初めて聴いたジェネシスは、何だかよくわからなかった...(笑)
これも1974年、わたしが中学3年生のときの話です。EL&Pでプログレに目覚めて、イエス、ピンク・フロイド、キング・クリムゾンと大御所を一通り聞きながら、リック・ウェイクマンとか、外道とか(笑)、プログレをメインとしながらも、なんか手当たり次第にロックを吸収していた時期です。
以前も書いたのですが、この頃よく読んでいた音楽専科というブリティッシュ・ロックメインのロック雑誌に掲載されていた洋盤レコード店の広告でよく見ていた、ジェントルジャイアントとジェネシスがちょっと気になっていたのですが、なかなか聴く機会がなかったのです。
ところがあるとき、またまた同級生が、ジェネシスのアルバムを「これ、いいぞ!」と言って貸してくれたのでした。それが、1973年に発売されたばかりのジェネシスの新譜、 Selling England By The Pound(邦題:月影の騎士)だったのです。
このアルバム、今でこそピーター・ガブリエル時代の最高傑作にあげる人も多い名盤なのですが、はじめてジェネシスを経験したわたしには、ちょっと難しいアルバムでした。
とにかく、最初に聴いた時は、まったく何も印象に残らなかったのです。それまで、どんなバンドでも、好きになったバンドは、初めて聴いた時からかなりのインパクトを受けていたのですが、ジェネシスに関しては、そういうのが全くなかったのですよね。アルバム聴き終わって「あれ?」って感じだったし、ジャケットのアートワークもインパクトが全然ない。それでも、一応貸してくれた友達に義理立てして、テープには録音して返したのですよね。そのときも、けっこう微妙なリアクションで返したような気がします。他のプログレ4大バンド(当時そういう呼び方はまだしてませんでしたが)とは、何か全く違う方向性というか、まるで違うバンドだということは何となくわかったのですが、最初はそれ以上の印象を持てなかったのです。
ところが、この録音したテープを何度か聴いているうちにあるメロディが耳につくようになりました。それが、この曲 I Know What I Like でした。
わたしは音楽理論的なことには疎いので、うまく言語化できないのですが、とにかく他のプログレバンドのアプローチと全く違うバンドに聴こえたのですよね。それだけに自分の中で咀嚼するのにちょっと時間がかかったのではないかと思うのですが、こうして1曲のメロディが耳に入ってくるようになると、これまたその前後の曲もどんどん体に染み込んでくるような感じになっていき、いつの間にか激しくハマってるという状態になってしまったのです。
結局しばらくしたら、このアルバムが何から何まで好きになってしまったのですよね。冒頭いきなり飛び出してくるピーター・ガブリエルの印象的なアカペラ、それまで聴いた事もないほど美しいトニー・バンクスのピアノソロから始まる壮大な曲に、スティーブ・ハケットの泣きのギターソロ。そうかと思うと、ちょっとフォークソングっぽい入り口からどんどんと展開して、長く、これまたリック・ウェイクマンなんかとは全く違う美しいメロディのシンセソロを挟んでエンディングになだれ込んでいく疾走感などなど。とにかく、それまでのどのプログレバンドにもなかった独特な音楽にすっかりハマリ込んでしまったのでした。
ところが、この時代のジェネシスは、先の I Know What I Like の動画でもそうなんですが、ピーター・ガブリエルのステージパフォーマンスがかなり変なんですよね。まあこの動画などまだいい方で、彼のステージは、変なかぶり物オンパレードだったのでした。次の動画は、ピーター・ガブリエル時代の代表曲 Supper's Ready という20分を超える大曲なのですが…
動画の11:20頃から登場する花の被り物とか、もう笑うしかない状態で、映像しか見なければ、普通コミックバンドだと思いますよね(笑)
当時、もちろんこんな動画を見ることなどできなかったわけですが、こういうのは、音楽雑誌にステージレポートとして写真が掲載されるわけです。この頃はステージ上で奇抜な格好したり、変なことやるミュージシャンは一定数いたわけで、そういうのは、音楽雑誌の写真を通して情報を得ていたわけです。例えばイギー・ポップとか、オジー・オズボーンとか、そういうグラビアで何度か見た記憶がありますが、ピーター・ガブリエルも、この格好ですから、たまにグラビアネタになっていたのですね。
で、音も聞かずにそういう音楽雑誌のグラビアだけ見ていると、結局ジェネシスというのは、こういう怪しい人がやってる「変態バンド」という認識が刷り込まれてしまうのです。当時の日本のロック少年、それもプログレを相当聴いている人でも、ジェネシスについては、知らないか、知ってたとしてもそういう雑誌のグラビアで得た知識だけで「変態バンド」というレッテルを貼ってるという状態だったのです。
ところが音を聴いてみたら、これがわたしには他のどのバンドよりも素晴らしく聴こえるんです。もうとてつもなく深く深く刺さってしまったのですね。こうして、ジェネシスもどんどんと過去のアルバムに遡って聴きながら、いちいちハマっていくという事になったわけなんです。ただ、これに賛同してくれる友達は当時ほとんどおらず、ジェネシスが好きだというと、こっちまで「変態」扱いされてしまうということになってしまったんですね。まあ音楽だけでなく、何かマイナーなものにハマると、だいたいそういう扱いを受けることになるのはよくある事ですが、その時わたしが通っていた中学、高校みたいに、かなり幅広いロックファンのいた界隈でもだいたいそういう感じでした。
でも、これがきっかけとなって、わたしはその後ひたすらジェネシスと、そのバンドメンバーの音楽を追い続けていくことになるのです。よく、フィル・コリンズがボーカルをとるようになってからのジェネシスは、「プログレじゃない」「許せない」みたいなことをおっしゃるコテコテのプログレマニアがいらっしゃるのですが、わたしは全くそういうのありませんでした。プログレかどうかなんてことは、どうでも良くて、自分に刺さるか刺さらないかだけがわたしの基準なんです。で、それに照らせば、わたしはジェネシスとそのメンバーソロの音楽こそが、人生最大に刺さったミュージシャンであると間違いなく言えるわけでして、中3のときに、こうして一生つきあえるバンドに出会えたことが、何と幸運だったことかと、今でもアルバムを貸してくれた友達には感謝しているんです。
まあ散々変態扱いされましたが、ジェネシスがここまで世界的に売れた歴史を振り返ると、やっぱり自分の耳はそんなに間違ってなかったのではないかなと思うんですね。プログレどころか、全ロックミュージシャンを見渡しても、ロンドンのウェンブリー・スタジアム(アリーナじゃなくてサッカー競技やるスタジアムの方)を4日連続でソールドアウトしたバンドなんていうのはまずいないわけなので。まあ日本人としてはちょっと変わっていたのだとは思うのですが。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?