見出し画像

雨水-うすい- 雪解け水から個性の香りを聞く


二十四節気通信。

2021年2月18日〜3月4日までは雨水です。

陽気地上に発し、雪氷とけて雨水となれば也
-暦便覧-

空は北風と南風がぶつかり合い賑やかですが、足元へ耳をすますと雪や氷がとけて水となり、静かに命を育む音がきこえてきます。そして、そこはかとなく匂ってくる香りに懐かしさと新しさを覚えるのです。


荒々しい空の下で静かに命を育む

画像4

2月4日に春一番の知らせがありましたが、気象庁によると、これは観測史上最速なのだそうです。

春一番とは春先に南から強く吹いてくる風。言葉的にさわやかなイメージを持ちますが、吹けば海上は大シケ。海難事故が多発することから古くより漁師の間で恐れられてきました。

三寒四温。

一方で、冬の北風も負けじと南風を押し返しふたたび寒さをひき戻してきます。この時期ジェットコースターのような寒暖の波が続くのは、上空で北風と南風が一進一退の攻防を繰り広げているからなのです。


画像4

しかし、地上に生きる私たちは、春分に生まれようとする新たな営みを宿しておいます。どんなに世の中が騒がしくても、時代という風がどんなに新しいものを運んで来ようとも、すぐに反応せず内側の静寂の中へ問いかけてみる。

「これは、本当に自分のなかで生まれようとするものに呼応するものなの?」と。



個性の香りを聞く-のばらに寄す-

今回、記事を書く上でテーマソングを選んでみました。雨水はマクダウェルの「のばらに寄す」。初春のあたたかな空気に運ばれ、時折ふわりと姿をあらわす香りような旋律がなんとも切なくて美しい。

私は、春に切なさを覚えるのは過去にしまっておいたものが成熟の時を迎え、香って知らせてくるからだと思います。凝縮させたエッセンスを受け取りさようならを告げる時がきたのです。


エッセンスで思い出すのが、以前、調香師の方から聞いた言葉。

〝ほんの数%、人には好まれないような変な雑味的な匂いが含まれていた方が美しいフレーバーになり、その数%が香りの個性を決める〟


香道に聞香(香りを聞く)という言葉がありますが、個性というものをとらえる上で、この香りを聞くという言葉がとてもしっくりきます。

個性が大事な時代。

そんな風に言われるとついつい肩に力が入ってしまうけれど、個性って、本当は際立つ第一印象的な何かではなく、むしろ後ろからほのかに香ってくるその人特有のなんとも言えない、えぐみや雑味のようなものかもしれません。

香りを、嗅ぐでも捉えるでもなく、聞く。少しだけ正面を外してうっすらと漂ってくるものに心を寄せてみると、一見雑味に見えるものから個性を見つけて、そっと手をつけないでおける優しさが生まれます。



姿より香りに生きる花もある

ちょうど【霜降】から始めたデジタル・デトックスが、この【雨水】で終わりを迎えるので、雨水の期間でその振り返りを行います。


取り組む上で私が何より大事にしたのが、「自分で自分を苦しめないこと」でした。


結果、私がこの4ヶ月間で得たものはいわゆる「生産的で意味のある充実した時間」ではなく、「非生産的で意味を持たない真っ白な時間」でした。生存本能のちょっと外にある時間とも言えるかもしれません。そこからは微かに私の個性の香りが漂ってくるのです。


きっと平常運転に戻ったら、それはすぐに意味のある色のついた時間で埋められたり切り捨てられてしまうから、やさしくやさしくエッセンスを抽出して、生活の中で何度も取り組めるプログラムになるように育ててあげたいと思います。


画像3

姿より香りに生きる花もある。


雨水の時期に咲く花々はパッと目を引くような華やかさはないけれど、なぜか忘れがたい香りや存在感があって、勇み足を解かせるおおらかさと強さがあります。

近ごろ、そんな生き方に憧れています。



*******


生きていく場、暮らしの場、すべてがアトリエになりますように。いただいたサポートはアトリエ運営費として大事に活用させていただきます!