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人なんか嫌いだ! 第12話

 ある日、ボクは不思議な体験をした。特に変わった様子はなく、いつものような日だった。ボクはのんびり、夕日を見つめて、美味しい果物を食べていた。風景はさほど変わってはいないのだけど、なんとなく、違和感を感じた。いったい、何なんだろうか?

 ああ、そっか、ボクから見える風景の左側の平地にいきなりたき火らしき煙が見えたんだ。いままでなかったのになんでだろう。ちょっと、興味があったので、そこまで行ってみることにした。

 近くまで行くと、なんとなく様子がおかしい。雰囲気はかなり古臭い。自然は自然なんだけど、人工的なものがかなり古臭く感じる。たき火をしている人は、今風な恰好をしていない。なんか変だ。ちょっと、様子を伺っていると、みんな着物をきている。裸足の人も多い。男は髷を結っている。みんなちっさいし、痩せこけている。声を掛けてみることにした。

「こんにちわ。」
「おまえはどこから来た?」
「あっちの山に住んでいるけど?」
「あの山か。なんの用だ?」
「特に用はないけど、みなさん何してるんですか?」
「イモを焼いているんじゃ。あ、だけど、おまえの分はないぞ。」
「いいですよ。」
「物貰いじゃないのか?」
「そんなんじゃないですよ。」
「じゃ、何しに来たんじゃ?」
なんかこのやり取りが面白い。

「ひさしぶりに人を見たんで、話をしにきただけですよ。」
「本当にそうなのか?山賊じゃないだろうな?仲間はいるのか?」
「ボク一人です。仲間なんていませんよ。それに、山賊じゃないです。」
「怪しいな。」

 それじゃあ、と、思って、例のトマトを実らせ、みんなに渡した。
「これ、おいしいですよ。みんなで食べて下さい。」
「おお、なんと、甘い。」
「こんなにもらっていいのか?」
「いいですよ。たくさん、食べて下さいね。」
「まだ、あるのか?」
「たくさんありますから、どうぞ。」
「じゃ、カミさんの分をもう一個。」
「どうぞ、どうぞ。」

 急に和やかな感じになってきた。どうやら、ボクを泥棒か何かと思っていたみたいだ。みんなと仲良くなった。食べ物一つで劇的に変わるのは、みんな飢えているせいだった。彼らはみんなガリガリだ。話を聞くと、一生懸命に作った米を大半持っていかれてしまったらしい。

 それって、いつの時代だ?まあいい。ボクはいろんな野菜や果物を出して、みんなに分けてあげた。ものすごく、喜ばれた。そんなに喜ぶものなのかなぁ。でも、その時のボクはまだ気づいていなかった、ここがかなり古い時代だってことに。

「いったい、あなた様はどなたでしょうか?」
なんか急に丁寧な言葉使いになっている。
「特に誰ってことないよ。だって、あっちの山に住んでいるだけだもん。」
「では、なぜ、そのようにたくさんの食べ物をお持ちなのでしょうか?」
「さて、なんででしょうかね?」
「あちらの山にいったら、たくさんあるのでしょうか?」
「そういうわけではないですよ。」
「ほんとうですか?」
「ほしいなら、いつでもあげますので、言ってくださいね。」

 この人ら、ボクの山に行って、盗んでこようと思っているのかな。でも、行っても何もないけどね。ボクがしないと、何もないからね。
「仕方ないから、みなさんにお見せします。」
「何をでございますか?」
ボクはみんなの前で、例のトマトを育てて見せた。

「おお。」
いきなり、みんなボクにひざまずいた。
「疑って申し訳ありません。あなた様は神様なのですね。」
「いえいえ、違いますよ。」
「間違いなく、神様です。」
おいおい、そうなのか。まあ、いいか、そうしておこう。
「みんなが食べたいものを出してあげるから、言ってね。」
子供たちは興味深々で、口々にいろんなものをリクエストしてきた。
「さっき食べたあれがもう一回たべたい。」
それって、なんだ?
「まあいいか。えっと、これかな?」
「それ。」
当ったか。わからないから、適当にいくことにした。

「じゃ、最初はイチゴね。次は、柿、で、次はスイカ。」
「すごい、どんどん採れる。やはり、神様だ。」
「はいはい、好きなだけ食べていいよ。」
「本当ですか。ありがとうございます。」
ボクは神様気分でどんどん出してあげた。
「あまったら、明日食べればいいからね。」
これって、やはりすごいことなんだろうな。

 ボクはしばらく彼らに付き合ってあげることにした。週1回くらいの割合で、会いにいくことにした。でも、こんな近くにこんな人たちがいたんだ、なんてことを驚いていたものだったが、自分自身がタイムスリップしていたなんてまだ気が付いてなかった。

 ボク自身ならあたりまえなのだが、彼らもボロい小屋に住んでいる。で、全体で14~15人くらいしかない。そんな集落なのか。で、そんなある時、侍に出くわした。お、何でこんなところに、こんなヤツがいるんだ。侍らしき人たちは、集落の人から米を奪っていった。ひどいことするな。そこで、鈍感なボクが気が付いた。ここは、今の日本じゃないことを。

 侍たちが帰っていったあとに、ボクはたくさんの野菜と果物を出してあげた。
「あいつら、無茶苦茶しますね。」
「いつもせっかくできた米をみんな持っていってしまうんです。」
「じゃ、米に変わるものが必要ですね。」

 ボクはどうしようか考えたが、米を出して、それが見つかってしまったら、闇米ということで、みんながひどい目にあいそうだし。
「でわ、ジャガイモとサツマイモ、サトイモに山芋をつくりましょう。」
「おお、そんなにですか。ありがとうございます。」
こんだけあれば、主食としてはいい感じだろう。みんなは結構喜んでくれた。だけど、これをずっとするわけにはいかないから、困ったものだ。

 それからしばらくして、ボクはいつの間にか、現代に戻ってしまった。いったい、なんだったんだろう。よくわからない。でも、現代に帰ってこれただけよしとするしかないようだ。でも、このような自然の中では、今も昔もあまり変わらない。それが一番良いと思った。

(つづく)

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