去る3月、大好きだった牡蠣料理のお店、レバンテさんが廃業しました。松本清張氏の小説にも出てくる老舗の名店で、かつてのレンガ造りの建物はとても素敵でした。
 歌舞伎座前に本店を構える木挽町 辨松さんも、4月20日で閉店しました。
 「江戸の味」を現代に伝える貴重なお店でした。
 今年5月に33年の歴史に幕を閉じた井の頭公園に面した老舗フランス料理店「芙葉亭(ふようてい)」も、多くの方々に愛されたお店だったようです。

 新型コロナウイルス感染症の影響で、歴史ある「老舗」と呼ばれるお店や会社の廃業、倒産が続いています。
 もちろん、新型コロナウイルス感染症の影響だけがその原因のすべてではないでしょうが、強く、背中を押してしまったであろうことは容易に想像がつきます。

 大好きだったお店が、多くの方に愛されていたお店が、あるいは伝統の味や技術を現代に伝え、未来へ繋ぐお店や会社が無くなってしまうということは、単に情緒的に悲しいというばかりでなく、日本にとって、日本の文化にとって大きな損失です。
 一度失ってしまったものを取り戻すことはやさしいことではありません。必ずしも不可能ではないかもしれませんが、それは新たに作り上げることと同様の、あるいはそれよりもはるかな苦難を伴います。
 兵庫県の芦屋や東京の六本木でセレクトショップグランドフードホールを運営するSmile Circle 株式会社の社長 岩城紀子氏は、「岩城社長は経営危機にある食品メーカーを(何社も)守っていらっしゃいますが、どうしてそこまでされるのでしょう?」というテレビ番組のインタビューに、次のように答えています。
 「無くなったら嫌だから!という一心です」と。

 決して古いものに固執することを薦めている訳ではありません。
 しかし、良いもの、未来に残すべきものはしっかりと残し、次代に繋いでいかなければなりません。それが、現在に生きる我々の使命です。
 新しいもの、斬新なイノベーションも、歴史と伝統を礎として産まれるということを忘れてはいけませんね。

 経営者が自ら経営をあきらめることなく、誰も取り残さない(=Leave No One Behind)社会を築くために、我々にできること、我々がなすべきことをしっかりと。
 それも、新型コロナウイルス感染症の流行下の『新しい生活様式』の一つですね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?