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ご両親からネコへの手紙

ウェールズ代表としてユーロに臨むネコちゃんへ送られたご両親からの手紙。The Athleticに掲載されています。

お母様の言葉の中で土曜日のスイス戦に触れていますが、この記事はそのスイス戦を終えてから書いています。


親愛なるネコへ。

(お母様から)

パパとママはあなたを誇りに思っているということ以外に何を言えばいいでしょう?姉のタヤ、弟のキーラン、2人の妹サラエとオシアもそう。家族全員はもちろん、北ウェールズの故郷クブン=マウルでは誰もが大騒ぎです。あなたを知る人は皆、誇りに思う気持ちでいっぱいです。

あなたがユーロに出場するウェールズ代表のメンバーであると知り、夢ではないかと身体をつねりました。プロフットボーラーの夢を叶えた姿を見るのは本当に不思議な感じがします。 

あなたの顔が至るところにあり、テレビや新聞、インターネットで見る度に『何てこと。うちの子じゃないの。』と思うの。幼い頃からウェールズ代表でプレーする今まで、あっという間でした。

だからといって、ユーロを終えて戻ってきても特別扱いはされません。分かるでしょう?普通のクブン=マウルの男の子と同じです。

ネコのインスタグラムより、お母様と


2001年4月13日、私たちの2人目の子供として生まれたあなたはとても良い子で、何の問題もないのんびりした子でした。食事を与え、着替えさせると何も言わずに眠りました。幼い頃から10代、そして20歳になった今も落ち着いています。

歩けるようになってすぐに大好きになったことの1つがフットボール。裏庭にゴールポストがあり、壁にチョークでターゲットを書いて練習。自宅前の広場で遊べるようになるまで何時間もそこでシュートをしていました。友達とゴールポストとして使っていた2本の木を覚えていますか?あなたはいつも最初に広場に来て、最後までそこにいました。

暗くなったからと呼びにいかないといけませんでしたが、次の日には外に出るのが待ちきれない様子でした。自分のボールを学校に持って行き、大急ぎで帰っては友達とフットボール。

少し大きくなって照明付きのピッチでのプレーを許されると、いつもそこでプレーしていましたね。そこでも最後まで残っていたから、管理人さんが鍵を閉めるときいつもあなたを追い出さないといけませんでした。

あなたは最初からフットボールに夢中でした。パパは自分から受け継いだと思いたがっていますが、いつも言っているようにパパは速さだけ!3年間、地元の女子チームで右サイドバックとして活躍したのは私。でも、あなたが才能を受け継いだのはおじいちゃんであるケルヴィンからだと思います。

おじいちゃんがどんなに素晴らしい選手だったか、2度の足首の骨折がなければトップ選手になっていたのではと皆がいつも話しています。おじいちゃんは自分が成し得なかった夢を実現したあなたをとても誇りに思っています。

いつもあなたとキーランに『左足でもボールを蹴られるようにしなさい。』と言っていたことを覚えていますか?おじいちゃんはいつもあなた達を励ましてくれて、パパが仕事の時はトレーニングに連れて行ってくれました。ポルスマドグ出身のパパ、私たちと同じようにあなたを誇りに思っているパパはトレーニングや試合をほとんど見逃すことはありませんでした。そうよね?


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The Leaderより引用、弟キーラン(現在はバーンリーU-18所属)


(ここからはお父様)

その通りだ。仕事を終えると姉弟たちを見守り、ダンス教室を運営しつつリヴァプールまで送っていた。車で1時間ほどの距離だから、その辺をブラブラしてトレーニングを見てから連れて帰った。

キーランもアカデミーに連れて行っていた(当時はリヴァプールアカデミーに所属)から毎日アカデミーにいた。帰宅した私に対してママが「スカウサーみたいな話し方よ!」と言って笑ったのも無理はないね。

アカデミーがあるカービーで長い時間を過ごしたが、リヴァプールの、そして今、ウェールズ代表の赤いシャツを着ている姿を見て、全ての時間が価値あるものとなった。

地元のクブン・ユナイテッドでプレーし始めた6歳の時から、私とママはずっとお前の大ファンなんだ。あの頃はストライカーだった。1試合で10点は決めるような9番タイプで、実際に決めたこともあった!レクサム近郊のグレスフォードで開催された大会で注目を浴びたのも不思議ではない。それが全ての始まりだった。

リヴァプール、マンチェスター・ユナイテッド、エヴァートンがお前を獲得するために長い列を作っていた。どちらのクラブを好むか見るためにリヴァプールとユナイテッドのトレーニングに連れて行き、お前がベストだと感じた場所がリヴァプールだった。好きだったんだな。

まだ子供だったけど、どのプレアカデミーがいいかを決めさせたらリヴァプールを選んだ。ネコ、どう思う?これまでも、そしてこれからも、最高の決断だ。

幸せな思い出がたくさんある。11歳の頃、お前が出場する大会を観るために東京まで飛行機で行ったのを覚えている。知っての通り私は飛行機が嫌いだが、お前が来てほしいと言った。だから14時間の緊張のフライトを経て、おじいちゃんと私の弟ウィニーと一緒に日本に居た。

試合を観るために、サポートするために、世界中を周ったよ。スイス、スウェーデン、スペイン。お前がどこでプレーしていようとも、私たちもそこに居ようと努力した。だからこそ、リヴァプールの施設に引っ越すことになったときは辛かった。まだ15歳だったし、ママは本当に辛かったようだ。


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The Leaderより引用、ご両親と


(再びお母様)

母親として、成長のために離れなければならないと分かっていましたが、あなたはフットボールで素晴らしいところへ行くと感じていました。自信を持ってプレーしていたし、物静かな子だったから私たちと離れることで混乱させたくなかった。私たちはそれだけ仲の良い家族でした。

アカデミーのフィル・ロスコー氏に同じことを伝えると、彼はこう言ったの。『エマさん、あなたが最後の親御さんです。他の親御さんは自分たちのご子息を見送りました。』と。

突然の引っ越しは良くないと思っていました。アカデミーのアレックス・イングルソープ氏、トム・カルショー氏、スティーヴン・ジェラード氏にそのことを伝えました。彼らはあなたの成長や可能性を喜びつつも、フルタイムでリヴァプールに居る必要があると考えていました。

ジェラード氏は、自分も父親だから気持ちがよく分かると言ってくれました。

徐々にカービーに拠点を移すと決め、9ヶ月程で完全に移りました。転校しなければならず、友達を残していくのは辛かっただろうと思います。特に幼稚園から一緒だったカイとキーナン。

多くの犠牲を払わなければなりませんでしたが、その甲斐あってウェールズ代表として大きな大会に出場する今のあなたがあります。

でも、全てがそう簡単ではありませんでした。

ジェラード氏がU-18チームの監督だった頃を覚えていますか?あなたは彼から教わることに興奮していましたね。でも、プレシーズン中に背中に痛みを覚え、疲労骨折が発見されたことで6ヶ月間プレーできませんでした。

衝撃的な知らせでした。立てるようになった頃からボールを蹴っていたのに、そんなにも長くプレーできないなんて。なんて辛いことだろうと思いました。

でも、私たちが支え、あなたは強くなって戻ると決意し、実際に成し遂げました。あなたは常に立ち上がる強さを見せ、夢を頓挫させることはありませんでした。復帰してからは更に努力し、2018年1月にはFAユースカップのアーセナル戦でアンフィールドでプレー。ファンの前でプレーするあなたを見て特別な気持ちになりました。結果は残念だったけどね。


ネコのツイッターより、FAユースカップ優勝


(再びお父様)

翌年、私たちはFAユースカップ制覇を見届けた。決勝はマンチェスター・シティとのPK戦。お前は最初のキッカーだったけどママは見ていられなかった。お前がPKを蹴るとき、ママはいつも緊張しすぎて見ることができないんだ。お前が決めて、リヴァプールが勝った。一緒に成長してきたチームメイトと喜ぶ姿を見て凄く感動したよ。

2019年10月のアーセナル戦でお前がトップチームデビューを果たした瞬間を見たときの気持ちを考えてみてくれ。あの夜、今回はアーセナルのファーストチーム、鳥肌が立ったよ。アンフィールドは満員。お前のアシストでディヴォック・オリギが決めて5-5になるまでリヴァプールは敗退寸前だった。皆がゴールを決めたかのようにお前に駆け寄ってきた。

12月にはクラブ・ワールドカップも勝ち取った。クブンから来た私たちの息子が世界チャンピオンになった。地元に帰ってきて最初に行ったのは?そう、すぐに友達に会いに行ったよな。それからおばあちゃんとおじいちゃんの家に寄って、最後に私たち。自分のルーツを見失わない。ネコ、そんなところが好きなんだ。クブンに戻るのが好きだし、これからも何度もそうするのだろう。

いつも試合で着用したシャツをチャリティに送るし、誰にだってサインをする。サインをするためにバッグいっぱいに入ったリヴァプールとウェールズ代表のシャツを持っていくことがあるけど、嫌な顔をしない。恩返しが大好きで、地元に戻ればいつも家の前の広場で子供たちとフットボール。皆がお前を尊敬し、刺激をもらっている。それを知ってほしい。

だからこそ皆が応援してくれるんだ。アンフィールドでのFAカップのエヴァートン戦とシュルーズベリー・タウン戦を覚えているか?私たちの多くが応援に行き、お前は私たちを失望させない活躍をした。そもそも失望なんて、そんなこと絶対にないけどな。ダービーを制したチームのメンバーであり、シュルーズベリー戦ではお前のクロスからオウンゴールが生まれて決勝点になった。お前のゴールのように感じられた。

リヴァプールで25試合に出場しているが、初めてファーストチームのトレーニングによばれた時のことを覚えているよ。18歳の誕生日だった、覚えているか?『ユルゲン・クロップがあなたをチェックしたいと言うので、朝早めにメルウッドに来るように。』という電話を受けたんだ。

友達が皆集まってくれて、お前をレクサムまで送るためにミニバスを予約していた。ベッドに入るのに友達を振り切らないといけなかった。

いつも献身的だった。だからこそ、2020年8月にプレミアリーグ優勝のメダルをもらうためにKOPスタンドを昇るお前の姿を見て、信じられないような気持ちになった。数ヶ月前にリーグデビューを果たし、再開されてからはあと何試合出ればメダルがもらえるんだってカウントダウンをした。

『あと2試合、あと1試合。頼むよクロップ。うちの子を出せ。』とね。

妹たちも弟もあのシーンを見て祝福していた。お前は毎日のように私たちや家族に刺激を与えてくれる。

そして終わったばかりの昨季。想像していたほどの出場機会は得ることができなかったが、お前は立ち止まらなかった。毎日良くなるためにトレーニングを続けた。お前がCLデビューを果たしたとき、これもまた信じられないような瞬間だった。

アヤックス戦で6歳からのチームメイトであるカーティス・ジョーンズの決勝点をアシストした。何ということだ。最高以上だよ。2人がゴールを祝う写真はまるで魔法のようだった。アカデミーで一緒にプレーしていたのがついこの間のようだ。


EUROs Tweetより、ネコとカーティス


(再びお母様)

でも、また辛いときがありました。ソーシャルメディアで誹謗中傷されたときは親として胸が痛くなりました。親として子供を守りたいという気持ちは尽きませんが、あのメッセージを止められなことが辛かった。心が痛みました。

できることは支えることだけでした。チームメイトもそばにいてくれましたね。トレント・アレクサンダー=アーノルド、ジョーダン・ヘンダーソン、ジェイムズ・ミルナー、アダム・ララーナらは発生してすぐに凄く支えてくれました。

クロップは心配するなと言ってくれました。誰もが経験することで、皆があなたを支えてくれていると。その言葉はあなたにとって大きな意味を持っていたでしょう。

ウェールズの皆も応援しています。11歳から代表チームでプレーしていますね。カーディフでのU-19代表チームの試合を覚えています。あなたは2ゴールを決めて、私たちは次のU-21代表チームに呼ばれると確信しました。

でも、発表されたリストには名前がなく、私たちは混乱しました。『U-21代表チームを飛び越えてA代表に直接行くんじゃない?』なんて言う人もいましたが、まさにその通りでした!

初めてA代表に招集されたときを覚えていますか?あなたの代理人から『大切な電話が掛かってくるから必ず電話を持っておくように。』と連絡がありました。

ついに電話が鳴ったとき、表示されたのは知らない番号だったのであなたは出ませんでした。代理人が掛け直してきて『まだライアン・ギグスと話をしていないのか。』と聞かれましたね。

数日待たなければいけませんでしたが、2度目の電話が掛かってきたときのあなたは凄く興奮していました。2度目の電話がくるまで、私たちは『まだ監督と話をしていないの?』と何度も連絡をしました。

月をも越えてしまうほどの喜びのニュースを知らせてくれたとき、私たちは大興奮でした。全てが順調でしたね。

9月にフィンランド代表戦でデビュー。家族として最高の日でした。それから、ブルガリア戦で途中出場したあなたがゴールを決めたのを見た私たちの気持ちを考えてみて。

パパは集中したいからと別の部屋で、他の家族は一緒に座って観ていました。パパの叫び声が聞こえて、私たちが観ていたテレビ映像は5秒ほど遅れていたから『ああ、誰かがゴールを決めたのね。』と思ったの。

その誰かがあなたで、ゴールを祝うためにギャレス・ベイルとコーナーフラッグへ走って行くのを見ることは、更なる素晴らしい瞬間となりました。皆が大騒ぎ。叫んで、歌って、もちろん踊って。庭に飛び出して祝っていたらお隣さんからどうしたの?って聞かれてね。誇らしげに叫んだの。

『私たちのネコがウェールズのためにゴールを決めた!』と。


ウェールズFAツイッターより、代表初ゴール


(引き続きお母様)

ネコ、私たちもそこに居たかったです。あなたの代表初ゴール。それも決勝点!ついこの間初めてウェールズ代表のシャツを着た写真をプロに撮ってもらっていたのに、今やそのシャツを着て国を代表して国際大会に出場しているなんて…どれほど嬉しいことか、言葉では表せません。

まだあなたがウェールズ代表としてプレーする姿を生で観戦したことはありませんが、各世代を通じて成長しながらウェールズ代表のシャツに袖を通すのを見てきました。あの紋章を身につけることがあなたにとってどんな意味を持つのか、私たちは知っています。

土曜日にはあなたの名前と背番号が書かれたウェールズ代表のシャツを着て皆で集まります。2016年にウェールズ代表がユーロの準決勝まで進出したとき、まだ15歳だったあなたは私たちと観戦していました。今のあなたはそこに居て、その一部になろうとしています。

スタメンでも途中出場でも、皆に衝撃が走るでしょう。村中の人が集まるはず。パパは集中したいからと家で見るつもりです。もう試合後のビデオ通話を楽しみにしているみたい。プレーしてもしなくても、いつも通話していますね。パパはあなたを正しく評価して、アドバイスをくれるでしょう。

でも、土曜日に何があろうとも、私たちはあなたが代表チームのメンバーとして、プロフットボーラーとしての道を歩んでいることに感謝していると知っていてほしいのです。

もしプレーするなら自分らしいプレーをしてほしいと思います。いつも通りベストを尽くしてください。私たちが期待しているのはそれだけです。私たちはあなたや家族をいつも誇りに思っています。何があってもね。

ネコ、全てを楽しみなさい。あなたは夢を実現したのだから、私たちにこれ以上の幸せはありません。

愛を込めて。

ママとパパより。

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