口内炎が痛すぎてもう口内炎のことしか考えられない

この記事を書いている今も現在進行中なのだが、口内炎が痛い。左側の舌の付け根に、爆撃されたようなどでかい口内炎ができてしまった。
何もしていなくてもズキズキと痛むのだから、キーボードで文字を入力するなんてとんでもない。よってここからは、誤字脱字があったとしてもそれは全て口内炎による痛みが舌から口内全域に広がり、ほっぺたを通り、首、肩、腕にしびれが伝わり、左手の五指がうまく動かなかったからということにできる。

本当のことを言うと、キーボードで文字を入力するよりも、食事のときのほうがもっと痛い。
それよりももっと痛いのが、鉄パイプで思いきり頭を殴られたときなのだがそれは関係なかった。
現状、ゼリー飲料やプロテイン飲料に頼って生きながらえているといったところだ。

原因はなんだろう。
一般的に、口内炎ができるのは疲れやストレス、栄養不足や預金不足、日頃の行いのせいだといわれている。知らないうちに噛んでしまった可能性もある。飼い犬に噛まれてしまった可能性もある。
それともあれか。
先日、ちょっとコンビニに用事があって出かけた帰りに、密林に立ち寄った。そのとき偶然サソリを見つけたのだが、ちょうどいい虫カゴを持っていなかったのでとりあえず口の中に入れておいた。あれのせいだろうか。

原因がなににせよ、こうなってしまった以上、やることはたった一つ。早急に舌を新しいものに交換するだけだ。

私は早速、近所の舌屋さんへ向かった。
最近の舌屋さんはどこもおしゃれになっていて、最初店内に入ったときにはホテルのロビーと見紛うほどだった。艶やかな大理石の床の上を歩くのは、悪い気がした。密林を裸足で駆け回ったため、足の裏が泥だらけだったもんだから。
間接照明に照らされた受付スペースには、あっかんべえをした店員さん。「いらっひゃいまへ」うまくしゃべれないなら舌を出すのはやめればいいのに。

私はショーケースの中に並ぶいくつもの舌を眺めた。長いものから短いもの。赤いものから緑色のものまで様々だ。すでにピアスがついているものもあった。九尾の狐を模しているのか、舌先が九つに割れたものもあった。通路の反対側のショーケースも覗いてみる。こっちには牛タンがあった。それも仙台の分厚いやつだ。チルドのパックでも売っていたから今日の晩御飯にしようかと思ったが、まずは自分の舌を見つけなければ食事もままならない。

結局、どれにすればいいかわからず、私は店員さんに相談することにした。
「ああ、なるほど。口内炎がですね」
やはり向こうは専門家だ。口内炎ができた舌への対応もばっちりだ。
「では、こちらのお舌なんかいかがでしょう」
そう言って店員さんが持ってきたのは銀メッキの施されたメタル仕様の舌だった。
「これなら口内炎なんてできようもありません」
「ううん……。ちょっとイメージと違うんだよなぁ。もっとシンプルなデザインはありませんか」
「では、これなんてどうでしょう」次に見せられたのはヒョウ柄の舌だった。どうやらこの人には日本語が通じないらしい。
私は自分の舌をべろんと出し「こういうのれひーんれす(こういうのでいいんです)」と伝えた。
すると店員さんは自らの額をパチンと打った。「いやいや、これは失礼しました! ではこちらですね」と店員さんはヘビのように長い舌を持ってきた。これを見て私は、この人いよいよだなと思った。

しかたなく私は、慣れればこれでもいいかと妥協しタータンチェック柄の舌を選んだ。

「それでは、今現在の舌を抜きましょう」
「え、抜く?」
「はい。あ、でもご安心ください。当店で取り扱いの抜舌器具は地獄の閻魔様のモデルと同じものですから」
「はあ……。やっぱりちょっと考えさせてください」

こんなことなら口内炎の舌でいいや、と私は思い直した。そのうち治るし。
というわけで、私は観賞用のお花柄の舌だけを購入し、舌屋さんをあとに舌のであった。舌って書きすぎて普通の「した」も「舌」になってしまった。

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