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ボストンは雇用条件の見直しでバス運転士の不足を改善

case|事例

ボストン市を中心にマサチューセッツ内の公共交通を担っているマサチューセッツ湾交通局(MBTA)は、数か月にわたってバスの運転士不足による運休や本数の削減を強いられてきた。5月に公表されたデータによるとパンデミック以前よりも200人も運転士が減少しており、公共交通の運行をパンデミック前の水準で維持することが難しい状況になっている。これはMBTAが今後5年間で26%サービスを拡大しようとするタイミングでもあり、将来のサービス拡充計画は幸先の悪いスタートとなった。

運転士の採用が進まない理由として、新規に正規採用された運転手でも3ヶ月から6カ月のパートタイムでの使用期間を経なければならないことや、初任給の低さなどが組合などから指摘されていた。MBTAの初任給は、バス運転士の経験に関わらず、時給22.21ドル(約3,250円)で、全米の中でも最低水準だった。

このような状況を踏まえて、MBTAは運転士不足を解消するために福利厚生や雇用条件を改善に着手し、試用期間は完全に廃止し、初任給も時給30ドル(約4,390円)に上げた。結果、現在では求人が殺到し、8月1日から25日までの間に735人からの応募があり、7月対比で356%も応募が増加している。

アメリカでは雇用需要の高まりに併せて、雇用主間の人材獲得競争が激化している。これまで賃上げを行ってこなかった企業にとっては、人材の獲得がますます難しくなる。また低賃金での雇用は離職率を高めるため、現状の雇用を維持できるかどうかも不透明といえる。また、民間セクターと公共セクターでも状況が異なる。民間セクターはパンデミックによる経済損失から回復しており、利益を賃上げに充てやすい状況にある。一方で、公共セクターはパンデミックによる経済損失からの回復が十分ではなく、雇用条件を改善するための大規模予算の獲得も議員の意思決定次第で難しい状況にある。運転士をはじめとする働き手の不足には雇用条件の改善が何より重要であることが理解できるが、公共セクターでは、そのための予算獲得などに難しさがある。

https://www.fastcompany.com/90945883/bostons-transit-agency-used-one-weird-trick-to-increase-bus-driver-job-applications-by-356

insight|知見

  • バスの運転士の不足は、日本だけではなくアメリカをはじめ先進国共通の課題ですね。

  • ボストンの事例から得られる知見は、非常に単純明快で運転士不足を解消するためには「雇用条件を改善する」です。が、しかし、日本のバス事業者の99%が赤字と言われている現状で、賃上げなどの原資をどこから得るのかということは重要な論点だと思います。

  • よく、「利用者減→収支悪化→サービスレベル低下→利用者減」という公共交通衰退の負のスパイラルが指摘されますが、サービスレベルを維持もしくは向上させて利用者を減らさないために賃上げは投資だと考えるのか、自動運転などの新技術に期待するのか、ライドヘイリングのような規制緩和を伴う新サービスに期待するのか、AIタクシーなどとの役割分担でバスのサービス領域を狭めるのか、いろいろな選択肢がありそうです。個人的には、交通体系として上記のような選択肢のミックスではないかと思いますが。