読後感最悪の物語
第一章:聖域
マリアは今日も病院で笑顔だった。彼女の笑顔は病院の光をより輝かせるほどに明るかった。
マリアは看護師の仕事が好きだった。
あまりに幸せそうに働くので、同僚や患者にも深く愛されていた。
この病院は町一番の大きな病院で、この町に住む住民にとっては欠かせない。そんな病院の名前は「聖域」。
聖域で働けていることにマリアは誇りを持っていた。
「マリアちゃん、今日も元気だねえ。」老婆が声をかける
「だって幸せですもの、おばあさま」マリアはいつもこう答えていた。
天真爛漫だが、マリアはとても聡明で優秀な看護師だった。よく気がつき、洞察力が高い。
看護師としての才能にも恵まれていた。
第二章:微かな疑念
幸せな看護師がいる場所だったが、ここは病院。当然悲しい話もある。
今日も仲の良かった少女が亡くなり、マリアは祈っていた。
弔いに安置室へ向かうと、遺体は存在しなかった。
どこへ行ったのだろうか。少し不可思議な話だったが、1時間後に再び訪れると仲の良かった少女の幸せそうな顔がそこにはあった。
少し持ち上げてみると亡くなったせいか、その体は軽かった。
第三章:真実の瞬間
今日は夜勤だった。
夜の病院は暗く、死神が通るといわれる世界。元気なマリアも少し寂しそうに夜を過ごしていた。
今日は医師に書類を隣の病棟にまで届けるように言われ、外に出たマリアだったがうっかりして、何も知らない全く違うところに来てしまった。
完璧な彼女だったが唯一方向音痴というのが弱点だった。
夜の病院の何も知らないところへ来てしまったことに流石のマリアも動揺していた。
一旦元の道に戻ろうとしたところ、何やら声の低い耳に残る声が2本聞こえてきた。
「…今日は3人か。豊作だな」
「さすが町一番の病院ですね、取引を初めて正解でした」
何やら2人の男が怪しげな会話をしている。マリアは足を止めた。問い詰めることも考えたが
いや、待て。女性1人で警備員もいない今のこの状態では危険だと感じた。
そこで観葉植物に隠れることにした。そしてスマホの録音機能のボタンを押した。
すでに怪しかったので、念には念を入れたのだ。
次に耳にした言葉が耳に大きく刺さるのだった。
「今日の臓器は肝臓か。昨日のガキの心臓と目は良い値段になった。」
マリアは思わず声が出そうになる。目の前が真っ暗になりそうだったが、あと一歩のところで耐えた。
2人の男が立ち去ったので、マリアは観葉植物の裏からようやく出てきた。動揺で汗が止まらない。
「臓器…売買…?」
まさか、聖域と言われるこの病院で違法な取引が行われていたことに何かが崩れる音がした。そのあと浮かんだ少女の顔。マリアは決意した。
「これはいけないわ。なんとかしなくては。」
第四章:選択
明るくなったあの場所にマリアはいた。
今日は非番だったが、どうしても昨日のことが忘れられずに夜勤明けで退勤した後にそこへ向かったのだった。
近くの警備員や先生に話を聞いてみたが、そんな2人の男の声の聞き覚えはないという。
それどころか、どうも面倒そうな顔をされてしまった。夜だし寝ぼけけてたんじゃないか?
マリアちゃん天然なところあるから…など相手にしてもらえない。
それでもめげずに色んな人に話を聞いていたところ、病棟である男性が亡くなったという話が聞こえてきた。
もしかしたら、昨日の場所で何か起こるかもしれない。
マリアは今度は私服で同じ観葉植物の裏に隠れた。
なんと先ほど面倒そうにしていた先生と警備員が不審そうに
あたりをキョロキョロして何かを運んでいる。
「もしかして…遺体を運んでるのではないかしら」
すると、スッと現れた、宅配便の男に何かを渡している様子を目撃した。
これは決定的な証拠かもしれない。とスマートフォンを急いで開き、録画する。
見事に証拠を掴んだマリアだったが、これをどこに持っていくべきかを悩んだ。
夜勤明けのマリアにこれ以上考える体力は残っていなかった。ひとまず証拠は抑えたのだから、明日出勤する際に信頼している外科のY先生に相談することにしよう。
Y先生は1番頼りになる整形外科の先生だ。いつも良くしてもらっている。
第5章:袋小路
次の日は昼からの勤務だった。午前中に何やら自分の携帯が鳴る音がした。匿名のメッセージが届いていた。とんでもないものを目にしてしまった。
「知ってしまったな。」
「今日、自分の職場の引き出しを見るといい。」
メッセージはこれだけだったが、マリアが恐怖するには十分だった。
どうしよう、今日は病院にいくべきだろうか…しかし休み知らずに元気に働いている自分が休んでしまうとみんなが心配して余計怪しくなってしまうのではないか。
1時間ほど悩んだが、何食わぬ顔で出勤することにした。
自分のロッカーの前にきた。心臓の音が聞こえてくる。汗が止まらない。
開けてみる。
そこには自分の両親の写真がそれぞれあった。しかもこれは昨日や今日撮ったものに感じられる。
マリアは動揺し、恐怖で足がすくみ、涙が止まらなかった。
すると写真の裏にこのような文字がそれぞれの写真で書かれていた。
「たまたまなのはわかっている。何もしなければ見逃してやる」
「Y先生みたいになりたくないだろう?」
Y先生…!?
Y先生。マリアはもう頭の中が真っ白になってしまった。
よくみると今日、Y先生は出勤していない。つまり…
マリアが震えていると、救急車が到着した。
「交通事故です!!命に別状はないですが足を骨折しています…Y先生どこでしょう?」
まさか。と思ったが、まさかだった。運ばれてきたのはマリアの母親だった。
マリアはなす術がなかった。何もしなければ見逃してやる。を信じるしかない。
それでも、自分を守る意味でスマホの動画は消すことができなかった。おそらくこれが残る限りは始末されない。命綱として大切にすることにした。
この判断は後々を考えると失敗だった。
エピローグ
マリアは今日も病院で笑顔だった。
しかし、以前のような眩しさを取り戻すことは二度となかった。
1年後、病院で1人の女性が亡くなり、その臓器が取引された。それはみんなに愛された1人のものだった。
その夜、役割を終えた1つのスマホが2人の男の下に届いたのであった。
おわり
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