第36話 エイトウーマン写真展2022①〜エイトウーマンに選ばれなかった藤かんなは、スタッフに選ばれる〜
藤かんなスタッフ辞令
2022年10月中旬、社長から電話があった。
「来月のエイトウーマン写真展やねんけど、スタッフやってほしいねん」
社長の話はいつも単刀直入だ。
11月8日から20日まで約2週間、渋谷で開催される『8woman NextStage 西田幸樹×エイトマン写真展』にスタッフとして手伝いに来てほしいということだった。
「藤かんなはエイトウーマンとして選ばれてないし、写真展に自分の写真はないけど、スタッフとして受付をやってほしい。写真展ではきっと色んなこと起こるから、見たこと感じたことをTwitterで書いてほしい」
社長は言った。私は「いいですね!やります!」と特に何も考えず返事をした。
「スタッフをお願いするのは迷った。だって藤かんなはエイトウーマンに選ばれてないねん。それなのに、選ばれてる他の女優の写真展を手伝うって屈辱的やと思うもん。断ってくれても、怒ってもいいねん。それに”悔しい”と思わなあかんとも思う。
ただ、藤かんなはAVの先のステージに行く人やし、行かなあかんと思ってる。だからあなたが屈辱的に思うかどうかは関係ないと思って、こうしてお願いした。スタッフをすることは藤かんなにしかできひん。他の女優は自分の写真がない写真展なんて、手伝われへん。俺もお願いせえへん。スタッフをやって結果的に得をするのは藤かんなやと思うよ」
「”悔しい”と思わなあかん」と言われたのにはハッとした。私は”悔しい”や”屈辱的”とは思えなかった。「藤かんなはAVの先のステージに行く人」や「スタッフは藤かんなにしかできない」と言われてしまったら、「スタッフに任命いただき、ありがとうございます!」と思ってしまうだろう。
こうして私はエイトウーマン写真展でスタッフをすることが決まった。
11月7日(月) 0日目
”GANTZ”の作者、『奥浩哉先生』のエイトウーマンTシャツをもらう
写真展前日。私は大きなスーツケースを持って、東京へやってきた。「写真展が始まる前に打ち合わせしておこう」と、社長に写真展会場へ呼ばれていた。
会場に着くと、社長とマネージャーの山中さんがいた。2人に会うのは久しぶりな気がする。ちょっと嬉しい。
「明日からは受付に座って、物販とか、写真作品を買った人への特典の案内とかして。この2週間は”女優藤かんな”は出さず、”スタッフ藤かんな”として裏方に徹してほしい」
そう言って社長はエイトウーマンTシャツを私にくれた。
このTシャツのイラストは漫画『GANTZ』の作者である『奥浩哉先生』が描いたものらしい。
「明日からこれを着てな。2週間楽しもう」
社長との打ち合わせは早々に終わり、私は景気づけとして、ホテル近くのコンビニで唐揚げとコーラを買った。明日から一体何が起こるのだろう。
11月8日(火) 1日目
西田幸樹の写真へのこだわりを発信する
写真展初日。開場1時間前くらいに会場へ行った。すでに社長、山内さん、西田さんがきていた。西田さんに会うのは約1年ぶり、『ヘアヌードの湖』の撮影以来の再会である。またもやちょっと嬉しい。
「西田さん、ご無沙汰しています。私のこと覚えていますか?」
「もちろんだよ。週刊ポストに載ってた”会社を辞めた”って記事読んだよ。大変だったんだろうけど、前より表情が明るくなったね」
西田さんはそう言ってくれた。
写真展の約4ヶ月前に、私はAVがバレて勤めていた会社を辞めた。まだフルタイムの仕事がない生活には慣れてはいなかったが、気持ちはとてもスッキリしていた。
開場時間まで私は会場を見て回った。展示写真は購入することができ、購入金額に応じて特典がある。在廊女優と数分間会話ができたり、一緒にチェキを撮ることのできるのだ。
私は高校時代の文化祭を思い出した。
”あの時も売り子やらされたなー。ホットドックの着ぐるみ着て・・・”。
写真展を高校の文化祭と一緒にしたら西田さんに怒られそうだが、お祭りが始まる前の高揚感を味わっていた。
ついに開場。私は受付に座り、お客さまを出迎えた。会場の案内用紙を渡し「ゆっくりご覧ください」と言う。来場者のほとんどは男性だった。誰も藤かんなには気づいていなかった。”ちっ”(心の舌打ち)
開場からしばらく経った頃、受付に座る私の横で西田さんはこう言った。
「ここの3面、すごいでしょ。なんか水の中に入ったみたいじゃない?でもみんな床を見てくれないんだよね。まず正面の写真に目がいっちゃうみたいなんだよ。床がすごいのになー。この写真ねシールみたいに貼ってるんだよ」
会場に入り、まず目に入るのが3面に大きな写真が展示された空間である。
「これだけ大きな写真を印刷しようとすると、紙をつぎはぎしないといけないんだけどね、それだと継ぎ目ができちゃうでしょ。だから野外広告とかに使われるようなビニール素材のシートに印刷してるんだ」
西田さんは教えてくれた。
”これをみんなに伝えるのが、私の仕事なんちゃうか!?”
私はそう思い、急いでツイートした。
「そろそろ寧々ちゃんがやってきますよ」
山中さんが私に言った。
この日の在廊女優は『吉高寧々さん』だ。この写真展に参加する上で、一番懸念していたのが<エイトウーマンたちに会うこと>だった。もちろん在廊する女優のほぼ全員が初対面だ。
”他の女優と会いたくない人もいるのではない
だろうか”
”初対面が苦手な女優もいるのではないだろうか”
エイトウーマンに会うことへの心配は尽きなかった。寧々ちゃんは一体どんな人だろう。不快な思いをさせなように、ひとまず様子を伺いつつ、慎重に・・・。
吉高寧々との初対面!写真もリアルもどちらも可愛い
『吉高寧々さん』がやってきた。真っ白なお洋服を着て、まるで天使のようだった。私は控室に入った寧々ちゃんに向かって、緊張しながら挨拶をした。
「藤かんなです。よろしくお願いします」
「かんなちゃん!こちらこそよろしくお願いします!」
うわ!眩しい!かわいい!声まで可愛い!!彼女は写真で見るあの笑顔の通りの人だった。
それから寧々ちゃんは西田さんと一緒に会場を見て回った。
「可愛い・・・」
そう呟くファンの声が聞こえてきた。みんな遠巻きに寧々ちゃんを凝視している。おそらくみんなも寧々ちゃんの笑顔に心を鷲掴みにされただろう。
私はふと考えた。
”寧々ちゃんのAVを見てる人もたくさんいるよね。理性を失ってしまうファンとかいないのかな・・・”
いきなり寧々ちゃんに抱きついたり、己のブツを見せるファンがいるのではないかと、私は警戒した。山中さんが理性を失ったファンを羽交い締めにし、私が心を鬼にしてバレリーナ蹴りをお見舞いする。そんな最悪の事態も想像したが、会場はとても静かで、ファンは節度ある方たちばかりだった。
20時。写真展は閉場。
「ご飯いこか」
社長と山中さんと私は近くの居酒屋に行った。
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