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事実上、NYCではAirbnbが姿を消す

case|事例

ニューヨーク市は9月5日に施行した地方法第18条でAirbnbをはじめとする住宅の短期レンタルを厳格に制限する。これによってニューヨーク市内から住宅の短期レンタルは、事実上、姿を消すこととなる。今回施行された条例では、Airbnbなどの短期レンタルの運営方法を制限するだけでなく、多くのゲストやホストに対して住宅の短期レンタルの運営をほぼ禁止することになる。すべての短期レンタルのホストはニューヨーク市への登録が必要となり、賃貸しているか所有している住宅に実際に住んでいて、かつゲストが滞在している際に立ち会える人に限り運営資格が与えられる。また同時に宿泊できるゲストは2名までとされる。

年間6,600万人が来訪するニューヨーク市で、Airbnbは安くて広い宿泊場所を望む来訪者から人気があり、2022年だけで8,500万ドル(約126億円)の収益があったと推計されている。一方で、短期レンタルによって騒音やゴミ、治安の悪化などが発生し、住環境が悪化しているとの指摘があった。また短期レンタル用に投機的に住宅が取得され住宅不足と住宅価格の高騰も都市問題となっていた。ニューヨーク市の今回の措置は、Airbnbをはじめとする住宅の短期レンタルを制限し、いかに居住環境を守るのかという事例を示している。

居住環境を守るために短期の住宅レンタルを制限しているのはニューヨーク市に限らない。米ダラス市は短期レンタルの運営を特定の地域に限定している。またカナダのケベック州や米メンフィス市はライセンス取得を義務付けている。短期レンタルの運営日数を限定している都市もある。サンフランシスコは90日、アムステルダムは30日、パリは120日とそれぞれ貸し出せる日数を制限している。

Airbnbやホストは今回の厳格な制限を不服として法廷で争っているが、彼らにとって望ましい結果は得られていない。Airbnbは今回の制限は観光産業やホームシェアリングで生計を立てている中小企業に経済的な打撃を与えるだけではなく、訪問者に対しても宿が得にくくなるというネガティブなメッセージの発信になると主張している。また一部の住宅のオーナーからもフルタイムでの賃貸ではSOHOや別荘的な利用と短期レンタルを組み合わせた柔軟な利用が妨げられるとの批判もある。

insight|知見

  • 住環境を優先するか観光を優先するかのジレンマの問題は、住宅の短期レンタル以外にも世界中の都市で見られます。そして、NYCだけではなくアムステルダムやコペンハーゲン、バルセロナなどかつて観光で先進的とされていた都市から、政策の軸足を住環境保護に移しているように感じます。

  • その理由のひとつは、観光優先による社会的な費用が社会的な便益を上回り、その負担が市民でも実感できるレベルで重くなってきているためではないかと思います。インバウンド誘致でも大型MICE誘致でも経済効果いくらという魅力的な経済的な数字が並べられがちですが、実際にどの程度の効果だったのかはなかなかレビューされませんし、市民生活への負担やその緩和についても議論の俎上に上りにくいような気がします。公共政策では、特に事後評価が重要だろうと思いますし、評価結果をもとにした政策方針の転換も考えたいところです。

  • またAirbnbやライドヘイリングなどのような革新的なサービスや斬新的な政策は、導入当初にとても注目を集めますが、導入後にどう革新的なサービスを手なづけているかとか斬新的な政策がどういう方針転換をたどってなじまされたのかというようなフォローアップも重要だなと思いました。