液体関係

あの人と私の関係は、なんと呼べば良いのでしょう。
友達だけでは足りないけれど、恋人と呼ぶほどの勇気はありません。友達と恋人は同一直線上に並んでいるとは思わないから、「友達以上恋人未満」なんて表現は的外れです。「セックスフレンド」なんて俗っぽい言い方をすれば、いい顔をしないのはあの人も同じでしょう。

いつかはこのふたりにも、名前がつく時が来るのでしょうか。
例えばもし、一緒に街中を歩いていて知人と遭遇したとしたら。「そちらの方は?」と聞かれたとしたら。私はその時、なんと答えれば良いのでしょう。「恋人はいるの?」「好きな人は?」そう聞かれても、私には分からないのです。あの人にも、分からない。

私たちの間柄に名前がついてしまったら、一体どうなるのでしょう。
世間の言う「友達」や「恋人」に、倣わなければいけないのでしょうか。名前がついてしまえば、それを取り外すまでずっと、「友達」や「恋人」でいなければならないのでしょうか。私はそれが、怖いのです。

この世にあの人はひとりきりで、世界に私はひとりきり。ならば、そのひとりとひとりを繋ぐものも、唯一のものではいけませんか。連続した時間の中で、私とあの人は各々変わり続けて行く。ならばふたりの間にあるものも、流れて形を変えていくような、液体ではいけないのでしょうか。

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