蒲生ススムと、ヌード。

「わたしゃ写真家ではなくあくまで趣味で撮ってるオジサンですけど、お役に立てるのであれば。」

撮影をしながらヌードについてのお話がしたいとお願いすると、彼はこう言ったのだった。

どうしてヌードを？

蒲生さんが写真を楽しむようになったのは、旅行先で見た風景を肉眼に写るままに残したいと思ったことがきっかけだという。独学でカメラについての知識を得ながら、日常的な風景の中で「なんかいい」ものをスナップする。いつしかそれが趣味となった。

次第に人物も撮ってみたいと思うようになり、ポートレートを撮りはじめる。SNSで写真を通じたつながりが出来てくると、他人のヌード作品やヌードモデルたちと出会い、自分も撮ってみるようになった。彼の写真を楽しもうとする気持ちが、最終的に彼をヌードの元まで連れてきたのではないだろうか。

蒲生さんは、いつでも「なんかいい」のために写真を撮っている。感覚的に「なんかよさそう」なものを撮って、そこから生まれる偶然性をたのしむ実験屋さん。私の目には、彼がそう映る。

「なんかいい」とは。

では、蒲生さんにとって「なんかいい」ヌードとは一体何なのだろうか。感覚の赴くままに撮っている彼の理想を言語化するのは難しい。しかし、彼はほんとうに「なんとなく」で撮っているわけではないように思える。写真やヌードに関して思い描いていることが、言葉にならずともそこに確かにある。それが話を続けるうちにぼんやりと浮かび上がってきた。

「これからやってみたいことや撮ってみたいものはありますか？」という問いに対して、彼は「もっと生々しいのも撮ってみたい」と答えた。そしてこう付け加えた。「だけど生々しいものは、下品になってしまったり、“ただのエロ”になってしまいがちだから難しい。」

下品なものや“ただのエロ”は彼の望むものではないそうだ。やはり彼にも、自分の中での“美しい”や“きれい”の感覚があり、それは「倫理観とはまた別のものである」という。

ヌードの面白さとは。

最近では、もともとの自分の好みとは違った体型のモデルも「話していて面白かったから撮ってみるようになった」と蒲生さんは言う。そうして撮りはじめたモデルとの以前の撮影で、面白いと感じたことについても話してくれた。

その撮影でめざしたのは、「肉体のぶつかり合い」をテーマとした複数人のヌード作品で、モデルの中には普段撮る機会のなかった男性もいた。男性がポーズをとった時に、それまでは見えていなかった筋肉が脂肪の中から浮き彫りになるのを見て、「面白い」と感じたという。ヌードを撮ることで「人間のからだの面白さ」に気づくこともあるというのだ。

今回の撮影でも、「力一杯壁を押し返して」と指示を受けた場面があった。今まで撮られる際には、大抵「力を抜いて」とか「自然体で」という指示を受けることがほとんどだった私にとっては、新鮮に感じた。

おわりに

会ってみる前の蒲生さんの印象は、「趣味で撮ってるオジサン」を名乗る謎多き人といったところであった。その実、彼は“撮ること”を感覚の赴くままに楽しんでいるだけの人に思われる。自らの美的感覚をむやみに言葉にしない姿が、周囲には謎めいて映るのだろう。良くも悪くも言葉を捨てて生きられない質の私としては、彼の実験をもっと理論化してみたいものである。

私は「趣味で脱いでる女子大生」として、彼の「なんかいい」の一部になることができたのだろうか。

［写真、情報提供］蒲生ススム
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