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ロックのライブ初体験は、リック・ウェイクマンのオーケストラ公演だった

 Yessongsで聴いたキーボードのリック・ウェイクマンのソロ。これがめっぽうかっこ良く、特にほぼ一人でいろんなキーボードを駆使して、こんな演奏が出来てしまうという、まあ極めてプログレっぽいキーボードプレーヤーにものすごく興味を持ったのですよね。そこで、手にしたのが、このThe Six Wives Of Henry VIII(邦題:ヘンリー八世の六人の妻 1972)

 Yessongsで演奏されていた曲の元曲がこのアルバム収録曲なわけでして、ヘンリー8世という人が、一体どんな人だということなんか、ちっとも分からず、というかそんなこと知らなくても楽しめるわけなので、ひたすらこのアルバムの音の世界に浸っていたわけなんです。

 このアルバムですが、ジャケットが左右に開くようになっていて、中ジャケットに、ドーンとリック・ウェイクマンが、積み上げたキーボードの中で演奏している写真が載っていて、これがかっこ良かったのですよね。

 この当時、洋楽のアルバムでは、このようにジャケットが開くようになっているものが結構あったんですが、日本盤として発売される際に、あまり売れそうに無いアルバムなんかは、この見開きジャケットが省略されてしまうようなものがあったのですね。さらに酷いときは裏ジャケットのイラストの色を薄くして、その上に歌詞を黒で印刷してしまうなんてこともよくあったのです。昔はけっこう乱暴なことやってたんですよね、この業界は。でもこのアルバムは日本盤もきちんと見開きジャケットが再現されていて、やっぱり当初から日本のレコード会社も「これは売れる」と判断してたということがうかがわれたりするわけです。

ジェネシスのセカンドアルバムTrespassのアナログ日本盤のジャケットの裏。本来このアルバムはジャケットの表と裏の絵がつながっていて、開くと1枚の絵になっているという趣向なのですが、
日本盤は、裏面の絵を薄い白黒にして、曲名と歌詞がその上に印刷されてます。
この頃のマイナーアーチストの日本盤レコードにはこういうのがありましたね。

 そして次に1974年にリリースされたのが、これ。Jouney To The Center Of The Earth(邦題:地底探検) です。このアルバムの発売はリアルタイムだったので、すぐに買った覚えがあります。今度は何とフルオーケストラをバックにした壮大な曲で、これにも思いっきりハマりました。

 EL&Pでプログレに目覚め、EL&Pの過去のアルバムも、すでにけっこう聴いており、キース・エマーソンの凄さもそれなりに理解していたのですが、このとき聞いたこのリック・ウェイクマン2連発で、わたしは完全にキーボードプレーヤーとしては、リック・ウェイクマン派になってしまったのですね。

1974年 Jouney To The Center Of The Earth(邦題:地底探検)

 さらにトドメは1975年の初来日なのです。ここでわたしは人生初めて、生のライブを経験するのです。日程を調べたら、このときの日本公演の日程を見つけました。わたしが出かけたのは、中野サンプラザだったので、恐らく1月16日の初日か、3公演目の19日となるのですが、どっちに行ったかは覚えていません。初日だったという記憶も全く無いので、おそらく19日の方だったのではないかと思うんですが….。

 このときの内容は、2部構成でして、最初は彼のバンド、イングリッシュ・ロック・アンサンブルをバックにThe Six Wives Of Henry VIIIを演奏。2部は日本のオーケストラ(確か読響だったような…)とコーラス隊が入ってJouney To The Center Of The Earthをフル演奏するというものだったのですね。

 ロックのコンサートとしてはかなり異質なコンサートですし、だいぶ後になって、このあとオーストラリア公演に行ったリック・ウェイクマンが、日本のコーラス隊の英語の発音がひどかったとネタにした映像をYouTubeで見て、けっこう鼻白んだりしたこともありましたが、そのときはじめてライブに触れた中学生は、もうこれ以上無いくらいに盛り上がってしまったのですよね。

 こうして、リック・ウェイクマンは、一時中学生の神ミュージシャンとして君臨していたのです。そして、このリック・ウェイクマンという人。まあ製作意欲が旺盛といえばその通りなのですが、とにかくたくさんアルバムをリリースする人なのですよ。このあとも、

1975年 The Myths and Legends of King Arthur and the Knights of the Round Table(邦題:アーサー王と円卓の騎士たち)

1975年 LISZTOMANIA(邦題:リストマニア)

1976年 No Earthly Connection(邦題:神秘への旅路)

1977年 White Rock 


1977年 Rick Wakeman's Criminal Record(邦題:罪なる舞踏)

 と矢継ぎ早にアルバムをリリースするんです。75年のアーサー王のアルバムまでは、自分の熱量はずっと維持されていました。ただ、このアルバム、当時の音楽雑誌のレコード評では、けっこう酷評されていて、当時は「なんでこんなすごいアルバムを酷評するのか」と、聴きながらけっこう憤っていたのですけど、やっぱり年月過ぎて、最近コレを聴くと、ちょっとオーケストラのアレンジとかの甘さが耳について、あああ、という感じにはなってしまうのでした。ただ、このアルバムまでは猛烈にハマっていたのですよね。

 ところが、高校生になってから聴いたLISZTOMANIAは、フランツ・リストをテーマにしたロックオペラみたいな映画のサントラ、77年のWhite Rockは、前年のインスブルック冬季五輪の記録映画のサントラです。ただどちらの内容もあんまり刺さらなかったのでした。サントラではないオリジナルアルバムである、No Earthly Connection、Criminal Recordも、もちろん新譜はちゃんと買って聴いていたのです。ところが、そのたびに盛り下がってしまう感じで、77年のCriminal Recordを境に、「もういいや」となってしまったのでした。あとから思えばこの時期は、プログレ系のミュージシャンにとっては微妙な時代に入ってきており、全体的に皆さん方向性を失っていく頃とシンクロしているわけなのですが、リック・ウェイクマンについては、絶頂からあっという間にそういう印象を感じてしまったというわけなんですね。

 ちょうどこの年代、わたしはジェネシスにハマリ狂っていたのです。1976年というのは、彼らがピーター・ガブリエルの脱退を乗り越えて、フィル・コリンズをボーカルに擁したA Trick Of The Tailというアルバムを出した年なんです。わたしはこの頃から、イエスもリック・ウェイクマンも含め、他のプログレバンドを全部うっちゃって、ひたすらジェネシスにのめり込んでいたのです。これは当時どんどん勢いを失っていくプログレ勢の中で、(プログレかどうかは別として)この時期気を吐いていたミュージシャンがジェネシスファミリーのメンバーに多かったということで、そっちに惹かれたのかもしれないのですが。

 ただ、1980年代になって「他のロックは聴かないけどリック・ウェイクマンだけは好きで、アルバム全部持ってる」という人に遭遇したことがあり、びっくりしたことがありました。多作なミュージシャンというのは、それなりにファンもついている現実もあるし、そういうファンにとってはやっぱりすごいミュージシャンであり続けているのだよなあ、と思うようになったわけです。そんなわけで、今でもそれなりに気になっているアーチストであることには変わりません。

 ちなみに、1986年のCountry Airsなんかは、結構好きで、このときは久しぶりに「おお!」と思ったものです。ロックでも、彼が得意としたクラシックものでもなかったのですけど、ピアノの雰囲気が、やっぱりどう聴いてもリック・ウェイクマンだというのは、やっぱりさすがとしか言いようがないですよね。


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