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四章 道徳と良心

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一章:企業と倫理
二章:私事と公共
三章:企業と公共
四章:道徳と良心
五章:浪漫と算盤


これまでこの記事を通して、公共に対する考え方や、企業が公共領域に取り組む必要性を考えてきました。前回までの前提があるからこそ、私はファンファーレが価値観を発信していくことが重要であり、それに伴う倫理的な行動が必要だと感じているわけです。今回は、ファンファーレの社会的価値を考えるうえで、その前提となるファンファーレの態度について書いていきたいと思います。回りくどく感じるかもしれませんが、この前提となる態度を示すこともまた、ファンファーレの在り方を強く示すものになると思います。


ドグマに陥らないために


良心は道徳を造るかも知れぬ。しかし道徳は未だ甞て、良心の良の字も造ったことはない。
侏儒の言葉 / 芥川龍之介


まず私が会社を運営するうえで、社会的価値について考えたときに、「これが絶対的な価値だ」という価値体系を作りたいわけではありませんでした。教条的な価値体系は、自分自身の価値観にも、現在の社会的価値にもあまりそぐわないのではないかと感じていたからです。では、どのようにすれば、組織は教条的にならないのでしょうか。私が考えるヒントとして参照したのは、ロールズの社会的公正に関する議論です。まず、少しロールズという人物について説明しておきます。


ジョン・ロールズ(1921年~ 2002年)はアメリカの哲学者で、1971年に発表した『正義論』は、大きな反響を呼び、現代にも大きな影響を与えています。『正義論』では、もっとも社会的に弱い立場の人たちにあわせた社会制度を設計することを、正義の原理として提示しています。この議論は、反響も大きかったのですが、批判も大きく、後にロールズはこの議論を撤回し、「パターナル・コンセンサス」という議論に落ち着いていきます。「パターナル・コンセンサス」とは、簡単に述べれば「まずは人々が合意できるところから合意しよう」という発想で、『正義論』の原理のようなラディカルさは失われたといえます。ちなみに、2010年にNHKで放映された「ハーバード白熱教室」で有名なサンデル教授は、もともとロールズ批判で有名になった人だったりします。


「無知のベール」という可能性


さて、ロールズ自身は撤回してしまう『正義論』における正義の原理ですが、私はこの原理に行きつくための思考実験である「無知のベール」が、私が思考するうえでヒントがあると感じています。「無知のベール」とは、各人が自分の所属やアイディンティティを不明にした場合、どのような社会的制度を選ぶか、という思考実験です。この「無知のベール」をもとにすると、自分がもっとも社会的に弱い立場におかれる可能性を考慮するため、先ほどの「もっとも社会的に弱い立場の人たちにあわせた社会制度を設計する」という結果に行きつくというのがロールズの議論でした。同時に、批判についてもこのような「無知のベール」を想定することの困難さや、仮に「無知のベール」を想定できたとしても、結局のところロールズのようにリベラルな価値観を持っていなければ、ロールズのいう社会制度に合意はできないといったものでした。確かに、完全に「無知のベール」というものを想定することは難しいかもしれません。しかし、私は「無知のベール」のような思考実験を繰り返し、自分の想像力を広げていくことが重要だと考えています。
なぜならば、「無知のベール」を1度きりの思考実験でなく、定期的に繰り返すようにすれば、私たちを教条的な価値観から切り離してくれると考えられるからです。また同時に、一時的にその段階では、価値を定めることも可能になります。多くの批判のとおり、「無知のベール」は完全ではないと思います。しかし、その思考実験を完全でないからと捨ててしまうのではなく、何度も繰り返すことで想像力を広げ、新しい価値を創造できるツールにすることができるのではないでしょうか。それに何よりも、社会からのメッセージを受け取ったときに、そのメッセージを自分たちに吸収していく機会にもなるはずです。時代の変化にもあわせて、価値観を創造し続けていくうえで、この点でもよい思考実験となると思います。


ファンファーレの公共性


なので、ファンファーレの価値観の前提となる態度とは、「いかなるときも社会への想像力を広げよう」ということです。このことを基盤とすることで、より多様な社会的価値を生み出し続けることができるのではないでしょうか。「無知のベール」をベースにしながら、自分たちで議論し続け、価値観を生み出し続ける企業にすること。またその議論の場に多くの人が参加することで、前々回からみてきた公共にも資する場を作ることができると考えています。なぜなら、前回からの繰り返しになりますが、今の社会的環境は、ユーザーとの相互コミュニケーションが比較的容易になっているからです。多くの意見を取り入れながら、自分たちも想像力を広げていくことで、現在の会社の公共性が成立すると現段階では考えています。


以上がファンファーレの価値観の前提となる態度でした。

次回は、その前提のもとで、ファンファーレが大切にしたい現在の価値観、持続可能な社会を作っていくこととについてまとめていきたいと思います。


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