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速達配達人 ポストアタッカー  20、休憩所でおやつタイム

ダンクを先頭に、後ろをサトミとエジソンの馬が追う。
サトミの馬、ベンは小さいわりに、走るのが速い。
エリザベスより余裕のある走りで、エジソンは横目で見て凄いなあとつぶやく。
人馬一体で動きに無駄が無い。
恐らく、サトミが上手く乗りこなして馬が走りやすいのだ。

軍人上がりって聞いたけど、少年兵って下っ端だから大したことないだろうって思ってた。
何かカッコイイ

一時間近く走った頃、サトミがチラリとこちらを見たかと思うと、スピードを上げてダンクに並ぶ。

「先輩よー!エジソンの馬が休みたがってるぜ?!」

「オッケー!この先で休憩なー!」

ダンクが思い出したようにスピードを落とし、近くの木陰を指差す。
日が昇ると暑くなってきた。
荒野に出ると日陰がないので、馬に乗っていてもじりじり日差しが痛い。

日影だ、日影が欲しい

荒野には、数カ所休憩所が作ってある。
水のポイントは2カ所あって、どちらも小さな井戸があるのだが1カ所はポンプが壊れて、1カ所は干上がってしまっている。
着いたのはポンプの方だ、先に行くダンクが馬を下りて先に休憩所に入り、スイッチ押すけど水が出ない。
奥の電源見に行った。

「あー、駄目じゃん、ポンプ直したって聞いたのに、太陽光パネル盗まれてるよ。
もうここはポンプ外して手で汲んだ方が早くねえ?」

ぼやきながら引き返してくる。
ここは数本の木が立ち並び、日影を作って小さなオアシスのように緑がある。
サトミたちも馬を下り、井戸の近くに置いてある桶に積んできた水入れて馬に水を飲ませた。

「水持ってきたの入れたよー、おやつ食おうぜ。」

「おやつ?!子供か?」

「子供だ!」

ボリボリ角砂糖食ってると、ダンクの目が据わってる。

「お前さー、マジで砂糖食うんだな。昨日袋ごと食ったって?」

「うっせーな、これが俺のおやつなんだよ」

「お子ちゃまかよ」

「お子ちゃまだよ!」

ベンにもおやつのニンジンやってると、他の馬も欲しがってきて、サトミは馬に囲まれてしまった。

「僕の馬の気持ちわかってくれたんだ。全然わからなかった……」

エジソンが水飲みながら、少しガッカリしている。
ダンクがバーンと背を叩いた。

「エジソンはほぼ引きこもりじゃん、落馬しないだけ上々!なあ新人よう。」

「ああ、あんたの馬、もう15くらいのおっさんだろ? 大事にしなきゃな。
いてて、なんだよ、ベン。」

サトミがエジソンの馬の鼻先を撫でていると、ベンにドスンと背中を小突かれた。

「ありがとう、子供の頃からの付き合いなのに、しばらく離れてたからさ。」

「ふうん。あ、クラッカーも食おっと。ん〜うめえ」

ボリバリ、サトミは今度はクラッカー頬張って、ニッコリしてる。

「お前、よく食うよなー。朝飯食ったの?」

「食った、パンにツナ挟んでマヨ付けたの」

「へー、美味そうだな。そう言えばお前さん、昨日めっちゃ喋ったらしいじゃん?
ガイドが来たぜえ、リッターの人間観察、チョクで説教ブチまかしたの、お前が初めて。
クククク、みんなだいたい怒って帰るか、殴りかかるんだ」

「バッカじゃね?あんな心証悪くすんの放置すんな」

「まあ、あれでだいたい性格がわかるからな」

「お前は?どうだったわけ?」

ダンクがうーんと首をひねる。

「俺はニコニコ笑って座ってたわ。難しい事言われても、意味わからんし。」

「ヘッ、人畜無害な奴」

「ほっとけ。
リッターはさ、母ちゃんと妹の3人でゲリラに掴まってた奴なんだ。
見た目きれいだろ?この辺で白人少ないし。
母ちゃんがゲリラの嫁さんにされて、終戦の混乱で母ちゃんが先に脱出しちまってさ。
あいつ男なのに襲われそうになって、相手の股間、銃でぶっ放して妹と逃げてきたんだってさ。
色々と苦労人なんだ。
妹セシリーちゃんっての、ぽっちゃり、ほんわりして可愛いんだぜ?
俺が狙ってんだから、お前手えだすなよ?
さて、そろそろ行くか〜」

結局、戦中のんびり暮らしてる奴なんていないんだよな。
ちゃんと妹連れて逃げたのは、たいした奴だ。

「ダンク、例の場所、行きは通るんだろ?俺少し遅れるけど先に行ってくれ。」

帽子代わりのストールを巻き直す。
郵便局のジャケットは風を通さないので結構蒸れる。
軍は装備だけは恵まれてたよなあ。
青く澄んだ空だ。風が出てきて気持ちいい。

返事の無いダンクは、表情が硬く、少し考えてチラリとサトミを見る。
首を振り、昨夜ガイドに忠告されたと同じことを言った。

「俺たちは郵便局員だ。事件に首を突っ込むな。」

「現場を見るだけさ。」

サトミの爽やかな笑顔にダンクの眉がハの字になる。

「俺はさ、急いで通り過ぎたいんだ。帰りは荷物あるから通らないぞ。」

「了解。みんな心配性だな。」

その言葉に、ダンクが目を閉じうつむく。
そしてだれも口にしなかった、しようとしなかった死んだ奴の名前が、ようやくそこで聞けた。

「当たり前さ、リードは……リード・デルフィは、とてもいい奴だったんだ。
あいつの彼女は、あいつの入った血まみれの遺体袋見ただけで、ショックで自殺しちまった。
ロンド郵便局、最悪の出来事さ。
俺たちはみんな、あいつの血の臭いが忘れられない。もう沢山だ。」

「血、か……」

彼らは郵便局員だ。
俺は、ついこないだまで軍の人殺しだった。

作戦のあと、鏡を見るのがいやだった。
目が見えるようになって希望を貰った気になったのに、それから見たのは赤い血の色ばかりだ。

上は里心が付くことや脱走を危惧して、一度も帰宅を許してくれない。
だから、離隊の独自条件にアタックすることを覚悟した。
誰も超えたことの無い、その条件に…………

失敗したら死ぬだけだ。そうして、辞めたい奴は死んでいった。
でも、俺は生き残った。

ボスは予備役は消えないと言ってたけど、無視すると吐いて出てきた。
口止めの誓約書山ほど書いて、除隊したら莫大な金が口座に入っていた。
自分は、これだけのことをしたんだと、気持ちが暗くなった。

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