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白露 - はくろ - 歩みを止め振り返った過去の儚きものの中に収穫する種を見つけるとき

白露とはどんな時期か

二十四節気通信。2020年9月7日〜9月21日までは「白露」の時期です。

白露とは、江戸時代に発行された(※)暦便覧(こよみびんらん)によると、
「陰気ようやく重なりて露こごりて白色となれば也」
暑さ(陽気)が寒さ(陰気)と入れ替わり、気温が下がることで草花に朝露が結ばれ、朝もやの中で白く輝く、という意味です。

(※) 暦便覧;江戸時代に太 玄斎 たい げんさい( 松平頼救 まつだいらよりすけ) が、校訂として天明7年(1787年) (今から233年前) に著した暦の解説書。

さて、この〝白〟という感じも〝露〟という漢字もそれぞれ、色んな意味・顔を持つ漢字だなと思ったのでそのことについて書いてみます。

白の持つ意味

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白は陰陽五行論にてまさに今の時期、秋を意味する漢字です。

白は、純粋性・清潔さ・穢れの無さといったイメージが強いからか、生まれたばかりの子供や「誕生」を連想するかもしれませんが、実は白には「再生」という意味もあります。再生とは一度失ったものが再び蘇ること、つくり直される事。

秋の時期にはいよいよ、豊穣のシンボルであるお米が収穫の時を迎えます。お米は白色です。初夏の田植えの時期には、水をたっぷりとはった田んぼの中で可愛らしく並んでいた苗が、暑い夏を経て上へ上へと背丈を伸ばし、秋になると黄色く輝き始め、やがてその時を知っていたかのように上を向いていた穂先を下へ向け頭を垂れる。その稲穂の中には、結晶である白く透き通ったお米が納められています。

成熟するにつれ、稲は青々とした若さや全方向へ拡散していくようなエネルギッシュさを失います。でもその代わりに、稲は米という白くて美しい結晶をこしらえます。稲という一つの作物の中で死と再生を果たしているのです。

露の持つ意味

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露は本当に色んな意味を持つ漢字です。
光に当たってきらきらと美しく輝く露(つゆ)は、「露珠(ろじゅ)」や「玉露(ぎょくろ)」など宝石にも例えられ、美しいもの、として表されます。

また、自然界に発生する露は、大気中の水蒸気が冷えて、物の面に水滴になってついたもの。
露を「あらわ」という読み方をした場合、隠れていずはっきりと見えること、隠さずわざと見せること。むきだし。という意味を持ちます。
つまり、今まで目に見えなかったものが姿を現す様を露という漢字は表しているのです。

そんな露は、古くは「儚きもの」の代名詞として使われていました。

一度、姿形を感じ、体験として得たものは、その時点で永遠性を失います。
時間も、空間も、幸せも。命だって。だから愛おしいのです。
以前、心理学の講座で、人間は不幸になるよりも幸せになる方が実は怖いと思っている、というお話を聞いて「なぜだろう?」と疑問に思ったことがあるけれど、なるほど。一度幸せという体験をしてしまったら、その時点でその幸せは永遠性を失うということを人は何処かでわかっていて、恐れるのだ。
「儚きもの」や「もののあわれ」というものに、物悲しさと心の芯をつくような美しさ、そして幸せという複雑な感情を覚えるのは、得ていくものと失っていくものを同時に肌で感じるからなのだ。
秋はそんな儚きものに対し、感情がゆらぐ季節なのです。

収穫とは一度手を止め過去を見つめることで始まる

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この時期になると、まだ暑さを感じるものの、吹く風はひんやりと気持ちよく、また太陽が遠ざかり空が高く高くなってゆく。夕方には西日がさし、いつも見慣れた景色の中の思いもよらぬところに影を作り出し、現状の認識をゆるがす。

「悲しみ」の季節である秋になると、人はセンチメンタルな気持ちになるけれど、それは今年という一年の終わりを感じ始めるからかもしれない。秋口の陽気も手伝って、始まりに向いていた目が終わりへ、未来に向いていた目が過去へと方向を変えていく。

秋になってから、私はよく「収穫とはなんだろう?」と考えるのですが、収穫とは、未来へ向かって走ってきた者が、過去へと目を向けたときに得られる感覚なのかなと今は感じ始めています。

過去へ目を向けるということは、今までやってきたことを一度止めること、成長を一度止めること。
やめることはとても怖い。成長しないことはものすごく怖い。これはあらゆる人の心の中に通底しているものすごく強い感情だ。しかし、そこを潜り抜け一度成長を止めてみて、過去に目を向けてみると、実は自分の中に実り結晶化していたもの、〝種〟に気がつくでしょう。

太陽へ向かって伸びることをやめ、頭を垂れ米という実り、種をつける稲のように。

もし稲に太陽へ向かって伸びることしか手段がなかったならば、米という収穫物も、次世代につなぐ種も生じ得ない。


一度手を止め、過去を見つめ直すことで、私の中で「収穫」が始まる。
この時期、朝夕に見られる白露は、そのサインなのかもしれない。
ちょっと早起きして、朝日に輝く白露を探しに行ってみようと思います。

だんだんと秋が深まってまいりました。新米の時期もそろそろ。
みなさまも、よき秋の時間を🍁


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