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プログレだってロックなのだ! 1975年のPFMの初来日公演にて

 中学3年生だった1975年2月にリック・ウェイクマン、高校1年生になった7月に後楽園球場のジャパン・ロックフェスティバルと、はじめてのライブを経験したわけですが、その年の11月29日に、わたしはある「歴史的」コンサートを体験しました。それは、イタリアのロックバンドPFM(Premiata Forneria Marconi)の初来日公演でした。

 当時、PFMというのは、日本でもかなり話題になっていたバンドでした。というのも、EL&Pのグレッグ・レイクが見いだして、EL&Pが設立した自らのレーベル「マンティコア」のリリース第一弾アーチストであり、さらに、キング・クリムゾンのオリジナルメンバーで作詞担当のピート・シンフィールドが英語歌詞を担当したとか、もうデビュー時から、箔がつきまくってる感じだったのです。そのため、日本でも音楽雑誌などで結構話題になっていたのです。

 わたしをプログレの沼に突き落としたEL&Pがイチオシのバンドというわけですから、もうこれは聴かねばならないわけです。そんなことで、かれらの日本でのファーストアルバムPhotos Of Ghost(邦題:幻の映像)を買って、かなり気に入っていたのですね。特に、わたしのハンドルにも拝借したこの曲なんかは、これまた他のどのプログレバンドにもない雰囲気で、かなり好きだったのです。

River Of Life(邦題:人生は川のようなもの)

 また、これは音楽に全く関係ない話なのですが、このコンサートが行われた1975年11月29日というのは、なんと首都圏の電車が1日ストライキで止まったという日だったのです。当時を知らない方は何のことか分からないかもしれませんが、現在JRと呼ばれている会社は、その前は国鉄(日本国有鉄道)という国営の会社で、そこにはいろいろな労働組合があったのですね。特に、動労(国鉄動力車労働組合)と呼ばれる電車の運転士が作った組合が過激で、よくストライキしてたんですよ。電車の運転士がストライキすると電車は全く動かなくなるわけで、その日は移動するのに大変な思いをするわけなんです。当時の会社員の人は本当に大変だったでしょうね。わたしらのような私立の高校生は、電車がストライキで止まると学校が休みになるので、それはそれで嬉しかったりするわけなのですが(笑)。ところが、その日は中野サンプラザで夜に行われるライブのチケットを買ってるわけです。東京の南のはずれに住んでいたわたしは、さいしょ途方にくれたのですが、私鉄のバスは動いていたので、何とか渋谷まで行ければ中野には絶対にたどり着けるだろうということで、午前中から出発して、バスを乗り継いで何とか中野にたどりつくことができたのでした。

 こうして、2月にリック・ウェイクマンを見たときと同じホールで、いよいよPFMのライブが始まるわけです。さあ、あのメロトロンの洪水はいつ来るのかと、わくわくしていたわけなのですが、開演したとたん、なんかのっけから想像していたのと全然違うんです。とにかく圧倒的なテンションと音圧で、この曲が始まったんです。

Celebration

この動画は来日1年前の音源ですが、これが当日の雰囲気に一番近いと思います。アルバム収録バーションよりイントロがかなり長く、ここでもう完全にのせられるんです。

 この曲は、Photos Of Ghostに収録されている曲なので、もちろん知っていたのですが、それでもレコードとはまるで違った、なんか「鬼気迫る」みたいな演奏なんです。このときわたしはサンプラザ1Fの真ん中よりちょっと後ろくらいの席だったと思うのですが、いきなりリック・ウェイクマンのときとは比べものにならないくらいの音量、音圧を感じました。特にドラムスの音が腹に響くほどだったのをよく覚えてます。これぞまさに「ロックのコンサート」という感じだったのですが、最初は一瞬戸惑ってしまったのです。

 だって、わたしはプログレバンドのPFMを見に来たはずなのです。ところが、のっけからものすごいテンションですさまじい演奏が始まって、なんかぐいぐい迫ってくるわけです。これは想定外でした。ところが、メンバーのこの熱気に反応して、1曲目から周囲の客がほぼ総立ちになったのです。彼らだって、きっとプログレバンドのPFMを見に来たのではないかと思うのですが、驚くほどたくさんの人が立ち上がって、今で言うタテノリみたいな状態になってしまったんです。こうなると、もうその流れに乗るしか無いですよね(笑)

 そんな感じでこちらも立ち上がってノリノリのロックコンサートを体験したわけなんです。彼らの熱演はその後も途切れることなく、客の熱気もコンサート中ずっと続いたのでした。そして最後にはステージ上のメンバーも感動したのか、ベーシストが客席にベースギターを投げ込んで帰るという、まさに歴史に残るすさまじいコンサートとなったのでした。

 この後もかなりいろんなコンサート見ましたが、やっぱりこのときのPFMのように、ステージと観客が一体となるようなのは、滅多になかったと思います。それに、プログレ聴きに来たはずの客だって、みんな結局ロック好きなんですよね。ノルときはノルもんなんです(笑) そんなわけで、プログレだろうが何だろうが、そんなもの関係ない「イイものはイイ」という、オチを、人生3度目のライブコンサートで体験したというわけです。ちなみにこのとき、前座にクロニクルという日本人のプログレバンドが出ていたのですが、こっちはもう全く盛り上がらずに、しらーっとしてしまっていたのでして、その対比という意味でもなんか面白かったのでした。

 こうして、忘れられない体験をさせてくれたPFMですが、その後メンバーチェンジ等もありながらコンスタントに活動し、今も活動継続中です。初来日のとき、あのすさまじいドラムを叩いていたフランツ・ディ・チョッチョは、その後ボーカルも兼務するようになり(フィル・コリンズみたいですね)今もメンバーとして活躍しています。

Ulisse(1997)

このアルバムは、個人的には名盤だと思ってます。90年代の終わりになっても、こんなアルバムをリリースできるなんて、まさにモノが違うという感じです。後半になぜか日本語の語りが出てきます。

I Dreamed Of Electric Sheep(2021)

現時点での最新作です。英語・イタリア語バージョンの2枚組という変則ぶりも、彼らならではですね。

 また、彼らは初来日の印象がよかったのか、日本を結構大事にしてくれているようで、その後5回も来日しています。2014年には、渋谷のO-Eastというかなり小さなハコでも公演してくれて、このときも見に行きました。よく、「イタリアの至宝」という表現がされますが、いやいや、ロック界すべての至宝だと思いますよ。この先どれくらい活動継続するのかわかりませんが、まだまだ頑張って欲しいと思います。50年たった今でも、ひょっとしたらニューアルバムが出るかもなんて思えるバンドは、彼らだけじゃないかなぁ…。


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