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交通死亡事故が増加傾向のLAは住民投票で公共交通・自転車・徒歩への投資強化を決定

case|事例

先週、ロサンゼルスで「Measure HLA」の推進強化の是非を問う住民投票が行われ、有権者の3分の2が賛成票を投じた。「Measure HLA」は2015年に承認された交通計画で、道路ネットワークをコンプリートストリートへとアップグレードし、すべての道路ユーザーの安全性を高めることを目的にしており、歩道の改善や自転車レーン、バス専用レーンの整備などが位置付けられていた。その整備目標は、延長800km以上の区間での歩道拡幅や交差点改良などの歩行環境改善、約400kmの区間でのバス専用レーンの整備、約1,290kmの区間でのカラー舗装による自転車走行区間確保、約640kmの物理的に分離された自転車専用レーンの整備と、とても大規模で野心的なものだった。

しかし、その計画の進捗は芳しくなく、整備目標のわずか5%程度しか進展しておらず、このペースだと2035年までの整備目標を達成するまで160年かかると進捗の遅さが指摘されていた。計画の進捗の遅さの原因として、行政内の部門間調整の不十分さや縦割り文化、職員の反発などさまざまな理由が指摘されている。また、原因は、行政だけではなく、コミュニティ側にもある。住民は、自転車や公共交通への投資を増やすことに対して、総論では賛成しているが、生活習慣が自動車に慣れきっているため、いざ具体策を進める段階になると、車線の削減や静穏化に強い抵抗を示す。

今回の住民投票でキャンペーンを展開した「Street for All」のシュナイダー氏は「公共交通や自転車の優先順位を上げ、歩行者の安全性を高めようという計画は数多あるが、地元や企業の反対で車線の減少や駐車場の撤去は頓挫することが多く、実行に移すのはとても難しい。」と話している。実際、彼らは、今回のキャンペーンを戦略的に展開し、自転車の支持者だけでは票の獲得が不十分で、公共交通の支持者は数は十分だが投票をしないだろうという現状の分析を踏まえて、歩行者の安全性に訴えることで多様な道路ユーザーからの支持を獲得することに成功をしている。

今回の住民投票で賛意が得られたことによって、当初のMeasure HLAで位置付けられた道路整備を市に義務付けることができたため、今後10年から15年で目標達成が可能になると見込まれている。また同時に市が約束を反故にした場合、住民が市を訴える権利も得ており、計画の実効性は着実に高まったと言える。

insight|知見

  • 勉強不足で、どういう計画プロセスや制度を用いた住民投票なのかということはわかりませんが、記事を読む限り、さすが民主主義の国だなという印象を受けました。

  • 移動手段の支持者ごとに異なる投票特性を踏まえて、共通の便益を設定して、そこを訴求点に支持を獲得するという戦略的なキャンペーンのうまさには唸らされます。住民参加型のプロジェクトは、グラスルーツな感じになるか、賛否表明に留まるかになる場合も少なくありませんが、政策や政治を動かす戦略性は示唆がたくさんあります。