068. おひとりさま式ラクレットチーズ
bonsoir!🇫🇷 毎週金曜日更新のフランス滞在記をお届けします。
今号は南仏マザンのペンション、スカラベで食べたラクレットチーズのこと。
ラクレットチーズというと、お店で食べるようなこういう大きなチーズを溶かして大皿に盛った具材にどちゃっとかけるようなイメージがありましたが・・
スカラベで食べた「一般家庭的」ラクレットチーズはちょっと違ったのでした。
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6年前、新婚旅行で初めてこの地に訪れたとき行ったレストランで食事を取ろうと思っていたわたしたち。しかし、調べてみると先の感染症の影響なのか、今はほとんど営業していない様子でした。はて、どうしたものか。この田舎町にはここぐらいしかレストランがない。困っていると、スカラベのオーナーさんが「ラクレットチーズでもしますか?」と提案してくれた。
近所のスーパーでラクレット用のチーズと、じゃがいもやハムなど好きな食材を買ってくれば簡単に作れると言うので、わたしたちは近所のスーパーへ出かけた。そのスーパーも6年前に立ち寄った場所で、あの頃は日本のスーパーと違い、不揃いで新鮮な野菜やキノコがゴロゴロと並んでいることに感動していたっけ。
しかし、今回はここへ来る前に数ヶ月のフランスの生活を経ている。まるで異国のお土産屋さんにきたような気持ちだったあの頃とは違い、今や日本のスーパーやコンビニへ行くのと変わらない感覚だ。新婚ほやほやの若かりし頃、あんなに感動していた光景はもはや日常生活の延長線上にある景色。そんな風に感じられたのがちょっぴり寂しくもあったが、思い出に浸っている暇はない。なぜなら娘の腹時計のことを考えるとここで悠長なことをやっている時間はないのだ。
いつもと同じ要領で、キャスターがついた大きな買い物カゴをゴロゴロと転がして店内を回り、目ぼしいものをサッと買うと、わたしたちはスーパーを後にした。スカラベに戻ると、食堂のダイニングテーブルの上にラクレットチーズ用の道具が用意されていた。
ん?なんだこれ。
思っていたのとちょっと違うぞ?
さっそくオーナーさんにやり方を教えてもらう。電熱線でアルミホイルの上に乗せた具材を温めつつ、その下で小さなラクレットチーズ用のフラインパンでチーズを溶かした。
そして、各自お皿に取り分けてチーズをかけていただきます。はい、これで簡単、おひとりさま式ラクレットチーズのできあがり。
なるほどー。
「この合理的で個人個人やりなさいって感じ、すごいフランスっぽいでしょう?」とオーナーさんがケタケタと笑った。たしかにたしかに。
ラクレットチーズはフランス人にとって鍋のようなものらしく、個人主義の国においては鍋奉行ならぬチーズ奉行は好まれないのだろうか。
楽ちんでとっても美味しい。ここ最近、日本の近所のスーパーであの時買ったラクレットチーズが並ぶようになって、ついつい陳列された棚の前で足を止めてしまう。懐かしい。そういえば、おひとりさま式ラクレットチーズの器具って日本でも買えるのかしら?なんて考えていると、アーモンドの花ほころぶプロヴァンスの春の憧憬が蘇ってくるのでした。
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