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084. 孤独の芯にあるのは温かさ|オーベルニュ編

bonsoir!🇫🇷 毎週金曜日更新のフランス滞在記をお届けします。今日はものすごく深い静寂の中で感じた孤独という温かさのお話。



清々しい青空の下、Puy de Dômeピュイ・ド・ドームを目指して車を走らせていた私たちだったが、段々と雲行きは怪しくなってきた。時計を見ると、もうすっかりお昼どきだ。土地勘のない場所にて食いっぱぐれるのはなかなかきつい。大人だけならばまだしもはらぺこ耐性のない3歳子連れでそれをやってしまうと致命的だ。とりあえず今の最優先は昼食。夫がもう一つ有名な教会があるからとPuy de Dômeピュイ・ド・ドームのすぐ近くの小さな町に車で連れて行ってくれたのですが、私たちはそこでお昼ご飯をサクッととることにした。

駐車場に車を停めて、夫と交代に教会の中を見てくることに。ん?今ほっぺたにポツリとくるものがあったぞ?午前中はあんなに晴れていた上空は、今やすっかり灰色の雲でおおわれていて、時折細かい雨が降ったり止んだりしている。山の麓の気候ってやつだろうか、空気が明らかに湿り気を帯びていて、いかにもこれから一雨くるぞと言わんばかりだった。

まずは夫が先に教会の中へ。私と娘は車の中で待っている。刻一刻と娘の腹時計の針はお昼の時間を回り、それに伴い不機嫌ボルテージがあがっていく。上空から微かに聞こえるごろごろという小さな雷の音が、ピッタリすぎるほどのBGMだ。

そんな状況を察したのか、さっき教会へ行ったばかりの夫がそそくさと戻ってきた。そしてバトンタッチ。今度は私が教会の中へと入る番。

先ほどのカラフルな愛らしい光に包まれた教会の景色とはうってかわって、ひんやりと冷たい岩肌の教会にうっすらとさした光が、ステンドグラスに注がれて妖艶な輝きを放っていた。教会って、こういう光と闇のコントラストがはっきりしているのがちょっと怖いのだけれどなんとも美しい。

晴れの日にきたらどんな雰囲気になるのだろう。カタルシスの解放と言うのか、闇の瞬間とのギャップでより一層色彩の鮮やかさや光の美しさを感じられるように設計されているんだろうなぁ。

そんなことを空想しながら急足で歩き帰ろうとすると、地下室へと通じる扉を見つけた。扉を開けると、蝋の香りと、また一段と深くなる静寂に息を呑んだ。教会の地下には偉人の骨などだいたい大事なものが収められていると言われているけれど、ここは地上とはまったくの別世界だ。

他に見学をされていた方が一人、二人いたが、私と入れ違いで地上の世界へと帰っていく。とてもゆっくりゆっくりとした足取りで帰っていく。その後ろ姿を追いかけている時、不思議と懐かしい気持ちになった。

さて、この空間には私だけ。石の床を歩く自分の足音だけが聞こえる。歩みを止めると、自分の呼吸の音が聞こえてきた。気管を、空気が出入りしているのを感じる。どこからも風が吹いていないと思えるのに、どうして蝋燭ってチラチラと止まることなくうごめいているのだろう。

あぁ、
この世界には、たった一人だけ。
ここには、わたしとどこまでも広がる空間があるだけ。

そう感じると、
ツーッと涙がまっすぐに頬を撫でていった。

わたしがいるじゃないか。
そうと思ったのだ。
冷ややかな孤独の芯にあるのは、温かさなのではないか。
そう思ったのだ。


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