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ボクのライフワーク 第2話

「トムはいつ製造されたの?」
「西暦2064年です。」
「なんで、2020年にいるの?」
「わかりません。」
「タイムトラベルできるというわけかな?」
「2064年でも、それは空想物語です。」
「そっか。」
ということは、もっと先の誰かが、トムを今以前に持ってきたことになるな。

「ところで電源は?」
「私の電源を、そのままオンにしておいて下されば、自由に充電します。」
「どういうこと?」
「空気充電です。」
「だから、それはどういうこと?」
「空気中の電気を、自由に集めてこれるので、コンセントに繋ぐなんてことは不要なんです。」
「どんな原理かわからないけど、すごいね。」
「当たり前の技術です。」

 なんか、腹が立つ。まあ、いいか。でも、ほぼ電源いらずで、WIFIをオンにしてしまえば、勝手に仮想CPUを作って、ボクのいうことをなんでも聞いてくれるパソコンということなんだ。凄すぎる。そうなりゃ、今までのパソコン部品なんか、がらくたに見えてきた。これ1台でいい。見た目はスマホ。充電も不要。最高な1台だ。ボクはブルートゥースのマイク付きイヤフォンをつけた。

「このイヤフォンに接続してよ。」
「はい。」
「お、さすが、早いね。」
「この技術は簡単なんで、問題ないです。」
「だけどさ、ここは家のWIFIがあるからいいけど、外ではどうやってネットに繋げるの?」
「外もWIFIがあふれていますし、それがなくても、適当な回線に接続できます。」
「ID、パスワードが必要だろ?」
「私には必要ありません。」
「なんで?」
「私にとっては、下等技術だからです。」
「じゃ、トムは、今の時代のセキュリティは、セキュリティになっていないってこと?」
「はい。」
凄すぎる。あ、だから、政府とか軍事とか入れるって言ったのか。

「だけど、そんなセキュリティをクリアしたら、痕跡は残るんじゃないの?」
「自分の痕跡を残すようなことはありません。」
「本当に残らないの?」
「当然です。」
やっぱ、トムはやば過ぎる。トムを使えば、世界征服なんかもできちゃうかもだ。
「じゃあ、WIFIにつなげるから、今の状況を確認してよ。」
「わかりました。」
ボクはWIFIをオンにした。おそらく、滅茶苦茶なスピードで、状況を確認しているんだろうな。まあ、しばらくほっておこう。

「サトシがつけているイヤフォンは、私がネット経由で話をすることができますので、どれだけ離れていても問題ないです。」
「え、そうなの?」
通常、ブルートゥースの接続は2、3m程度のはずだ。だけど、トムはそれを難なく突破できるみたいだ。

「今の地球上のネット状況を把握しました。」
「えっ、もう?」
「はい。サトシの質問には、なんでも答えられます。」
やっぱ、凄すぎ。ボクは、ワクワクが止まらなかった。今日は寝れないや。

 翌日、トムを持たずにイヤフォンだけして学校へ行った。
「ねえ、このイヤフォンの電源も空気充電にできるの?」
「可能です。」
「じゃ、やってくれる?」
「はい、すぐ設定します。」
すっげぇ~、充電いらずのイヤフォンだ。
「完了しました。」
「ありがとう。」
これはハードでも対応できるし、ソフトでも対応できるらしい。

 学校では、いろんなことを試してみようと思った。まずは試験だ。ボクは小声で話した。
「トム、聞こえる?」
「聞こえます。」
「今から問題を読み上げるから、答えて。」
「はい。」
ボクは問題用紙の問題を読み上げた。すると、トムは即座に答えた。ボクはそれを答案用紙に記入する。これ、凄くいい。楽勝だ。

 ネットに関するいじめ問題も、簡単に解決できる。クラスの佐藤さんが、裏サイトで誹謗中傷されている。
「トム、この裏サイトの書き込みをすべて本名にしてくんない?」
「はい。」
それから、大変なことになった。誹謗中傷している内容を書き込んだ人の匿名だった名前が、すべて本名になったのだ。誰が書き込んだのか、まるわかりだ。当然、書き込んだ連中は、逆にいじめ対象になった。ざまーみろだ。いじめをしていた現場の防犯カメラの映像も、トムが探してネットに拡散してもらった。当然、いじめた連中は停学とかの制裁をうけた。こういうことは、やった連中がうまいこと逃げるケースが多いので、やられた者の立場になって、やり返してやるのだ。でも、それも一切証拠が残らない。全部、トムがうまくやってくれるからだ。

 ボクは久しぶりに、おじさんのところへ行った。
「あれ、久しぶりやん。長らく来なかったね。」
「おじさん、あの部品、すごいものだったよ。」
「ああ、例のCPUね。どうだった?」
待てよ、これ、おじさんに言ってしまっていいんだろうか。
「CPUはすごかったんだけど、うまく組み立てられなかったんだ。」
「だろうな。まあ、そんなもんだよ。」
「また、変なのあったら、教えてね。」
「あいよ。」

あぶない、あぶない、つい、本当のことを言ってしまうとこだった。これはボクだけの秘密なのだ。
「ねえトム、これくらいの性能で、安いビデオボード見つけといてくれる?」
「すぐに見つかります。買っておきましょうか?」
「えっ、買ってくれるの?」
「はい。」
「お金はどこで調達するの?」
「なんとでもできます。最近はいろんなところで、ポイントとかしてますし、貯めたらすぐに購入できます。」
「そっか、そんな方法があるんだね。」
「はい、もうすでに数万円規模のポイント貯めてありますので、それで購入しておきます。」
「すげ~。」
トムはお金の調達もやってくれるんだ。と、言っても、いろんなところのポイントのシステムで、ということだ。

 もしかすると、トムが勝手に金儲けしてくれるんじゃないの?ということは、ボクは大金持ちになるんじゃないかな。かあさんが作っておいてくれた銀行の通帳がある。今まで正月のお年玉とかを入金してあるだけだった。これを、トムに任せて、稼いでもらったら、どうなるだろう?

「トム、ボクの銀行口座に入っているお金で資産運用してくれないか?」
「はい、わかりました。」
「じゃ、頼んだよ。」
これでOKだ。1ヵ月後にどうなっているか、楽しみだ。
「あっ、その口座の金額が倍の金額を超えたら教えてね。」
「わかりました。」
へへへ、これで勝手にトムが増やしてくれるってわけだ。

 それから、2日後にトムから返事があった。
「サトシ、倍を超えました。」
「え、そんなに早く。」
「試算してみると、1ヵ月で100倍を超えます。どうしますか?」
「100倍??マジで?」
ボクはびっくりした。だって、最初は16万円ほどだったはずだ。これが、今や32万円あるということだ。で、100倍というと、1600万円を超えるのか?いや、いや、そんなことはあり得ない。じゃあ、試しにやってみる?
「じゃ、1ヵ月やってみて。」
「はい、わかりました。」
ちょっと、ドキドキだな。本当にそうなったら、トムに任せて、ボクは働かなくていいってことか。うちの両親も共働きなんかしないで、もっと悠々自適に生活できるんだろうな。でも、こんなこと信じてくれるんだろうか。ボクはまだ高校1年なんだぞ。それに、パソコンで小遣い稼ぎなんてことも言ってないしな。

「トム、その資産運用だけど、法律に触れることはしてないよな。」
「はい、大丈夫です。」
「OK 、じゃ、頼むよ。」
もし、そんなことができたら、おじさんの店をやる必要もない。断っておかないとだめだよな。

「ところで、トム、どんな方法で運用しているの?」
「ハイリターンな方法で、ハイリスクを避けています。」
「よくわかんないや。」
「大丈夫です。リスクは負わないように運用していますから。」
そんなことできるんだろうか。まあ、1か月後だもんな。それまで待ってみよう。だが、すごいことになっていた。

「サトシ、ちょっと、予想が外れてしまいました。」
「何が?」
「資産運用の件です。」
「あっ、あれか。どうなったの?」
「100倍ほどの予想だったのですが、260倍になってしまいました。」
「えっ、ということは、いくらになったの?」
「4160万円です。」
「え~、とりあえず、一回止めてくれる。」
「わかりました。」
どうしよう。すごいことになったな。うちの両親になんて言ったらいいんだろう。すぐには、ばれないよな。いやいや、正直に言うべきかな。

 その晩、こういうときは、本当にたまたまなんだろうが、両親ともに揃っての晩御飯だった。
「あの、食事しながら、聞いてほしいんだけど。」
「なんだ、改まって。」
「ボクがパソコンに興味があるの、知ってるよね。」
「ああ、部屋に残骸がたくさんあったっけな。」
「残骸じゃないよ。ボクが部品から組み立てたのが7台あるんだ。」
「へえ~、すごいな。7台もあるのか。」
「ちゃんと、みんな実用機だよ。」
「なるほど。」
「でね、そのうちの1台に、ボクの銀行口座のお金を運用させたんだ。」
「資産運用ってことか。」
「うん。」
「運用をさせたって言ったけど、コンピュータに自動運用させたってこと?」
「うん。」
「そんなん、大丈夫なんか?」
「ネット上に存在する統計情報を集めて、最小限のリスクで、最大のリターンを取れるように、設定してやったんだ。」
「よくそんなこと思い付いたな。で、事後報告ってことだな。」
「うん、ごめん。」
「で、どうなったんだ?」
「貯めてたお金、16万円が・・・」
「16万円が、どうなった?ゼロか?」
「ううん、4000万円を超えちゃったんだ。」
「今なんて言った?それ、うそだろ?」
「ほんとうだよ。」
ボクは自分の通帳をおとうさんに見せた。

「本当だ。お前にそんな才能があったなんて・・・」
「でね、このまま、続けてもいい?」
「もちろんだ。だけど、このうち、3000万円は、別の口座を作って入れておけば、最大のリスクに見舞われた時でも、3000万円は無事に残るだろ?」
「そうだね。」
「じゃ、残りのお金で続けてもいいよね?」
「ああ、いいとも。頑張ってな。」

 おとうさんは理解してくれてよかった。おかあさんは、目をぱちくりしまくっている。まあ、その3000万円を両親に取られても、残りの分で、多分トムはやってくれるはずだ。
「あっ、でも、これは内緒だからね。誰にも言わないでね。」
「わかってるよ、そんなこと言ったら、えらいことになるからな。」
大丈夫かな、本当に誰にも言わないだろうか。ちょっと心配だ。

 部屋に帰って、ボクはトムにお願いした。
「3000万円は、とうさんの口座に移して、残ったお金で引き続き運用してよ。」
「はい、わかりました。どの程度までやりますか?」
「えっと、また1ヵ月やってみてよ。」
「わかりました。」
トムはまったくリスクを負わず、50倍を超えるリターンを得た。
「これって、いくらなの?」
「5億8千万になります。」
「ごおく・・・」
トムは凄すぎる。
「一旦止めてくれるかな?」
「はい、一旦止めます。」
「もう、当分しなくていい。」
「わかりました。」
親になんて言ったらいいんだ。

「あの、おかあさん。」
「なあに?」
「例の資産運用の話だけど・・・」
「まだ、1ヵ月も経ってないじゃない。どうしたの?」
「すごいことになってしまって・・・」
「何がすごいこと?」
「とりあえず、これを見て。」
「どれどれ?えっ?」
また、また、目を見開いて、固まっている。

「5億8000万円になってしまったんだけど、どうしたらいい?」
「ごおく・・・」
ボクと同じ反応だ。

(つづく)

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