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彼もあなたもたぶん能力者

娘の通園バスの時間、ほぼ毎日顔を合わせる男性がいる。
同じアパートの住人で、20代後半〜30代前半くらい。
去年4月からだから結構長い顔見知り。
秋ごろから「バイバイ」と子供たちと手を振り合う仲になった。
少しずつ距離を縮めてくれるのがわかる近寄り方で、たまにタッチもしてくれ息子も喜んでいる。

名前も何号室に住んでいるのかも知らない。

初めは少し怖かった。
お互いに警戒し挨拶もなかったので、表情がなく飄々と歩く姿に、「子供たちや生活がうるさいと思われてないかな」と怯えていた。
それが、毎日3秒ほど顔を合わせるだけで親近感が湧いてきた。というか、ルーティンみたいになってきた。
朝いつも通りの時間に会わないとちょっと心配になっちゃう。

急な坂道に向かって自転車を漕いでいく背中に
「今日もがんばれよ!」
と心の中でガッツポーズを送る日々。

短くても継続的な関わりが大事、という言葉に納得がいくくらいこの人物が気になってきている。

今朝も挨拶を交わし出て行った彼。
少しして戻ってきた。

まだバスが来ず、エントランスで待っていた私たち。
電動自転車の充電器を片手にすぐ家から出てきて、門を開けたまま支えていた私に「すいませんすいません」と照れながら会釈をして出勤していった。

(「いえいえ、充電器忘れるのあるあるですよね!いってらっしゃい」)
と、人見知りの私は心の中で応援する。
声にはならない。
(自分から話しかけられたらきっと円滑にいく関係性があるよな…とまた色々考える。が、誰にも言えないのでここで昇華する。)

きっと、そりゃあ彼にも辛いことはあるだろう。

仕事が大変な日も、彼女らしき人とうまくいかない日も、なんとなくやる気が出ない日も。

だけどあの垂れ目、メガネ、垢抜けない髪型。
ラフな仕事着に、ポケットに手を入れふらーっと歩く様。
格好つけない姿に、なんだか大物感を漂わせている。
飄々としているオーラも相まって、あらゆる物をかわす能力者にすら見えてくる。

なんて、ふつう、赤の他人に本性は見せない。
気分を見破られてしまうような装いはしない。

みんな鎧を纏い、身を守ったり、演者になってみたり、周囲のイメージに乗っかってみたりしている。

そうやって一日やり過ごし、玄関で脱ぎ捨てるのだろう。



彼の鎧は、ウィンドブレーカーくらいの軽やかさに見えた。

それに比べ私は、水に浸かったバスタオル纏ってるみたいだ。
重たいだけで何の力もない。
緊張と不安と徒労を隠すのに注力しすぎて、いつも肩に力が入りっぱなし。
濡れたバスタオルのせいで慢性肩こり。何の話だ。


彼のあの軽やかさは、本当にいいなあ。

明日も飄々と、いつも通りにいってらっしゃい。



「自分なんて」 と思ってる人へ

実は、話したこともない私みたいな人間に、

勝手に憧れられているかもしれませんよ

勝手に応援されてるかもしれませんよ

直接言う勇気がなくてごめんね


いつも元気をありがとう。



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