『いそじ』〜その1〜

『いそじ』

登場人物
 
夏男(５０)
大手時計会社社長、自分の今までの人生に疑問を持ち５０歳の誕生日に家出をする、剣道有段者
 
 
アキ(２０)
身分の違う彼氏との関係に悩み家出、思い込みが激しい、気が強く口が悪いけどすぐ泣く、母子家庭、愛人の隠し子
 
 
謎の男…(３５)
夏男を追っている夏男の部下、気が弱いが仕事では優秀
 
 
 
 
 
 

センターにサス入ったら謎の男、上手奥から登場。電話している

謎の男 まだ見つからないのか、わかった、私も探す、見つけ次第確保しろ。絶対逃がすんじゃないぞ
 
謎の男下手奥ハケ
 
暗転
 
 
NA 「ハッピーバースデートゥーユー」「この会社に、君はもう必要ない」
「ハッピーバースデートゥーユー」「クビだ」
「ハッピーバースデートゥーユー」「俺は父さんみたいな人生歩みたくない」
「ハッピーバースデー」「会社の利益だけを考えろ」「父さん情けないよ」
「ハッピー」「使えない奴は切れ」「クビだ」「利益」「クビだ」「クビ」
「ハッピーバースデーディア…」「クビだ」
 
明転
 
アキ下手前から出てきて、夏男の荷物あさっていると、夏男が目を覚ます。
 
夏男 …。

アキ …。

夏男 …えっと…。

アキ …失礼しまーす。(財布を持ったまま上手前にはける)

夏男 待って待って！なんで行けると思ったの？

アキ 気付いてないかなーって思って。

夏男 そんなわけないでしょ！ばっちり目合ってたし。

アキ おっさんがカバン丸出してあまりにも無防備に寝ちゃってるから、私が保管してあげよう思ったの！本当に！それだけ！本当に！それだけだから！えっ？盗もうとしたと思った？そんなわけないじゃん！そんな寝てる人のカバンから財布盗るなんてひどいこと私出来ないし、確かに家出して３日、お金もなくなって、食べるものもなくて、お腹ペコペコでせめて１２０円くらいあればランチパック食べれるのにとか思ったけど人様のお金盗むなんてことするまで落ちぶれてないし！本当にお腹ペコペコだけど、死にそうだけど！お金盗もうとしたのだって無意識だし！今自分が一番驚いてるし！えっ？私お金盗もうとしてたの？怖い！嫌だ！なんで？なんで？ねぇなんで？
夏男 そんなすごい勢いで喋られて最終的に質問で返されても…。うん、今ので君の現状何となくわかったし、財布盗ろうとしたのはもういいから…
アキ うわーん！(泣きだす)

夏男 今度は泣き出しちゃった。忙しい子だな…。だから財布盗ったことはもういいから…。

アキ (泣きながら)お腹すいたーー！

夏男 あ、そっちなのね。ランチパックじゃないけどこれ(パンをあげる)
 
アキ袋を破りパンを食べる。２人ベンチに座る。
 
夏男 てか君いくつ？

アキ 二十歳

夏男 二十歳の女の子が財布とか盗んじゃだめだよ。いくらお腹すいて困ってるからって人のお金盗むのは犯罪だからさ、そもそもお金っていうのは働いた分だけその人に与えられる対価であって、それを盗むっていうのはその人の時間、それは人生と言ってもいいと思うけどそれを盗むって事なんだよ。人生を盗むっていうことは極端なことを言えば殺人と同じと言っていいわけで、お金を盗むのと人を殺すのは一緒ってことになっちゃうんだよね。それを若気の至りとはいえ簡単にやろうとするのってどんなんだろうね？そもそも最近の若者というのは…(説教続く)
 
夏男の説教の途中からアキの心の声重なる
アキにサス
 
アキNA 怪しい…。何でこのおっさん見ず知らずの私にランチパックおごってくれるわけ …。しかも私、おっさんの財布盗もうとしたのに…。同情？会って何分も経って ないのに私みたいな小娘におっさんみたいな人が同情なんてするの？そもそもこ のおっさんなんで平日の昼間っから公園のベンチで寝てるの？普通じゃないよね。 あっ！わかった！きっと泥棒の人だ！泥棒って仕事夜だから昼は眠いはずだもん ね。じゃあ何？私無意識とはいえ泥棒のお金盗もうとしちゃってたの？嫌だー！ …でもここでこうして会ったのも何かの縁、このおっさんにはっきり言ってあげ ないと…。よしっ！