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108.ここは腐海の森?|パリ・シャルル・ド・ゴール空港へ

bonjour!🇫🇷 毎週金曜日更新のフランス滞在記をお届けします。コロナが蔓延する中でバタバタと手に汗握る帰国準備を経て、ようやくリヨン空港から飛行機に乗った。トランジットのパリ・シャルル・ド・ゴール空港でわたしたちが見た景色とは・・?


2020年3月18日。
荷物が日本に送れないとか、交通経路や空路が封鎖されていくとか、家の片付けが終わらないとか、さまざまな不安要素を潜り抜けて、何とかリヨン空港まで辿り着いたわたしたち。

でも飛行機の中は密室大丈夫かな。マスクなんて手に入らないので、首に巻いていたストールをぐるっと口元に回してマスクがわりにするも、そんなことをしているにはわたしだけ。(あれ?わたしって心配しすぎなのかな)と思いながら、配られた軽食のナッツを見つめる。(エアーフランスのナッツなんて、次いつ食べる日が来るんだろう)なんて考えていると、パリ・シャルル・ド・ゴール空港へ向けて飛行機が盛大に音を立てて離着した。その瞬間、はーっと肩で長いため息をついて、背もたれに身を委ねた。いやぁ・・ここまで壮絶だった。めちゃくちゃ不安だった。夕方の時刻発の便だったので、夕日が窓からすぅっとさして来て、ステンドグラスの色のように機内に広がった。こういう緊迫した状況の時って、どうして自然の色がいつにも増して神々しく見えてしまうのだろう。

夕空を包む暖色のグラデーションがちょっとずつちょっとずつ、夜の闇に吸い込まれていく。それをぼーっと眺めていると体が緩んで少し仮眠を取りたいよ、と言ってくる。しかし、頭が冴えに冴えて、結局は寝入ることはできず、そうこうしているうちに、あっという間にパリに到着してしまった。外に出るとあたりはもう真っ暗で、少し不安になってきた。パリ、都会だからきっと感染者が多いんだろうなぁ。さっきまで緩めていたストールのマスクをまたきゅっと結び直した。

空港のロビーに行こうとすると、乗り継ぎ便に急いでいるのか、くる人くる人バタバタと私たちの目の前を足早に通り過ぎていく。

「・・え?」

ある若いアジア系の男性3人組の姿を見て、ギョッとした。彼らは、全身黒い服に身を包み、口元には防塵用のマスク。まるでナウシカがこれから腐海の森に向かうような完全装備だった。よくみると、頑丈そうなマスクをしっかりしている人は彼らだけではない。一方で、わたしの口元はウィルスどころか小さな埃ももしかしたら通過してしまうのではないか?と思われるような、通気性の良いガーゼストールがくるりと巻かれているだけ。まるで、腐海の森に軽装で入ってきてしまったかのような恐怖を覚えた。

次の便までかなり時間があったので、ラウンジスペースで休憩をとることにした。いつもは飲み物や食事などが並んで自由にとるビュッフェ形式の場所なのだろうけれど、食べ物の前にはしっかりとロープが貼られ、中にスタッフと思く男性がいる。欲しいものがある時は彼に頼むという形式のようだ。

あぁ、本当に、非常事態なのだな。わたしたちはもはや、いつ感染してもおかしくないというわけだ。いつもは楽しげな雰囲気が漂っているであろう空間が急に殺伐とした場所のように思えてくる。じわりじわりと迫り来る嫌な感じ。この明らかに非常事態という感じがしないのがまた薄気味悪かった。外を見ると、暗闇にポツポツと灯る赤い光がまるでこちらを見ているようで怖くなった。無事、日本に帰れますように。無事お家に着きますように。そう願いながら飛行機を待った。

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