがまず思い浮かびます。この「ご当地」という言葉、最近は小説に対しても使われるようになってきています。

今月半ば、Web小説投稿サイトのカクヨムが「公式自主企画「ご当地怪談」大募集!! ~日本全国を舞台に怪談話を創作しよう~」と、怪談限定でご当地小説を募っていました。今年の年初にも「【カクヨムWeb小説短編賞2022】「ご当地短編小説」キャンペーン」を開催しており、KADOKAWAは自サイトで「ご当地小説」を広く募っているように見受けられます。

元々2013年に、同社の文芸誌「野生時代」にて、以下のような特集を組んでいたこともあり、ご当地小説に対する同社の取り組みは、実は10年前以上前から続いていたとも考えられます。

「ご当地小説」というジャンルがあるとしたら、京都は筆頭にあげられるでしょう。特集「京都で物語におぼれる」では、近頃元気な京都小説をご紹介。新作を刊行したばかりの加藤シゲアキさんのインタビューも掲載!

https://www.kadokawa.co.jp/product/201203000193/

また昨今では、キャラ文芸/ライト文芸というジャンルが、本屋の売場の1画を占める勢いですが、こちらも半ばご当地小説と化している作品があります。そのため、キャラ文芸を専門にするレーベルの中には、サイト上でご当地小説特集を組んでいる場合もあります。

聖地巡礼あるいはコンテンツツーリズム

こういったご当地小説が注目される背景には、昨今の聖地巡礼ブームやコンテンツツーリズムといったビジネス的な思惑があると私は考えています。「聖地巡礼」というと、古くは『らき☆すた』などのアニメがその走りに当たり、「聖地巡礼」が文献に頻繁に登場するようになった時期は『らき☆すた』の聖地巡礼ブームとほぼ一致しているようです。

引用:コンテンツツーリズムの新たな方向性

そんな「らき☆すた」の聖地巡礼ブームは、約10年間で31億円の経済効果もあったと言われています。

上記は2017年の日本政策銀行の調査報告によるものですが、自治体はこういった成功事例には敏感であり、『らき☆すた』が実際に盛り上がりを見せていた2008年前後には、マーケッティング界隈において、すでに聖地巡礼をテーマにした講演会の話もありました(経験談)。その熱は今も続いており、たとえば自治体の職員向けの専門誌と言える「自治研」においても、今月は「聖地巡礼」の特集が組まれています。

月刊自治研 2023年8月号

さらに、先月はTBSのバラエティ番組「マツコの知らない世界」で、2回目となる「アニメ聖地巡礼の世界」が放送され、その中では、小説が原作の『有頂天家族』の話題も出てきました。リアタイでの視聴は出来ませんででしたが、X(旧Twitter)上の森見先生クラスタにおいて盛り上がっていたことでそのことに気づき(有頂天家族がトレンドに上がっていました)、後日私もTverで視聴しました。番組の中では、聖地巡礼だけでは満足できずに、実際その地に移り住む人も紹介されていました。

以上のように、2008年ごろに生まれた「聖地巡礼」という言葉は、今まさに大きなビジネスチャンスへと変貌を遂げつつある、そんな印象です。

アニメ、映画、そして小説

ただし、現状の聖地巡礼やコンテンツツーリズムの主役は、アニメや映画などの映像作品です。小説についてはまだそこまで言及されているとは言えない段階。しかし、例えば森見登美彦先生の作品は、熱烈なファンを生み出しており、X(旧Twitter)上では京都に旅行にいったとか、古本市などのイベントに参加したという報告が絶えません。

それだけだと単に森見先生すごい!で終わるのですが、最近では小説原作の舞台の自治体が積極的に聖地巡礼マップ作成に乗り出す事例や、まだ舞台の決まっていない小説原作のアニメや映画の舞台に自治体が立候補する事例もあります。

大分県は、アニメ映画化されたハヤカワJA文庫のSF恋愛小説『僕が愛したすべての君へ 』『君を愛したひとりの僕へ』の舞台が大分だったため、積極的に聖地巡礼マップを作成しています。

滋賀県は、講談社から出版された小説『線は、僕を描く』の映画化にあたり、滋賀ロケーションオフィスがロケ地提供に名乗りをあげて誘致に成功し、特設サイトにてロケ地めぐりを奨励しています。

静岡県浜松市は、2023年夏放送の『夢見る男子は現実主義者』という『小説家になろう』発作品のアニメ化の舞台モデルに選ばれたことを発表しています。特に静岡県は、今年から来年にかけて同県が舞台のアニメが4作も放映されることに注目し、県内に聖地巡礼ブームが起きるのでは?と期待する声も上がっているようです

一方アニメに依存せず、小説のみで聖地巡礼の成功事例となりつつある地方も出てきています。

『千歳くんはラムネ瓶のなか』(通称チラムネ)というライトノベル。この作品の舞台は福井市です。このため、福井市のバックアップは凄まじく、自治体をあげて盛り上げようとしている様子がヒシヒシと伝わります。最近では、目白大学の山中先生が登壇した「2023ライトノベルツーリズム推進セミナー in 福井」でも、このチラムネを成功事例として取り上げおり、個人的には要注目だと思っています。

その他に面白い事例としては、地元出身の著名人に声を書いてもらうプロジェクトというものが過去にあったようです。福岡県では2016年に堀江貴文氏や直木賞作家の東山彰良氏らに声をかけ、WEB小説サイト「ぴりから」を公開していました。残念ながら今はアクセスできなくなっているようですが、その成果は2018年に『ぴりから 私の福岡物語』として幻冬舎から出版されています。

そして極め付けは長崎県の取り組み。もういっそ有名作家さん、漫画家さんに長崎を舞台にした作品を描いてもらおうということで、取材旅行費を長崎が負担する「描いてみんね!長崎」なる事業を数年前から行なっており、最近では恩田陸先生が招かれたことが地元のニュースになっていました。

以上のことから、すでに自治体では「ご当地小説」に期待の目を向けていると、私個人は判断しています。

ご当地小説の特性

ここまでで、ご当地小説というジャンルが、大手出版社や自治体を中心に注目されつつあることは、なんとなくご理解いただけたでしょうか?

さて、そのご当地小説。私は別の側面においても大きな利点があると考えています。それは、ご当地自体が強烈なフックになっているため、小説のジャンルを問わず作品を読んでもらえる可能性があるということです。

これは小説投稿サイトをご利用の方にはご理解いただけると思うのですが、『小説家になろう』や『カクヨム』といった大手サイトでは、ハイ/ローファンタジーや異世界恋愛といったジャンルが強すぎるため、それ以外のジャンルを求める読者との出会いの機会が非常に限られています。時には過疎ジャンルなどと揶揄されることもあります。商業では人気のミステリも、WEBでは一部の例外を除いて人気がない。正直ファンタジーや恋愛もの以外のジャンルを書いて、多くの人に読まれたいと願う作者にとっては、あまり好ましい環境とは言えません。

その課題を解決しうる手段が、ご当地小説だと思います。先にも述べた通り、それ自体が強烈なフックになるので、読者にとって愛着のある地域でありさえすれば、ジャンルを問わず読んでもらえる可能性があります。私自身も、最近意識してご当地小説を読むようにしているのですが、その際にはあまりジャンルを問わずに作品を選んでいます。

だから、読んでもらうためにあえて自分が不得意なジャンルに挑戦するぐらいなら、ご当地小説として好きなジャンルを書くという選択肢は、非常に合理的なのでは?と思います。

ご当地小説を書くモチベーション

さらに、ご当地小説を書くモチベーションとして、近年増えている地方発の文学賞があります。

個人的に注目しているのは、『京都キタ短編文学賞』で、これは2022年に創設され、今年2回目の募集が始まっています(2023/10/31締切)。レギュレーションとしては京都市北区を題材にしている作品であれば良いとなっていて、珍しくWEBで発表済みの作品も受け付けています。このため、WEBで先行して発表し、読者の反応を見ながらブラッシュアップといった手段も取れそうです。この賞は京都を描く作家さんをアンバサダーにするなど、かなりの力の入れようであるため、今後大きく成長していくのでは?と期待しています。

その他にも、ご当地小説を募集している公募はまだまだあります。埼玉県、静岡県、新潟県、宮城県、岡山県、武蔵野市、大垣市、東京都北区、宮崎県美郷町など。賞によってはなかなか作品が集まらないケースもあるようで、それはそれで競争倍率が低いわけですから、受賞を目指している方の中にはそのほうが都合が良いと考える人も居ることでしょう。

また、冒頭で紹介したカクヨムのご当地小説系の自主企画も、定期的に開催されています。これなら、全国どこかの場所で良いわけですから、地方の公募のレギュレーションを満たさない地域を舞台にした作品でもチャンスがあると言えます。

さいごに

ここまでお読みいただきありがとうございました。ところで、この記事を書こうとしたのには理由があります。

2023年8月14日、ご当地小説をもっと読みたいという気持ちが高まり、私はご当地小説とエッセイ専門の投稿サイトを立ち上げました。しかし、47都道府県をカバーできるほどの作品点数は全く集まっていません。現在はアルファ版であり、作者の方を対象に開放しているのみですが、今後読者の方にも開放した際には、一定の作品点数を用意して「賑わいのあるサイト」と思ってもらう必要があると考えています。そのためには、今の時点で、多くの作品が必要です。

もし、この記事を読んで、ご当地小説執筆に興味を持ったのであれば、一度弊サイトでの投稿もご検討いただけないでしょうか。

なお、すでにご投稿いただき、X(旧Twittter)等を通じて公開していただいている作品には以下のようなものがあります。ぜひご覧いただき、弊サイトがあなたの作品を託すに足るサイトかどうか、ご判断いただければ幸いです。


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