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何もない

昼夜逆転は極まって、容易く迎える午前五時。
ひとからズレて生きているのは、別に元々からだが。

ひとびとが次第に目を覚まして、私たちに用意されたスペースは少しずつ窮屈になってくる。
有神論なんて戯れに過ぎないし、この小さな居場所を作ったのも、窮屈にしているのも、私たちだ。寂しがり屋なのも、情けないのも、私たちだ。
それを上手く隠そうと、いつも君は「神様」とやらに悪態をつく。

夜が明けさした空の薄蒼にこっそり有害物質を混ぜる。
覚えたてながらも、この時間の煙草はいちばん美味しいと思う。
吐き出した靄はこのブルーに溶け込んで行くのだ。善くも悪くも捉えられてしまうブルーに。

優しい声のロックスターは、眼鏡をかけず前髪を切らず「見えすぎるのは好きじゃない」と言った。
見えないものは見ようとしても見えないし、誰だって現実からはズレて生きている。
そういうものだと本当は解っている癖に。

自分の思う自分とズレた形を押し付けられるのは大嫌いだった。でもそうやってズレを意識して、自分の思う自分の形を作ってきた。
最近はもう、そのズレの中で遊ぶのも楽しくなってきた。だるまさんがころんだ。

憧れの人の真似をして赤く染めた髪。専用のシャンプーで色を保って、時々自分で染め直す。
だから私の髪が色褪せるはやさは、君のお髭が伸びるはやさといい勝負。
何にもなれない私たちはどこまでも「私たち」でしかなくて。しかしよくいるモラトリアム大学生でしかなくて。

しゃがれ声のロックスターは、愛に気をつけろと言いながらも、唯我独尊を見て見ぬふりして歌う。
君たちは私のきらいな言葉を歪んだ五線に流し込む。愛がなんだ。執着こそが真実だ。

やっぱり「愛してる」という言葉はきらいだ。戯れにも出来ないくらいきらいだ。
君は愛も有神論も心地好い物語にふくみ込んでしまうからずるい。
君の物語る愛と神様がいる話も、私の物語る私たちしかいない話も、紛うことなき真実だ。

輪郭なんて元からない。
ぐちゃぐちゃでしか生きられない、ズレの中でしか生きられないからこそひとつになれない。せめてふたつだけでいるつもりもない。
世の中にも、私たちの間にも、存在するものなんて何もない。何もない。何もない。
執着したいだけ執着してくれよ。

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