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Vol.29 バレンタインに生まれて初めて真っ赤な薔薇の花束をもらった


bonjour! 🇫🇷金曜日配信のフランス滞在記をお届けします。

今日は、2020年2月14日。
フランスで迎えたバレンタインデーのこと。

愛し合う「恋人たちのお祭り」バレンタインデー。
日本では、ドキドキしながら女性が男性へチョコレートを渡す日というイメージがありますが、アムールの国、フランスでは、なんと日本とは逆に男性から女性へ花束を贈る風習があるのだそうで、油断していた夫も私もびっくり。


夫は職場でバレンタインデーはどうするの?と同僚から聞かれ、上司にはお子さん見ててあげるからクラシックコンサートへ奥さんと行ってきてはいかが?と言われ、日本とは違う受け身でいられないバレンタインのプレッシャーらしきものを感じていた(笑)。当時、娘は3歳になったばかりでさすがに預けるのは・・と遠慮してしまったのだけれど・・ちょっと行きたかったなあ。バレンタインデート。


2020年2月14日・バレンタイン当日。
パパと娘が花束と今夜のディナーの材料を買いに出かけ、チョコレートを用意するはずだった私にはまさかのフリータイムが訪れた。

ん?これって、母の日じゃないの?

と思いつつ、
おそらくフランスへ来てからはじめての娘のいない街歩きの時間です。こうしてはいられない、と履かれずにたたずんでいたスカートを引っ張り出して、タイツに足を通し、スカーフを巻いて、バスに飛び乗った。行き先は小さな美術館。

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フランスは街のあちこちに美術館があって、しかも無料なところが多いので、私にとって天国にような場所なのですが・・・。普段子どもと一緒にいるとなかなかゆっくり見て回ることは難しく、いつかゆっくり見てまわりたいなと思っていた。それが、図らずも今日叶ってしまった。広々とした空間に、まるで美しい窓のように並んだ風景画の前で静かな時間を過ごす昼下がり。



ん?これって、はたしてアムールの日なのか?
母の日じゃないのか・・?


そんなことを考えながら、美術館中央の螺旋階段をゆっくりと登り、大きなフロアに入っていくと、中央の椅子におじいさんが座っていた。

軽く会釈して部屋に入り、作品をぐるっと見て回り出て行こうとすると、帰り際、彼と目が合って手招きをされた。

ちょうど例の感染症が流行り始めていて、ご高齢の方の近くに寄るのは気が引けたが、彼はこちらへどうぞと席をあけてくれた。彼は、手に古い家族写真を持っていて、隣に座るとほんのりと甘いカフェオレの匂いがした。

私が着席すると、写真を一枚一枚指差しながら、ゆっくりゆっくりとフランス語で喋り始めた彼に、「フランス語がわからなくてごめんなさい」と言うと、かまわないよ、とばかりにニコニコと笑いかけられた。

彼の手の中にいるのはとても楽しそうな笑顔を浮かべた奥さんと息子さん。何をおっしゃっていたのかよくわからなかったけれど、おそらく、今日展示されていた絵の山に奥さんと息子さんと毎年、何度も何度も登ったというお話だったのだと思う。ある時からパタっと写真がなくなったので、何かあったのだろうけれど、それは私にはわからない。

あ、そうだ。
「私にも娘がいましてね。かわいいんですよ」

日本語でそう言って、首からぶら下げていたデジタル一眼レフをカチャカチャといじり時を戻す。興味深げにのぞき込むおじいさん。画面に私の娘と夫の姿が映ると、まるで在りし日の自分を眺めるかのように目を細め、私にはわからないフランス語でしみじみと何かを語っていた。もしかしたら若かりし日の自分の姿を重ねていたのかもしれない。

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ふと時計を見ると、すっかりいい時間。

家族の元へ帰りますね、とおじいさんに挨拶をしてフロアを後にした。写真をにぎりしめながら、吸い込まれるように山の絵の方を眺めていた彼の姿は寂しそうでもあり、嬉しそうでもあり、不思議な雰囲気をまとっていた。

帰りのバスの時間を調べると、少しだけ余裕があったので、童話に出てくるようなかわいらしい小さなお庭をぐるりと回り、後ろ髪をひかれるような思いで美術館を後にして、黄色いバスに乗った。


ゴトゴトと荒々しくバスに揺られながら家の近くでバスを降りる。

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沈んでゆく太陽に急かされながら歩き始めると、

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花屋という花屋にバレンタイン用の花束が売られ、バレンタインの街はとても賑やかな彩りに包まれていた。


ただいま。


家に帰ってドアを開けると、お肉を焼く良い匂いがした。
テーブルの上には、シャンパンと、サラダとエビのカクテルみたいな前菜。
キッチンから娘がおかえり!とかけてきて、後ろから夫がニコニコしながら持ってきたのは、カーネーションではなく赤い薔薇の花束だった。


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真っ赤な薔薇の花束をもらうなんて、生まれて初めて。
やっぱり、母の日とはちょっと違うみたいだ。



シャンパンで乾杯して、綺麗に並んだ前菜を摘んでいると、ソテーしたお肉がふわっと大皿にやってきて、その上にフォアグラがちょこんと鎮座した。まるでレストランディナータイムがはじまった。

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これが?バレンタイン?

興奮冷めやまぬ私は、なかなか寝付けず、このまま寝てしまうのが惜しい気もして、家族が寝静まったリビングのテーブルに飾られた赤い薔薇の花束をいつまでもいつまでも見つめていた。


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もうすぐバレンタイン。今年は、日本式か、フランス式か。どちらのスタイルでいこうかしら。そう思いを巡らせつつ、いつか、夫とバレンタインデーのフランスでデートしてみたいなと夢を見た。

バレンタインの足音を聞きながら

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