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未読無視VS追いメッセージ

『来月あたり久しぶりに遊ばない?』

 年末年始の多忙な業務を乗り越えて家で一息ついていた頃に、そのメッセージに気が付いた。高校の同級生の佳織からで、ほぼ2年ぶりの誘いだ。高校時代は休日の度に遊んで騒いでいた友人たちだが、30代になった今でも付き合いがあるのは佳織を含む数人だけ。その佳織も2年前に結婚したので、連絡も途絶えがちになっていた。
 メッセージが届いていたのは3日前だったが、とても懐かしく感じ、深く考えずに返事を送った。

『いいね! 遊びたい』

『よかった! 予定がわかったらまた連絡するね』

 佳織からの返事はすぐに来た。待っていたのかと思うほどに早かったので、ちょっと引く。佳織は以前は正社員として働いていたが、結婚してからは短時間のパート勤務に切り替えたので時間が余って暇なのかもしれない。まだ子供もいないはずだ。
 佳織が婚活を始めて半年も経たずに結婚したのは意外だった。昔から佳織は消極的な性格で友人も少なく、恋愛面でもかなりの奥手だったからだ。
 私は学生時代から友人も多いタイプで、佳織とは正反対の性格とも言えるだろう。付き合いが続いているのが不思議なくらいだ。
 とはいえ、高校時代の同級生と会えるのは懐かしい。最近は仕事ばかりだったから気分転換も必要だ。

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『いいね! 遊びたい』

 奈津から返事が来たのは意外だった。てっきり、仕事や趣味が忙しいからという理由で断られると思っていて、ほとんど駄目元で誘ったのに。けれど、久しぶりに会えるのは素直に嬉しい。
 奈津は高校時代から行動力もあったし、友達も多かった。今でもその性格は変わらず、職場でもたくさんの人に囲まれているようだ。奈津のSNSの投稿はいつも賑やかで「いいね」の数も多い。
 でも、男性との縁には恵まれなかったようだ。奈津は20代の頃から婚活をしてたみたいだけど、30代になった今でも成婚に至っていない。行動力があって同性からも信頼されている奈津が婚活に苦戦しているのに、典型的な陰キャで友達も少ない私がすぐに結婚できたのは驚きだった。

『よかった! 予定がわかったらまた連絡するね』

 そう返信をしたものの、確認するほどの予定は入っていない。パートもさほど忙しい時期ではなかったし、奈津のように常に遊ぶ友達がいるわけでも、没頭する趣味があるわけでもない。

『来月は◯日と◯日なら空いてるよ。◯日もなんとかなりそう』

 暇だと思われるのも嫌だったので、結局、候補日を絞って送った。それに、奈津が本当は乗り気じゃなかったとしても、これで断りやすいだろう。自分の気遣いに満足した。

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 仕事でちょっとしたトラブルがあったせいで急に忙しくなり、スマホのメッセージすら何日も確認できなかった。残業続きで、夜遅くに帰宅してから夕飯を食べてお風呂に入り、あとは寝るだけの生活。
 その結果、未読メッセージが大量に溜まってしまった。
 趣味繋がりの友人だったり、職場の仲間だったり、他愛のないメッセージでアプリの中がごった返している。一部に目を通したが、私からの連絡が急に途絶えて友人たちに心配をかけてしまっているようだ。申し訳ない。
 メッセージのひとつひとつに返信をする時間も余裕も無くて、ひとまずSNSに一言だけ投稿した。

『仕事に殺されそうです』

 これでほとんどの友人に、私が仕事で忙しくしていることは伝わるだろう。連絡先を交換している友人たちは、私のSNSアカウントも知っているはずだ。
 佳織からもメッセージが届いていることには、もちろん気が付いていた。遊ぶ約束をしていたので、日程調整の連絡だろうなと見当もついた。
 ただ、既読にしてしまうと返信をしなければならなくなる。申し訳ないけれど、今はメッセージのやり取りに時間を取られたくない。
 どうせ佳織は時間に余裕があるだろうし、少しくらい放置しても問題は無いだろう。佳織と遊ぶにしても、向こうが予定を合わせてくれると思う。

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 奈津に候補日を送ってから、1週間が経過した。メッセージは未読のままだ。
 中途半端に日付を指定してメッセージを送ってしまったせいで、奈津から返事が来るまでは、その日を空けておかなければならない。特に予定が入る気配は無かったが、振り回されることにイライラした。一方的にメッセージを無視している奈津のために、どうして私の予定を空けておかなければならないのか。
 
『大丈夫そう? 忙しいなら無理しなくていいからね』

 奈津が断りやすいように、追いメッセージを送っておいた。だけど、その日の夜になってもやっぱり既読になっていない。こんなに未読無視するということは、もう私と遊ぶつもりはないのだろう。
 試しに奈津のSNSを確認してみると、驚くべきことに新着の投稿があった。

『仕事に殺されそうです』

 あ。SNSに投稿する時間はあるんだ? 私のメッセージは既読にすらしないのに。
 そんなに忙しくて乗り気じゃないなら、早く断ってくれればいい。『忙しいから行けない』の一言を、どうして送れないのだろう。そもそも、遊ぶつもりが無いなら、どうして誘いを受けるんだろう。
 ひょっとして、私が社交辞令を勝手に真に受けて勘違いしたってこと? だとしたら、めちゃくちゃ恥ずかしいからやっぱり早く断ってほしい。

『行けるかどうかだけでも返事くださーい』

『待ってるよー』

 連投になってしまったが、仕方ない。こっちだっていつまでも予定を空けていられない。
 というか、メッセージの返信すらまともにできないルーズな性格だから、奈津は未だに婚活がうまくいかないんじゃないか?
 思わずそんな意地の悪いことを考えてしまう。相手の気持ちと状況を想像できない困った性格なのだ、奈津は。

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 やっと仕事も落ち着いて未読だったメッセージをひとつひとつ確認していたが、佳織の追いメッセージを読むのだけが億劫だ。きっと返事の催促だろう。
 1週間もメッセージを未読にしてる時点でこっちが忙しいことを察して身を引いてくれればいいのに。そんなに私と遊びたいのだろうか。それとも、ただ単に暇なのか。
 ちょうどスマホを見ている時に液晶画面にポップアップ表示が出て『待ってるよー』というメッセージだけが読み取れたので、途端にうんざりする。
 こんなに追いメッセージが来ているのなら、下手に断ると怒らせてしまって面倒かもしれない。
 佳織以外の友人は、こちらがメッセージを未読にしている時は多忙を察してくれるし、SNSの投稿を確認して納得してくれる。執拗に追いメッセージを送ってくることは無い。
 スマホを確認する暇もないくらい多忙な時期があるなんて、佳織には想像もできないのかもしれない。
 というか、1人の友人に固執して追いメッセージを何度も送ってしまうくらい視野が狭いから、佳織は友達が少ないんじゃないの?
 思わずそんな意地の悪いことを考えてしまう。相手の気持ちも状況も想像できない困った性格なのだ、佳織は。

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あーあ……。

――早く断ってよ!
――早く諦めてよ!


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