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自転車レーンが都市の経済にもたらす5つのメリット

case|事例

(5年前の記事ですが引用している論文やレポートも多く、今読んでも参考になる記事です。)

自転車の利用促進は、様々な立場から多様な論争や主張がある。例えば自転車レーンの整備は、自転車利用者の安全性を確実に高める一方で、整備にかかるコストや空間のありようなどについては議論の余地を残している。このような中で、健康や環境に対するメリットに加え、都市の経済に対するメリットを明らかにするような研究が行われつつある。そのメリットは大きく5つに分類できる。

1.地域の小売り売上高を増加させる:ニューヨーク市は、積極的に自転車ネットワークの拡充を図っているが、あわせて自転車レーンの整備と地域の小売業との関係を追跡している。2012年に発表された研究では、9番街の自転車レーン整備をケースとして分析をおこない、マンハッタン全体では小売業の売上高はわずか3%の増加だったのに対し整備された自転車レーン沿道では49%も増加したことを示している。2014年にはより広範な調査が実施され、保護された自転車レーンが整備された通りでは、整備されていない通りと比較して24%も売上高が増加したことを示している。またソルトレイクシティでも、売上税収の統計から自転車レーンが整備された場合の売上増加を確認している。サンフランシスコやトロントでも同様の結果が得られている。一方で、バンクーバーでは短期間のデータに基づいたものであるが、真逆の傾向が示されており、自転車レーン整備後の売り上げの減少が報告されている。

2.自転車利用者の消費額は自動車利用者より多いフランス国内6都市を対象にした調査では、自転車利用者の方が自動車利用者よりも1週間の消費額が大きいことが示されている。同様の傾向はコペンハーゲンの調査でも指摘されている。2012年のオレゴン州で実施された研究では、ポートランド市内で自転車でバーやレストラン、コンビニに行った人は、自動車で行った人よりも1か月あたり24%多く買い物をしており、来訪頻度も高いことを明らかにしている。この著者らは自転車は自動車よりも維持費が少ないことから可処分所得が多くなるためではないかとその要因を考察している。一方で、スーパーマーケットでの消費では逆の結果を示しており、購入品目によって傾向が異なることも示唆される。

3.住宅の価値を高めるカナダの都市の住みやすさを評価したレポートでは、都市を魅力的にする要素のひとつとして自転車が挙げられている。また、アメリカのいくつかの研究において、自転車レーンへの物理的な近接性が不動産価値を高めることを定量的に示している。たとえば、2004年にインディアナポリスで実施された研究では自転車レーンへの近接性が同じタイプの住宅販売価格にどのような影響を及ぼすのか分析しており、自転車レーンから1km以内に立地する場合、そうでない場合と比較して11%住宅価値が高くなることを明らかにしている。デラウェア大学の研究者チームは、過去の文献調査から自転車レーンがあることはわずかに住宅価値や売りやすさを高めるか、ほとんど影響を及ぼさないと結論付けているものの、50m以内に自転車レーンがある場合、住宅価格が8,800ドル(約140万円)高くなることを示している。一方で、不動産価値を高めることは必ずしも歓迎されるものではなく、ジェントリフィケーションの助長につながるとの指摘もある。

4.自転車レーン整備は通常の道路整備よりも多く雇用を生む自転車レーンの整備コストは、ペイントの場合で1kmあたり2万ドル(約320万円)、道路拡幅を伴う場合で1kmあたり120万ドル(約1.9億円)と整備様式によって幅があるが、その整備コストは常に論点のひとつとなる。一方で、2011年に実施されたアメリカ11都市の計58のプロジェクトを対象にした分析では、通常の道路整備よりも雇用を多く生み出していることが明らかにされている。自転車レーンを整備する場合、100万ドル費やすごとに11.4人の雇用を生み出し、通常の道路整備の7.8人よりも多い。自転車レーンは、通常の道路整備よりも必要な資材が少ないものの、多くの計画や設計が必要となり建設労働者やエンジニアの雇用が必要になるためだと考察されている。

5.自転車レーンは知識労働者やテック企業を惹きつける:リチャード・フロリダは多くのクリエイティブクラスは自転車の利用を好むと主張している。またクリエイティブクラスの誘致のためには自転車レーンを整備すべきであり、自転車通勤が多い街は賃金水準が高い傾向にあると指摘している。アマゾンの第2本社誘致における提案依頼書からもわかる通り、ハイテク企業にとって自転車レーンをはじめとする利用環境は立地の意思決定に重要な要素のひとつである。実際に、シカゴをはじめ北米の都市のいくつかは企業誘致を目的に自転車インフラの投資を行っている。

insight|知見

  • 記事で紹介されている論文やレポートは初見のものが多く、今度時間をかけて読んでみたいと思います。

  • 自転車(たぶん徒歩や公共交通も)は多様な価値を持つのですね。Amazonの第2本社の誘致で自転車の利用環境が言及されている点なども興味深いです。移動を含めた生活環境やライフスタイルがクリエイティブクラスなどで重要視されているということだろうと思います。日本の交通の議論ももう少し幅広な議論があっても面白いのになと思いました。