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大河の流れに学ぶ、強い組織の作り方、人の育て方―『論語』

孔子の言葉を巡る2つの解釈

 中国古典などをもとに、企業などで人間力の研修をしていて、言葉の意味するところを、仕事や人生の実践を結びつけて考えることで、気づきを得てもらうという進め方をしています。

 講師である私の解釈、理解をベースに、ビジネスに展開するやり方で研修を進めるわけですが、ときとして、受講者の方たちが日ごろの仕事を通して、独自に理解し、実践に生かしていることのほうが、真の学びなのだと、思い知らされることがあります。

 その一例を、『論語』の次の言葉をもとに紹介しましょう。

 子(し)、川(かわ)の上(ほとり)に在(あ)りて曰(い)わく、
逝(ゆ)く者(もの)は斯(か)くの如(ごと)きかな。昼夜(ちゅうや)を舎(お)かず。

『論語』子罕篇

 この言葉を巡っては、古来、2つの解釈の仕方あるとされてきました。

【通釈その1】
 孔子が、川の岸辺に立って言った。
 昼も夜も、一瞬もとどまることなく流れ続ける、この川のように、人間もまた、不断に努力して、止まないようにしなければならない。

【通釈その2】
 孔子が、川の岸辺に立って、こんな感想をもらした。
 過ぎ行くものは、皆この川のようなもの。昼も夜も、やむことなく流れ続けていく。

 川の流れ、と一口にいっても、日本と中国では、スケールが違います。孔子の暮らしていた地域から推測して、黄河やそれに近いサイズの川、いわゆる大河を目の前にして語ったことと思われます。
昼夜に膨大な水量が絶え間なく流れていく大河をみて、孔子がどういう思いを抱いたのか。

 1つが、大河の流れのように、不断に努力し、自らを向上させようと自分を奮い立たせた、という解釈です。
 もう1つが、人間は川の流れのように止まることなく生き、歳を重ねていくものだ、と人生の来し方を振り返っている、という解釈です。

 どう受け止めればいいのか、思い悩んでいましたが、この頃は、自分の境遇、心境にあわせて、好きなほうの解釈に拠ればいいのだ、と思えるようになりました。
 現在は、2つの解釈、両方をほどよく取り入れています。

川の流れの原理を業務や人財育成に取り入れる

 さて。 
 実務の現場では、この言葉をどう受け止めているのか。
 研修でわかったのは、サービス業をしている組織では、川の流れを、業務のオペレーションに置き換えて、実践していたということです。
 
□業務を担当別に、(源泉)上流、中流、下流ととらえ、それぞれの役割、責任を明確に意識する

アパレルや食品なら
 上流は、商品を企画する、原材料を手配
 中流は、商品を生産する
 下流は、商品を販売する

 飲食店なら
 上流は、食材を下処理
 中流は、食材を仕上げる
 下流は、料理をサービスする

 川の流れをオペレーションと考えれば、澱みないのない流れをつくるには、川上、川中、川下、それぞれの担当者が流れに滞りが生じないように、仕事をしていくこと。相互に連携を取り合うことが大事。
 一瞬でも気を抜くとミスが起きてしまい、そこで生じた濁流が、そのまま下流へと流れていく。過程で生じたミス、欠陥が修正されず、お客様に届くことになり、トラブル、迷惑をかけることになる。結果、ブランドや商品の信用が落ちてしまう。

□川の流れを、人間関係、人材の育て方の視点で考える
 上流はマネジャークラス
 中流は中堅クラス
 下流は経験の浅いスタッフ

 マネジャークラスは、全体の方向性や将来のことまで見据えて仕事をする。
 中堅クラスは、マネジャーからの指示や教わったことを理解して、実行していく。一方で、その指示を経験の浅いスタッフに適切に伝え、仕事を分担させる。できないことがあれば手助けをする、具体的に教えてあげる。
 経験の浅いスタッフは仕事の習熟度を上げていく。新しい仕事にも、挑戦していく。

□川の流れを、人生の成長の視点で考える
 
 
いろんなものにぶち当たり、それを乗り越えることで、学んでいく。やり方や知識を吸収していく。昨日よりも今日、今日よりも明日へと成長していくように。
 小さな川からスタートし、学び続けることで成長して大河となり、最終的には大海原へ流れ出ていく。旅立っていく。

□川の流れを、ひとり一人、チーム全体のモチベーションとして考える

 「大河の一滴」。川は山奥で水が湧き出してくる源泉から始まる。源泉とは、一人ひとりのやる気のこと。源泉から水が湧き出てないと川が枯渇してしまうし、水が濁ってしまう。大きな流れを作り出していく源泉となる、モチベーションが大事。
 一人ひとりが、小さな川だとすると、組織の仕事とはそれが合流して、大きな川の流れをつくっていく。チーム全体のことを考えて、しかも一人ひとりが、個性を発揮し、しかし暴走することなく、チーム全体で力をあわせ、いい流れをつくっていくことが大切。

 ここに挙げたように、企業研修の現場で、仕事の実際に『論語』の知恵を生かしている実例に触れることが、私にとっては貴重な学びとなっています。
 学問(脳内)の『論語』、机上の『論語』にとどまっていてはいけない。
もっと、世の中に役立っていかないといけない。そう背中を押されているようです。






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