屋上の富士山
かれこれ3ヶ月、わたしは昼休みになると1人で屋上にあがり、お弁当を食べている。
入社当時は、同僚と子育てや上司の文句をいいあいながら、ごはんを食べるとお腹が痛くなってしまった。なるほどわたしはこの女子会みたいな昼休みは向いてない、としずかにドロップアウトしてから、屋上の青空ごはんを始めた。
ここからはたまに、富士山が見える。
あと屋上にはたまに、大谷くんとゆう一番若手の営業の子もくる。
でも面識はほぼないから会話はない。
彼はゆっくり菓子パンを柵に寄りかかって食べる。なんだかいつもお洒落な紙袋から、色んなパンを取り出すから、気になる。お店のロゴは外国語だし、達筆なサインだから読めない。
『春町さん、いつもなんで1人なんですか』
ある日突然に話しかけられた。
『友達いないんですか、経理課だったら、アキちゃんていますか?あのこは、話しやすいですよ』
『アキちゃんが、わたしに対して話しやすいと思うか分からないでしょう』
『そうか。アキちゃん連れてきてほしいなあハハハ』
大谷くんこそ、友達がいないんじゃないか。
なんと彼は、この屋上から富士山が見えるのすら、気づいてなかったのだ。
呆れて、さらになんだか彼が心配になったので、仲良くなりすぎないようにしながら少し話すようになった。
アキちゃんに、大谷くんのことを聞いたら、クールに『え知らないです』といわれた。何が話しやすい、だ。人違いかと思ったわ。しかも大谷くん、本当に影薄いんだな。
わたしは、1年で会社を辞めた。大谷くんは結局友達はできないままだったみたいだ。
パン屋の名前を、辞める前の日にとうとう聞いたけど、お店にいったら読み方違っていて、笑えた。ダサい奴。
富士山が見えることも知らないで、よくぞあの屋上に通いつめたものだ。
と、パン屋の帰りに考えて、急に悲しくなった。
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