令和6年度 予備論文 再現 民法

第1 設問1
1 CのDに対する請求は所有権に基づく物権的返還請求権としての土地明渡請求である。物権的返還請求権の要件は①原告が目的物を所有していること、②被告が目的物を占有していることである。Dは現在も乙土地を占有しているので、②を満たすことは明らかである。
2 では、Cは乙土地の所有権を有するか。
⑴ Aが搭乗していたタンカーは令和3年4月1日未明に発生した船舶火災によって沈没したため、Aは「沈没した船舶の中に在った者」(民法(以下法令明省略)30条2項)にあたる。そして、同じ頃に発見された甲の乗組員数名の遺体の中にAの遺体は含まれていなかったので、「生死が…船舶が沈没した後…1年間明らかでない時」にあたる。
 したがって、Aは30条2項の失踪宣告の要件を満たす。
⑵ Aは令和4年8月1日に失踪宣告がなされたことによって、「その危難が去った時」、すなわち、甲が船舶火災により完全に沈没した令和3年4月1日に「死亡した」ものとみなされる(31条)。
⑶ Aが「死亡した」とみなされることによって、相続は開始する(882条)。そして、Aの子(887条1項)であるCは、Aの子のBとともにAの遺産に属する財産を共同相続(896条、898条1項)する。
⑷ Aは本件遺言書を作成していたところ、本件遺言書はAの「死亡」によってその効力を生じる(985条1項)。本件遺言書は適法に検認が行われたため、有効である(1004条1項)。
⑸ 本件遺言書には乙土地をCに相続させる旨の記載がある。かかる記載によってCは乙土地の所有権を取得するか。
 遺言書は生前の被相続人の意思表示であるから、それを尊重すべきである。また、被相続人も遺言によって遺産分割の方法を定めることができる(908条1項)から、特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言を遺贈と解すべきでない。
 したがって、特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言は、遺贈と解すべき特段の事情がない限り遺産分割方法の指定と解すべきであり、その場合、当該相続人は当該財産の所有権をなんらの行為を要することなく相続開始の時から取得すると解する。
 よって、乙土地をCに相続させる旨の本件遺言書によって、Cは相続が開始された令和3年4月1日に乙土地の単独所有権を取得する(①充足)。
3 これに対してDは、乙土地について所有権移転登記名義を取得した自己は「第三者」(899条の2第1項)にあたり、Cは乙土地の所有権の取得を事故に対抗できないと主張することが考えられる。
 しかし、Cは乙土地をCに相続させる旨のAの遺言によって乙土地の所有権を取得したので、乙土地は「相続分を超える部分」(899条の2第1項)に当たらない。そのため、Cは乙土地の単独所有権の取得を登記なくしてDに対抗できる。
4 よって、Dの反論は認められず、Cの請求は認められる。

第2 設問1⑵
1 Aの請求は所有権に基づく物権的返還請求権としての土地明渡請求であるから、設問1⑴と同様の要件で判断する。そして、Fは現在も乙土地を占有しているから②の充足は明らかである。
2 Aは住所地に帰来し「失踪者が生存すること…の証明があったとき」(32条1項本文)にあたるので、上記失踪宣告は取り消される(32条1項本文)。
 失踪宣告(31条)によって、Aの死亡が擬制され相続が開始した(882条)。そして、Cが適法に相続放棄したことによって、Cは初めから相続人でなかったものとみなされ(939条)、乙土地の所有権はBが単独相続したことになる。そのBから、失踪宣告が取り消される前に乙土地をEが買受け、さらにEからFが乙土地を買受けたので、Fは「失踪の宣告によって財産を得た物」(32条2項本文)にあたる。
 したがって、失踪宣告の取り消しによって乙土地の所有権はAに復帰する(①充足)
3 これに対してFは、乙土地の買受けは「取消し前に善意でした行為」(32条1項但書)にあたるので、失踪宣告の取消しの影響を受けないため、自己が乙土地の所有権を取得できると反論することが考えられる。ここで「善意」の意義が問題となる。
 「善意」とは失踪者が生存すること又は31条に規定する時と異なる時に死亡したことを知らなかったことを意味する。そして、善意は取引の双方が善意でなくでもよく、片方が善意であれば足りると解する。
 確かに、BはAからの電話によってAが生存していることを知っていたし、FはAが生存しているものの帰国は困難であることをBから伝え聞いていたため、BとFはであった。しかし、EはAが生存していることを知らなかったため、B・E間及びE・F間の乙土地の売買は共に「善意でした行為」である。
 したがって、両売買は失踪宣告の取消しの影響を受けず(32条1項但書)、Fは乙土地の所有権を取得できない。
4 よって、Aの請求は認められない。

第3 設問2⑴
1 GはI銀行に、Hに対する500万円の振り込み依頼をし自己の口座から500万円を失った(500万円の払戻債権を失った)にもかかわらず、K銀行のH名義口座に振り込みはなされていないので、支払債務の弁済の効果は生じていない。したがって、Gに「損失」が生じた。
2 誤振込みがなされた場合であっても、その受取人は銀行に対してその分の払戻債権を取得すると解する。
 したがって、J名義口座に500万円が振り込まれたことでJはK銀行に対して500万円の払戻債権を取得し、「利益」がある。
3 不当利得における因果関係は社会通念上の因果関係で足りる。Gによる本件誤振込みによってJは上記払戻債権を取得したといえるので、利益と損失の間に因果関係は認められる。
4 「法律上の原因」がないとは財産的価値の移動を正当化するだけの実質的・相対的な理由がないことを意味する。JはG及びHと何ら関係のない人物であり、JはGに対してなんら債権を有していないので、本件誤振込みを正当化する実質的・相対的な理由はない。
 したがって「法律上の原因」はないといえる。
5 よって、703条に基づくJに対する500万円の不当利得返還請求は認められる。

第4 設問2⑵
1⑴ 第3と同様にGに「損失」が認められる。そして、LはJから債務の弁済を受けたので、「利益」が認められる。
⑵ では因果関係は認められるか。
 誤振込みの受取人が債務の弁済を行なったとき、誤振込によって取得した金銭の全部又は大部分が弁済に用いられたといえる場合には、利得と損失の因果関係が認められると解する。
 K銀行のJ名義口座から、現金500万円の払戻しを受けており、それにより同口座の残高が0円となっていた。同口座はここ数年間残高は0円であって、本件誤振込身及びその払戻しを除き、入出金は行われていなかった。そのため、Jは誤振込金以外に自己固有の財産を有しておらず、JのLに対する弁済は誤振込によって取得した500万円の全部を用いてなされたといえる。
したがって、因果関係は認められる。
⑶ 「法律上の原因」がないといえるか。
 誤振込みによって取得した金銭によって弁済がなされたとき、債権者が誤振込金が弁済に用いられたことについて悪意または重過失であった場合、法律上の原因がないといえる。
 Lが弁済金の出所を尋ねたところ、Jは自己の銀行口座に誤って振り込まれた金銭である旨を説明した。そのため、Lは誤振込金が弁済に用いられたことについて悪意であった。
 したがって、「法律上の原因」がない。
2 よって、GのLに対する不当利得返還請求は認められる。
 

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