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サウナ小説 ~サウナ音頭~ 第0話後編 きっかけ(サウナ錦糸町)

生まれて初めて行ったサウナ、天然温泉 楽天地スパ。
予備知識がなさ過ぎたせいで数々の失敗をし、全くととのうことなく帰還。
それでももう一度サウナを体験したいと思い、向かったのは 
サウナ錦糸町
しかしこのサウナがどんな場所であるか、私はまだ知らなかった…

※前編の続きとなります。良ければこちらもあわせてご覧ください。

冬、午前6時半。
日はまだ昇っていない。

前回、人の多さに負けてサウナを堪能できなかったため、今回は早朝にサウナへ赴いた。
Googleマップで"サウナ"と検索、最も自宅から近かったのがここ。
サウナ錦糸町
シンプルすぎる名前からは、確かな自信が窺える。
素人が何を言ってるんだと自分にツッコみながら、私はオレンジ色の暖簾をくぐった。

券売機で券を購入し、受付の方に渡す。
朝から元気な接客を受け、少しテンションが上がる。
奥へ進むと、脱衣所。背丈ほどのロッカーが壁に沿っていくつも連なる。
この時点で脱衣所に人がいることを確認。
こんな朝から人がいるなんて、きっと人気の施設なんだろう。
自ずと胸が高鳴る。

早速浴場へ。とりあえず身体を洗う。
前回大失敗したサウナ。何となく気後れした私は一旦お風呂に入ろうと、浴場中心にある大きな湯船に足を踏み入れる。
冷たっ!!
これ水風呂なのか、、!全長7mほどの大きな水風呂。よく考えると、周囲も冷たい。完全に間違えてしまった。
またもや面食らってしまったが、気を取り直してお風呂を探す。
すると浴場の隅の隅に扉があり、開けると念願の湯船。
これ、見つけさせるつもりあるのか。。?
うちはサウナがメインだから。
そんなメッセージを感じるが、何はともあれ一旦身体を温めようと湯船につかる。
熱っ!!
1分ほどで退散。冬で身体が冷え切っていた反動もあるだろうが、にしても熱い。
この時点で薄々感じていた。
設備や雰囲気に対しての直感を、おそるおそる脳内で言語化する。
ここ、完全に玄人向けだ。。
サウナに入るまでもなくはじき出した結論。
前回と同じ、予備知識不足によるミスだ。
しかし、ここまで来たら引き下がるわけにはいかない。
身体をタオルで拭き散らかすと、決死の覚悟でサウナに入った。

室内に1歩入ると同時に感じたこと。
これは熱い、のか、、?
否。どちらかというとこれは、痛い、だ。
温度計を必死の思いで凝視する。針は110℃を超えていた。
それでも下段のベンチに腰を預けると、何とか耐えられそうな感覚に。噴き出す汗を拭きながら、目を凝らして時計を見る。しかし12分計の存在など知らないため、針の速度に困惑。頭がおかしくなったのか?と何度も自問自答しながら、何とかその場で耐え続ける。
そして徐々に人数の増える室内。気がつくと私は、入れ墨が入った大男2人に挟まれていた。
初めて見る入れ墨。偏見はないが、やっぱりちょっと怖いな。。
入れ墨、スガモチ、入れ墨。
奇怪なサンドイッチ状態で、しばし緊張の時を過ごす。
体感で5分くらいだろうか。
もう無理だ、サウナの相場時間など知らん。と外に出た。
眼前には大きな水風呂。
身体が火照りすぎたせいだろうか、水風呂初体験にもかかわらず何の躊躇いもなかった。桶で水を何度か身体に浴びせるやいなや、本能に身を任せて水風呂に突入。
冷たいが、なぜか心地良い。。
熱を帯びた身体が、ゆっくりと冷やされていく。
さらにこの水風呂、上空からシャワーが降り注いでいる。
身体の火照りが上下両方から取り除かれていくのを感じる。
水風呂の心地良さに気づいた瞬間だった。

そして休憩へ。
え、、どこで?
浴場内のどこにも座れそうな場所が見当たらない。
そこでふと思い出す。サウナ室内のさらに奥に部屋があったことに。
え、まさかサウナを通して休憩場所に移動するのか?
今から思えばおかしな発想だ。しかし私はサウナ初心者。深く考えることなく身体をタオルで拭きながら、サウナへ再度突入する。
入れ墨のお兄様方の目の前を通過し、さらに奥の部屋へ。
いやいやいやいや。
ただただサウナがもう1部屋あるだけではないか。
しかもさっきよりも数段熱い…
またもや痛恨のミスだ。
あまりの恥ずかしさと120℃の高温に、私の顔からは火が出た。

そそくさと外に出る、この間約10秒。とりあえず水をもう一浴びし、浴場を飛び出した。
すると脱衣所には螺旋階段があり、休憩スペースはこちら、という誘導が。なるほど、外で休憩するのか。
当時は外気浴という言葉すら知らなかった。
螺旋階段を駆け上がり、突き当たりを右手に出る。そこにはいくつかの椅子と、吹き抜ける優しい風。完全にここが休憩スペースだ。
おそるおそる椅子に腰を下ろす。
すると、じんわりとしかし確実に、えも言えぬ幸福感が押し寄せてきた。
視界がぐわんぐわんと揺らいでいく。思考を放棄し、その感覚に身を任せる。
これがととのうってことか…
しばらく椅子に座ってぼーっとする。
ずっとここにいられそうだ。
あまりの心地良さに眠ってしまいそうになっていた。
その刹那。
野太い男の叫び声が聞こえて我に返る。
真っ先に頭に浮かぶのは、入れ墨が入った屈強な男性。
何かマナー違反のことをしてしまったのか?と背後をゆっくり振り返る。
誰もいない。
何が起こったのか?と階段まで戻る。
なるほど、そういうことか。合点がいった。
螺旋階段を上って左手にはジムが併設されていた。そこでトレーニングされていた方こそ、先ほどの声の主だったのだ。
何も悪いことはしていなかった、とほっと胸を撫で下ろす。その安堵感を胸に階段を下る。脱衣所に着いた頃にはもう、私はサウナにハマっていた。

冬、午前7時過ぎ。
日はゆっくりと昇り始めていた。



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