見出し画像

086.雨のピュイ・ド・ドーム、虹がかかったクレルモンフェラン|オーベルニュ編

bonsoir!🇫🇷 毎週金曜日更新のフランス滞在記をお届けします。今日はオーベルニュで多発した「〇〇できなかったシリーズ」Vol3(笑)、ピュイ・ド・ドーム編。活火山やカルデラ好きな夫が行きたいと企画してくれたオーベルニュの旅であったが、段々と雲域が怪しくなり・・・。


さぁ、これからオーベルニュの旅の中でも夫が楽しみにしていたピュイ・ド・ドームへいざ行かん。と、その前に腹ごしらえをしてお腹の虫を落ち着けようと、ピュイ山脈の麓の集落の小さなレストランに入り、軽くランチをすることにした。

集落の中心にある大きな教会近くのレストランに入ると、左手にお土産ショップが併設されていた。近所の人が作ったであろうジャムやマスタードの瓶詰めなんかを所々に織り交ぜながら、観光案内のマップや絵葉書や、いかにも観光地!というようなお土産物がぎゅうぎゅうと並んでいた。レジの前を通り、細い廊下を入っていくとなんだか山小屋の様な雰囲気の空間だった。

少しお昼時を過ぎかかっていたからか、お客さんはまばらだったが、カントリー調な作りの店内の小さなテーブルには地元の人と思しきおじさんがポテトか何かつまみながら新聞を広げ、その奥では老夫婦がお店の人と親しげに会話をしている。ものすごくローカル感満載なお店だ。

わたし達は奥の席に案内されて、メニューを見せてもらい、オムレツか何かを頼んだ。席のすぐ後ろの窓からはこのまま上がっていくと山頂に辿り着きそうな細い道が民家の間を縫うように伸びていた。この上にピュイ・ド・ドームがあるのかな。と、静かな景色をぼうっと眺めていると、微かに空から唸るような音が聞こえ始めた。

「・・ん?」
「これって雷かな」

と思わず窓ごしに空を見上げると、空は先ほどよりも濃厚な雨雲に覆われていて、窓ガラスをポツポツと細かい雨粒が濡らし始めた。嫌な予感がする。

そうこうしていると、若い二人組がお店に入ってきた。おそらく今、山に登ってきたところなのだろう、二人ともがっつりトレッキング仕様の服装に身を包んでいた。さらに嫌な予感がする。

私たちの旅といえば、いつも思いつきで高原やら登山やらをするので、大体突然のスコールにあってびしょびしょになったり、寒さに耐えながら生還の喜びを味わったりと・・まぁ一言で言えば、山の気候に対する心構えがないがために散々な目に遭うのだ。わたし、一応長野県で育って、山の教育をちょっとは受けてきたはずなのに・・何をやっているのか、全くもって役に立てることができていない。

そしてまた、わたしはこの若い二人組の姿を見た瞬間、今日はピュイ・ド・ドームへはいけないことを悟った。

二人とも全身ずぶ濡れで、肩を揺らしながら店に入るとほぉっと息を吐いていた。お店の人と何やら話していて、フランス語はさっぱり、なわたしでも「いやぁー大変だったよー!」みたいなことを話しているのがわかった。

料理が来たので、思い切ってお店の人に実は今日、ピュイ・ド・ドームに行こうと思っていたんですが・・と打ち明けてみると、「え!?今日!?」と窓の外を指差しながらまるでクレイジーだと言わんばかりのジェスチャーが返ってきた。とほほ・・がっかりです。

そうこうしているうちに、雨脚はどんどん強くなってきて窓ガラスはびっしょりになって、山に登るどころか、外に出るのも厳しそうだ。軽く昼食をとるつもりがすっかり雨宿りの時間になって、ランチをゆっくり堪能してしまった。少し雨脚が弱くなってきたタイミングでお会計を済ませると、入り口付近にあったかんかん晴れのピュイ・ド・ドームの写真ハガキが虚しく蛍光灯に照らされていた。

しかし、オーベルニュはこういう「〇〇できなかった事件」が続いたなぁ。車の中でオーベルニュの歌を流せなかった事件、から始まり、教会のドア開かなかった事件に続き、ついには一番のお目当てピュイ・ド・ドームにも行けなかった。けれど、なぜかここにはもう一度来てみたいと魅力を感じている。きっとまた帰ってこいよとオーベルニュの山々や大地が行っているのだろう。

それでも諦めきれず、車でピュイ・ド・ドームの近くまで行ってみると、カルデラを抱きしめるようにドーナツ型の濃い霧が周りを包んでいて、まるで神話のような世界だった。でもそんな光景を眺めながら運転する夫が明らかに肩を落としているのがわかって切なくなった。

「いやぁ〜行けなかったかぁ〜」
「きっとまた来いってことだよ。また来よう」

後ろ髪を引かれながら車を走らせ、最後の目的地クレルモンエフェランを目指していると、空が明るくなってきた。

「えー!今頃!?・・なんだよー!!」

雲がひき、空がどんどん澄み渡って綺麗だ。せっかくなので、展望台のような場
所に車を停めて、外へ出てみると、山の向こうに大きな大きな虹の足が見えていた。

そして、真っ直ぐ町を見下ろした視界の中心には、クレロモンフェランのシンボル、背が高い真っ黒な教会がどんとかまえていた。


生きていく場、暮らしの場、すべてがアトリエになりますように。いただいたサポートはアトリエ運営費として大事に活用させていただきます!