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076. 古い地母神信仰の残る奇石の街、ル・ピュイ=アン=ブレでほほえむ赤マリア|オーベルニュ編

bonsoir!🇫🇷 毎週金曜日更新のフランス滞在記をお届けします。

前号からようやくスタートしたフランスのお臍、オーベルニュ地方への旅のお話。今日は、古い地母神信仰の香りを残す街、Le Puyル・ピュイ-enアン-Velayブレで出会った赤マリアのお話。


オーベルニュへの出発前日。夫と娘が買ってきたザクロでジュースを作りながら何となく不思議な体験が待っている予感が漂っていた(→☆75話参照のこと)。
その予感は的中。この地の雰囲気はとても独特で、私の記憶に強烈に刻み込まれることになったのだった。

出発した当日は、朝からあいにくの曇り空が広がっていて、時々車のフロントガラスを叩く細かな雨をかきながらオーベルニュへと向かった。雲の晴れ間に現れた虹と並走するように向かったストラスブールへの旅や()、カラッと穏やかに晴れた日の太陽に照らされながら車を走らせたプロヴァンスへの旅()とは対照的な出発だった。

雨、やんでくれないかなぁ。

少し憂鬱な気持ちで過ぎ去っていく同じような景色を目で追っていると、急にひらけた街へ出た。「着いたよ」と夫が言って、その街を見下ろす高台にある駐車場に車を停めた。私たちは車を降りて街を見下ろすと、そこには可愛らしいオレンジ色の建物とその隙間からニョキッと生えてきたような大きな岩が点在しているのをみた。なんて不思議な地形なのだろう。そして、一際高い岩の上に赤マリアの姿があった。

丘の上から街を見つめる赤マリアは街のランドマークになっている

それはいわゆるマリア様というよりも観音様のような佇まいだった。呼吸をするたびに湿り気を帯びた空気が体の中へ入ってきて、初めて訪れた異国の地だというのに、この街にそこはかとないノスタルジアを感じさせ切なくなってきた。しかし、視界がちょっと明るくなった気がして見上げると、先ほどまでは今にも泣き出しそうな顔をしていた空からうっすらと光が漏れ出していた。あの時、なぜだかわからないけれど心がものすごくホッとしたのを覚えている。さぁ、街へ降りて、もう少し赤マリアの近くまで行ってみよう。

コルネイユ岩山の上に立つ赤銅色の聖母マリアとキリストの像

石造りの坂道を登っていくと、正面に小さな子どもを抱いた赤マリアが見えてきた。この赤マリアはナポレオン三世の時代、クリミア戦争でロシアから奪った213の大砲から鋳造されたらしい。中は空洞で展望台になっていて、そこから眺める景色は絶景と聞くけれど、残念ながらこの時は閉じていて登ることがことができなかった。

高々と掲げられた十字架

キリスト教が広がってからこの街は、スペインの西の果て、Santiagoサンチアゴ de Compostelaコンポステーラへと続く、巡礼路の出発地点の一つとして栄えた。世界中から多くの巡礼者を受け入れ、信仰の対象となったが、それ以前から土着の神々を信仰する聖地だった。

もう一つの大きな岩山、サン・ミッシェル岩山。頂上には礼拝堂がある

火山地帯であるオーベルニュ地方には、火山活動によって隆起した奇岩がたくさん存在するが、このLe Puyル・ピュイ-enアン-Velayブレの街の点在する大きな岩山もそれによるもの。ここは古くから自然の力と信仰の力が強く結びついた地だったようで、街の至る所にキリスト教で覆うことのできない古い土着の神々や、地母神信仰の香りが漂っていた。

次回は、そんな香りが色濃くノートルダム・ド・アノンシアション大聖堂(ル・ピュイ大聖堂)へ。そこでミステリアスな顔を持つ黒マリアと出会ったのでした。

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