絵本探求講座第4期(ミッキー絵本ゼミ)3回(11月12日)振り返り

好きな翻訳家 なかがわちひろ


私のよく読む絵本はなかがわちひろさんの訳した絵本が多い。
「たくさんのドア」「わたしとなかよし」「ハグしてぎゅっ」
「ちいさいあなた」「そらはあおくて」など
翻訳について考えたことは今までなかったが、たまたま、なかがわちひろさんの訳の絵本を選ぶことが多かった。また、「わたしとなかよし」はタイトルが原書と違うことを講義で聞き、興味を持った。
そこで、今回、改めてなかがわちひろさんの翻訳絵本についてみていくことにした。たくさんある中から、よく読む「わたしとなかよし」、翻訳絵本賞の「どうぶつがすき」ユニークな絵本「ことばコレクター」、大人向けの「ちいさいあなたへ」の4冊につを選びました。

なかがわちひろさんについて

1985年生まれ。作家、画家、翻訳家として活動
10歳のに「いつかおおきくなったら・・・・絵本を翻訳する人になりたい」と思ったことがきっかけで、アメリカへの高校留学、芸術大学卒業。創作絵本や海外絵本の翻訳など、さまざまな分野で活躍している。

東洋経済オンラインより

なかがわちひろさんは、ご自分で絵本も作られていますが、翻訳されている絵本は100冊くらいあり、翻訳絵本の印象が強い。
ミッキー先生も講義で言われていましたが、幅広く、いろいろな作家の翻訳をされていました。

「わたしとなかよし」の翻訳について



ナンシー・カールソンさく
なかがわちひろ やく
瑞雲舎 2007年

原書、直訳、翻訳をみていきました。
原書:I LIKE ME!
直訳:わたしは私が好き
翻訳:わたしとなかよし
*タイトルが私が好きという直訳から、
なかよしであることが、自分を好きなこととしてとらえ、
やわらかい感じとなった。

原書:I have a best friend
直訳:私は大親友がいる
翻訳:私にはすてきなともだちがいるの
*大親友を「すてきな」という形容動詞を使い
子どもにわかりやすい言葉・ひびきにしている。

原書:That best friend is me!
直訳:その親友は私だ
翻訳:それはね、わ・た・し
*語りかけている、インパクトがある

原書:I do fun things with me. I draw beautiful pictures.
直訳:私は私と一緒に何かするのが好き
   私は美しい絵をかいた
翻訳:私はひとりぼっちじゃないんだよ
   
わたしはね、わたしといっしょにおえかきしているの。
*わたしと一緒だから、ひとりぼっちではないと反対語のように表現

原書:I ride fast !
直訳:私は早く乗れた
翻訳:じてんしゃをびゅんびゅんこいでいるときだって、わたしはわたしといっしょなの
*自転車に乗っている絵
なので、自転車をびゅんびゅんこいで、と。
早くこいでいることを「びゅんびゅん」とオノマトペを使って表現している

原書:And I  read good books with me!
直訳:それと私は私と一緒に良い本を読んだ
翻訳:わたしはわたしに、おもしろいほんをいっぱいよんであげる

原書:I like to take care of me.
直訳:私は私の世話をするのが好き
翻訳:わたしはわたしをだいじにするの
世話をすることをわかりやすく「だいじにする」

原書:I brush my teeth
直訳:私は私の歯をみがく
翻訳:だから はみがきもするの

原書:I keep clean and I eat good food.
直訳:私をきれいにして保つ、おいしい食べ物を食べる
翻訳:からだもきれいにするよ。ごはんももりもりたべるよ
*もりもりたべる、と楽しい感じに表現している。

原書:When I get up in the morning I say,Hi , good looking!
直訳:私が朝起きた時、私は「良い姿だね」と言います
翻訳:あさおきたら かがみにむかってごあいさつ「おはようきょうもかわいいね」
*良い姿を「かわいい」とシンプルでわかりやすく表現している。

原書:I like my curly tail, my round tummy, and my tiny little feet.
直訳:私はカールしたしっぽが好き、丸いおなかもすき、小さな小さな足もすき
翻訳:くるくるしっぽも まんまるおなかも ちいさなあしも、みんなだいすき
*「くるくるしっぽも まんまるおなかも」こどもにわかりやすく、親しみやすく笑える表現。

原書:When I feel bad
直訳:ダメと感じるとき
翻訳:げんきがでないときには
*否定的な表現を少しポジティブな感じに

原書:Ⅰcheer myself up. When I fall down,
直訳:私は私自身を応援します。私が倒れたとき
翻訳:うんとたのしいことをしてあそぼうころんだときには
*わかりやすく想像しやすい

原書:I pick myself up. When I make mistakes,
直訳:私はからだをおこします。ミスした時は
翻訳:ちいさなこえで「へっちゃらへっちゃら」ってはげましてあげよう。
   しっぱいしたってだいじょうぶ
*肯定的な表現に、安心できる。


原書:I try and try again!
直訳:チャレンジします。何度も。
翻訳:おちついて もういっぺん やれば きっとうまくいく!
*語りかけている、おまじないのように。

原書:No matter where I go,or what I do
直訳:何所に行っても 私は何をするか
翻訳:せかいじゅう どこにいたって なのをしていたって

原書:I’ll always be me, and  Ilike that!!!
直訳:どこにいっても私は何をするか私はいつも私 私は私が大好き
翻訳:わたしはいつも、わたしといっしょ。ね、すてきでしょ。
*最後も語りかけて終わっている。ひびきがよい。余韻が残る。
「わたしとなかよし」は子どもだけでなく大人にも読まれている絵本です。
自分となかよしになって、自分を大切にすること、自分の行動をすてき、自分のことをかわいいと思えるメッセージ性のある絵本です。
なかがわちひろさんの翻訳で、楽しく笑って読める素敵な絵本になっています。


「どうぶつがすき」について


パトリック・マクドネルさく
なかがわちひろ やく
あすなろ書房 2011年

この絵本は「第17回日本絵本翻訳絵本賞」受賞(2011年)しています。
どうぶつがだいすきな女の子ジェーンの物語。動物学者ジェーンの子ども時代を描いたユニークな絵本です。
タイトルは「Me…Jane」「わたし、ジェーン」
ジェーンがだれなのかわからないと手に取らないかもしれません。
日本語タイトルは「どうぶつがすき」なんだか動物の楽しいおはなしかも?と、タイトルと表紙の絵からわくわく感があります。
原書を見ていないのでわからないのですが、
リズミカルな言葉、「あきることなく」「もぐりこんだ」「しんぼうづよく」「いきをひそめて」「しんぞうがうごいている」「どっくん。どっくん。どっくん。」「ゆめはふくらみました」と、
日本の子どもたちにわかりやすい言葉を使っていて、想像力が膨らみます。
わくわく、どきどき、冒険している感じになります。
絵も優しい絵と動物や植物のスケッチや版画?などでユニークです。
最後のページはチンパンジーの写真。
どうぶつがすきだった女の子の話で、タイトルがこのお話にぴったり。
なかがわちひろさんがこの本を読みこみ、この女の子の気持ちをシンプルにタイトルにしているところが翻訳として素晴らしいと思いました。

「ことばコレクター」について


 ピーター・レイノルズ作 なかがわちひろ 訳 
ほるぷ出版 2022年

ピーターの絵本を翻訳するのは10冊め。
「翻訳作業」は困難をきわめました。ふさわしい日本語探しに悩むのは毎度のことですが、今回はひたすら地味に「作業」時間がかかったのです。
絵本は、絵と文の合奏なので、その響き合いを確認するために、私は必ず原書に訳語を貼り込みます。・・・略  ほとんど苦行…。終わりがみえない…。
この本の目的は、日本語で読む子どもたちに、言葉のおもしろさに気づいてもらうことなのです。
たくさんの言葉をあつめると「じぶんの考えやきもちを、たくさんのひとに伝えられる」ことに気がつくジェローム。…略…直接的な暴力による衝突をさけるために、人間は言葉を発達させてきたという説を読んだことがあります。わらいながら、うなずきながら、言葉を大切にみつめていきたいものです。

なかがわちひろホームページブログより

このブログから、ちひろさんが、ぴったりの日本語を探すのに苦労されたこと、作者の伝えたいメッセージを考え、それを翻訳しても同じように伝わるように考えられていること。ひとつひとつの言葉をあてはめ、根気よく言葉を考えあてはめられた様子がよくわかりました。

ぴったりの言葉と語尾をつかまえるのが翻訳者の仕事というわけですが、ではどうしたらそれがうまくいくでしょうか。まずは英文で書かれている内容をしっかり把握し、その場面のイメージを頭の中でしっかり立ち上げることです。そして立ちあがったその場面のなかで、これは日本語で何というかを考えること。それが翻訳の基本です。  P6

「絵本翻訳教室へようこそ」灰島かり 研究社 2021年

灰島かり先生が書かれているように、なかがわちひろさんもその絵本を丁寧に読み、しっかり把握した上で、原文や絵本の内容にぴったりの日本語を考えたり探して翻訳されていることがわかりました。

「ちいさなあなたへ」について

わたしは基本的に子どものための絵本を作っていきたいと思っています。そしてこれは、100%大人のための絵本です。…略 日本とアメリカの子育て文化の違いについても話し合いながら、ていねいに作っていきました。…略アリスンとも密に連絡をとりました。

なかがわちひろホームページブログより


アリスン・マギー作 ピーター・レイノルズ絵
なかがわちひろ訳 主婦の友社 2008年

私は翻訳するときに、疑問を抱いた部分があると直接、書いた本人に聞くことにしているんです。…略 原文の詩は常にsomeday(いつの日か)からはじまっているのですが、そのまま直訳すると、単調で読みにくい文章になってしまうんです。そのため直訳から少し離れたとしても、作品が読者に伝えるはずの思いを日本語で感じとっていただくにはどうしたらいいか…考えました。直訳が必ずしも正しい翻訳にはならないところが、翻訳のおもしろいところで、私は「不実な忠実」と呼んでいます。

なかがわちひろホームページブログより

タイトルも「いつの日か」より「ちいさいあなたへ」の方がメッセージのある内容の絵本だとわかる。子育てについて、文化的な違いについても検討して、ぴったりの言葉にしたことが伺える。疑問に思ったことは直接、作者に聞き、伝えたいことや意味、根拠など作者の意図や重いを大切にしたうえで翻訳していることがわかった。それらをふまえた上で、自由に楽しんで翻訳している様子が伺えた。


翻訳についてのまとめ(なかがわちひろさんの翻訳から)


灰島かり先生も翻訳に正解はない、自由度も大きくやりがいがあると言われているように、なかがわちひろさんは楽しんで翻訳されていると感じた。
制約のある中で、作者のメッセージを大切にしながら、日本の読者を対象としたわかりやすく伝わりやすい言葉に訳されている。
石井桃子さんや松岡享子さん、灰島かり先生に続く現代の魅力ある翻訳者ではないかと思いました。
なかがわちひろさんの翻訳絵本を読むことが多いのですが、まだまだ読んだことのない絵本があるので、これから読んでいきたいです。
そして、翻訳絵本についてのエピソードなど、ブログに書かれているのでそちらも拝見していきます。皆さんものぞいてみてください。

参考文献
「絵本翻訳教室へようこそ」灰島かり 研究社 2021年
「石井桃子の翻訳はなぜ子どもをひきつけるのか」竹内美紀 
ミネルヴァ書房 2014年
「ベーシック絵本入門」生田美秋・石井光恵・藤本朝巳 
ミネルヴァ書房  2013年

絵本の絵を読み解くことについては、次回の講座後に。

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