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081. 子育て十牛図|第一図 『尋牛』 つわりでロックダウン

一日一描。

今日から、昨年から勉強している十牛図を使って、子供が生まれてからこれまでのことを描いてみようと思います。

十牛図とは

逃げ出した牛を探し求める牧人の様子を、段階的に描いた十枚の絵。
十枚の絵にはそれぞれ詩が添えられています。

牛は、「ほんとうの自分」の象徴。
牛を探し求める牧人は、「真の自己を究明する自分」を表します。

「十牛図」とは、俗世間の生活の中で自分を見失い、ほんとうの自分を探しに旅に出る若者の物語。これまでの自分を否定し、何かを求め、本質を捉え、より大きなものへと開花していく自己探究のプロセスなのです。

この十牛図、調べれば調べるほど、たくさんの解釈が存在するようです。今回は、あくまでも私の「子育て」という経験をもとに、解釈をイラストを描きながら綴っていきたいと思います。

第一図は『尋牛』

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(出典:Wikimedia Commons User:MichaelMaggs)

茫茫として草を撥い去って追尋す。
水濶く山遥かにして路更に深し。
力尽き神疲れて覓むるに処なし。
但だ聞く楓樹に晩蝉の吟ずるを。

(訳)
行く手を阻むかのような草を払いのけて、ひたすら牛(本当の自分)を探し求める。
大きな河に差し掛かることもあれば、果てしなく高い山を上らねばならぬときもあり、自己を見つける道はどこまでも遠い。
疲れて力尽き、歩く気力も立ち上がる気力も失って、どこへ向かえばいいのかもわからない。
楓の木の下に座り込んで、ただ蝉の鳴き声を聞くばかりだ。

今まで信じ、認識していた「自分」というアイデンティティが崩壊します。
まるで自分を今まで支えてきた地面がなくなってしまって、宙ぶらりん状態。
そして、その崩壊度合いが強いほど人生のどん詰まりポイントとして感じられるかもしれません。

自分ってどんな人間なんだっけ。
自分は一体どこから来てどこへ向かっているのだろう。
そもそも自分って何だっけ。
もしかしたら、本当の自分はここではないどこかにいるのかもしれない。

・・・
本当の自分に疑問を抱き、牛である「ほんとうの自分」を探す旅に出るのが第一図です。

これ、コロナ渦の今の生活に似ていませんか?
さらに、出産・育児を経験した人にはこのコロナ渦の自粛生活には既視感があったのではないでしょうか。
人によって状況は様々かと思いますが、出産・育児は、今まで当たり前だったことが一度壊れて、新しい自分のライフスタイルやあり方を探究し始めます。あの時の感じが、今回のコロナ渦の自粛生活と似ているなぁと私は感じていました。

これは私だけでなく、Twitterで色んな女性が呟いていたし、漫画を描かれた方も。

第一図は、コロナウィルスや妊娠出産など、目の前の現実が崩れ去る何かしらのきっかけがあってスタートする新しい自分探しの出発点を表しているのです。


私の第一図は「つわりでロックダウン」

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私は妊娠してつわりが酷く、食べられるものはあんまりないし、しばらくはトイレと布団をひたすら往復するような生活でした。仕事もやめ、家事もままならず。

ぼうっとする頭の中には、土日に学会や研修を受けに出かけて学びたい意欲を満たしたり、お給料日に好きなものを買ったり、会いたいときにフラッと友達に会いに行ったり、夜遅くまで飲んで終電を逃したり・・というこれまでの生活が走馬灯のように駆け巡ります。今まで当たり前、と思っていた全てのことがまるで全部幻想だったのではないか、とも感じられました。

ただ食べて排泄して寝る、というだけの生活が何日も続き、私は何もかもを失ったかのような気がして絶望していました。一日中、トイレの前でうずくまってひたすら泣き暮らす日々は、何だかとても長く感じられたのでした。

あるとき、トイレの前で泣き疲れて寝てしまった私に仕事から戻った夫が、「自分を責めないで。今大事なことしているんだから」と声をかけてくれました。そのことがきっかけとなり、よい意味であらゆることを諦めた末、腹が据わってつわりがすっきり消えていきました。

今までの延長線上にはない、新しい生活や自分が待っているような気がしたのです。私はそこから新しい自分を探しに出かけます。

つづく。


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