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AIみちこさん 第3話

 それから、オレは授業が終わっても、いろんなことを聞いた。オレのからだに入っている以上、エネルギーはオレが死ぬまで供給し続けられるそうだ。それに、どうやってオレのからだに入ったのか?それは教えてもらえなかった。今のオレには理解することが難しいからだそうだ。2061年ではからだへ入ることへの痛みもなく、それが可能になっているらしい。

 AIみちこさんは、基本、オレのからだの健康に関することは、すべて把握しているとのことだ。だから、足らないビタミンとか、それを補給するのにどんな食べ物を食べればいいのかとか、アドバイスをくれるらしい。また、それぞれの個体に入っているAI同士で連絡を取って、相性がいいとか、悪いとかも教えてくれるらしい。だから、結婚相手として、もっとも適している人を教えてくれるとのことだ。

 だけど、この世界ではオレにしかAIが入っていないから、それはできないだろうと思ったが、AIはオレとしゃべっている人が、どんな人なのかを推論できてしまうらしい。また、オレが見た情報からの判断も、ある程度できるらしい。まあ、変なヤツなら、教えてくれるんだろうから、それはそれで有難いかもね。

 また、生命に危険が及びそうになった時は、AIがからだを操作することもできるらしい。それはちょっと怖い気もする。AIにからだを乗っ取られてる感じだし、無理がある。でも、それは危機的状況でないと、しないとのことだ。オレは今の状況にだいぶ慣れてきた。もう、そんなに違和感もない。

(最初はいろいろとアドバイスさせて頂きますが、必要でないことは、そう言って下されば、次回より言わないようにします。)
(わかった。じゃ、差し当たって今晩の晩御飯は何がいい?)
(涼子さまもご一緒なので、ご自宅で頂いたコロッケカレーがいいかと思います。)
あれか。久し振りに食べたいよな。オレは食材を買いに行くことにした。

 涼子が来るまで、まだ十分時間があるから、ゆっくり調理できる。久しぶりにタマネギ丸々1個を、そのまま煮込んで溶かし、刻みトマトの水煮缶を入れて、牛肉も入れて、また煮込む。カレー粉は市販の辛口だ。コロッケは、総菜コロッケを買ってきてある。サラダもあるから、準備万端だ。

 オレは涼子が来るまで、AIみちこさんにいろいろ聞いた。もし、オレに不治の病が見つかったら、どうするのか。
(不治になる前に、私が取り除きますので、不治にならないです。)
(と、いうことは、未来では誰もそんなことでは死なないの?)
(はい、その通りです。)
(すごいもんだな。じゃ、デブもいないんじゃない?)
(はい、故意にデブを希望されなければ、デブの方はほとんどいません。)
(じゃあさ、体脂肪を10%に抑えたかったら、それもできちゃうってこと?)
(はい、その目標を達成するために、アドバイスします。)
(さすがだな。そういえば、健康診断の時にレントゲンをするけど、あの時はみちこさんはどうするん?)
(放射線が当たらないところに移動しているので、大丈夫です。多少、当たっても大丈夫ですが。)

 そんなことを話していると、涼子がやってきた。
「来たよ。」
「おう、入れよ。」
「あれ?この匂いは、カレーじゃん。」
「そう、コロッケカレーだ。」
「なっつかし~。」
「だろ?早く食べようぜ。」
「じゃ、ご飯つぐね。」
「おう。」
 やっぱり、腹が減っているときは、つい早くかけ込んじゃうもんだ。でも、オレにはアドバイザーがいる。

(ちょっと、ゆっくり噛んで食べて下さい。)
はいはい、わかりましたよ。そう言って、一口ごとにスプーンを置く。こうすりゃ、ゆっくり食べれるもんな。

「ねね、だいぶ余ってるね。」
「これは冷凍して、また今度食べるんだ。」
「そっか、そうだよね。」
「ところでさ、涼子は文学部卒業したら、どうするん?」
「まだ、決めてないよ。リョウくんは?」
「オレもどうしようかな?」

(リョウさまの性格や得意分野を考えると、起業が向いています。)
まじか?じゃ、涼子に話したらなんていうだろう?
「オレさ、起業してもいいかなって思ってるんだ。」
「えっ、それって社長になるってこと?」
「だね。」
「すごいね。」
だけど、どんな仕事で起業すればいいんだろう。

(一番向いているのは、物販です。この時代、まだまだ技術力を持っているのに、営業ができていない会社がたくさんありますから、その会社の製品を代わりに販売するんです。リョウさまは買い手を見つけて販売する、すなわち、その手数料を頂くのです。)
(なるほどね。涼子も手伝わせちゃおうかな。)
(非常に向いていると思います。)

「でさ、涼子も手伝わない?」
「私?無理、無理」
「ははは、そう言うと思ってたわ。」
まあ、いいや。オレの方は、ちょっとその線で考えてみようか。

「ねえ、今日泊まってっていいでしょ。」
「またかよ。」
「だって、めんどくさいんだもん。」
「涼子はオレに対して、まったく無防備だよな。」
「だって、リョウくんはそんなことしない人って知ってるもん。」
「いや、わからんぞ。」
「ないって。だけど、私としては、そうなってもいいけどね。」
「あほか、涼子は腐れ縁の悪友じゃん。」
「やっぱりね。じゃ、泊まる。」
「仕方ねえな。」

ある日突然なんて、歌もあっただろ。気を付けないと、だめだぜ。
(リョウさま、は涼子さまとそういう仲になってはいけません。そうなった後の相性は良くないです。)
やっぱりね、わかった。今の気持ちを変えないようにするわ。だけど、涼子ももう少し女らしくすれば、モテそうなんだけどな。こればっかりは、本人次第だよな。

 翌日、オレは昼からの授業なんで、涼子に朝食を作って、追い出した。オレは未来に興味があったので、AIみちこさんにいろいろ聞いてみた。だけど、担当する人を、よい人生が送れるようにサポートするのが、使命なので未来で何が起こったのかは、お答えできませんという。じゃあ、オレはどんな人生を歩んでいくのかという質問も、選択肢が多くてわかりませんと言われた。つまりだ、目の前の問題のある選択について、アドバイスするだけということみたいだ。なんか、あまり興味が薄れてきたな。でも、アドバイスだけは聞いておくか。

 ゼミのコンパに行った時は、AIみちこさんはちゃんとオレの体調を見てくれていて、
(今日は中ジョッキで2杯までにしておいて下さい。)
と、アドバイスをくれた。その通りにやったので、翌日は快適だった。また、ゼミの連中との相性もアドバイスくれる。付き合い方も教えてくれる。なんでもかんでもじゃ、オレ自身が考えなくなるだろうからと言って、そこまで深くはアドバイスくれない時もある。

 ある日、授業の帰りに白髪頭のちょっと小太りのおじさんが、なんか苦しそうに道端でうずくまっている。
「だいじょうぶですか?」
「ちょっと、苦しくなって・・・」

(この方は心筋梗塞の恐れがあります。救急車を呼んで下さい。)
AIみちこさんにそう言われ、オレは救急車を呼んだ。

「大丈夫ですか。今、救急車呼びましたからね。」
「ありがとう。」
そう言いながらも、やっぱり、苦しそうだ。今か今かと待ってると、割と早く救急車は来た。オレが心筋梗塞の可能性を話したら、それに対応できる病院を探してくれた。じゃあってんで、オレが立ち去ろうとしたら、救急隊員に乗れと言われて、ほぼ無理やり連れていかれた。これから、晩飯の食材を買いに行くのに。

 救急車の中も、病院に着いても、オレは見ているだけだったから、同行する意味がわからなかった。帰っていいよなと思って、何も言わないで帰ろうとすると、救急隊員から、名前や連絡先とか聞かれたので、一応、答えておいた。

 救急車なんか初めて乗ったけど、割と中は大きい感じがした。身長170のオレでも、まっすぐ立てる感じだ。めったにない経験をしたと思った。とにかく、無事でよかった。

(つづく)

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