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80才の童話作家 ③

奇跡(きせき)のテディベア(第3話)

 ここは四国(しこく)の高知県(こうち
けん)というところです。

 ある山(やま)のふもとに小(ちい)さな町
がありました。この町はこじんまりとし
ていますが、子どものキャンプ場(じょう)
や温泉(おんせん)や旅館(りょかん)などが
あって、いつもお客(きゃく)さんがやっ
て来(き)ます。

 サッちゃんは7才(さい)の女(おんな)の
子で、家(いえ)は温泉宿(やど)のはずれに
ある橋(はし)をわたって、右(みぎ)のほう
にまがった300メートルほどのところに
あります。ここからから500メートル
ほど行(い)くと、登山(とざん)の入口(いり
ぐち)になります。

 家の前(まえ)には大(おお)きな川(かわ)
が流(なが)れていて、毎日(まいにち)、
たくさんおサカナがスイスイと気(き)も
ちよさそうに泳(およ)いでいます。サッ
ちゃんはこんなおサカナたちといつも
お話(はなし)したり、あそんだりするの
が大好(だいす)きでした。

 ところが、ことしは春(はる)から雨
(あめ)が少(すく)なくて心配(しんぱい)し
ていたところ、夏前(なつまえ)にひどい
かんばつにおそわれました。川(かわ)の
水(みず)はへって、おサカナはほとんど
いなくりました。なにしろ、川底(かわ
ぞこ)がすぐ見(み)えるくらいに水位(すい
い)が下(さ)がり、水もすっかりにごった
からです。

 水が少なくなると町(まち)や村(むら)
の人たちは、もちろんこまりますが、
もっとおそろしいのは、山火事(やま
かじ)がおこることです。かんそうが
ひどくていったん(山火事)になると、
森(もり)の草木(くさき)はぜんめつしま
す。それだけでなく、すべての生き物
(いきもの)が、鳥(とり)さンや虫
(むし)さんや、花さんたちもたくさん
死(し)んでしまいます。

 サッちゃんは心配(しんぱい)でしかた
なく、毎日(まいにち)のように空(そら)
をながめ、はやく雨(あめ)が降(ふ)る
ように祈(いの)っていました。

 ぬいぐるみのグディちゃんもとても
心配してくれました。グディちゃんは
カリフォルニアからやって来(き)て、
サッちゃんの部屋(へや)のピアノの上
にすわっています。

 グディちゃんはアメリカにいるとき、
いままでなんども山(やま)火事(かじ)を
見(み)たことがあります。だから、山
火事のおそろしさはよくしっていまし
た。カリフォルニアでは、いったん
山火事がおこると、何週間(なんしゅう
かん)も燃(も)えつづけ、たいへんな
被害(ひがい)が出(で)るからです。

 この町はカリフォルニアのように
かんそうしていませんが、雨がずっと
降(ふ)らないため、ことしはいままで
になく空気(くうき)がかわいていまし
た。町(まち)役場(やくば)ではみんなに
注意(ちゅうい)をよびかけていました。
こういう日(ひ)は、たき火(び)をしたり、
マッチを使(つか)うのはきっと禁止
(きんし)されてはずです。

 ところが、その日(ひ)のお昼(ひる)過
(す)ぎに友(とも)だちの所(ところ)から家
(いえ)に帰(かえ)る途中(とちゅう)、サッ
ちゃんがたまたまにキャンプ場(じょう)
の近(ちか)くを通(とお)り過(す)ぎたとき、
ちょっと気(き)になる光景(こうけい)を
見(み)ました。

 そこで、家に帰るとすぐでぬいぐる
みのグディちゃんにいいました。この
家ではサッちゃんだけがグディちゃん
とお話(はなし)ができるからです。

 「グディちゃん、キャンプ場で
  火を使っている人たちがいたん
  だけど、だいじょうぶかな?」

 「ええ?そりゃいけないよ。いち
  ど火が出(で)ると消(け)すことが
  むずかしいんだから」
 「れなの、その人(ひと)たち?」
 「しらない人たち、よその人みた
  い」
 「きっと、山(やま)火事(かじ)の
  おそろしさをしらないんだよ、
  ぼくが注意(ちゅうい)するから
  つれてって」
 「うん、わかったわ」

 するとサッちゃんは、グディちゃんを
両手(りょうて)にだきかかえ、キャンプ
場(じょう)まで走(はし)って行(い)きまし
た。ところがさっきまでいた人たちの
すがたは、どこにも見(み)あたりません
でした。

 「変(へん)だわ、ここで火をたい
  ていたのに」
 「もう家(いえ)に帰(かえ)ったん
  じゃないの?」
 「そうかもしれない」
 「じゃ、ボクたちも帰ろうよ。
  ん?ちょっと待って。この臭
  (にお)いはなんだろう?」
 「グディちゃん、これ、煙
  (けむり)の臭いよ」
 「煙?どうして?もうだれも
  火を燃(も)やしていないのに」

 はじめは臭いだけだったのに、そのうち
にスーッと白い煙のすじが一本、まるで
ドラゴンのように、くねくねしながら林
(はやし)の中(なか)から上の)ぼっていき
ました。それはすごい勢(いきお)いで
二人(ふたり)に向(む)かって迫(せま)って
きました。

 二人はゴホンゴホンとせきをしながら、
そのドラゴンは、煙(けむり)を手(て)で
はらおうとしました。でもドンドンふく
らみ、体(からだ)にまきついてあやうく
しめ殺(ころ)されそうになりました。

 「た、た、たすけてー、グディ
  ちゃん」
 「わー、サッちゃん、たすけ
  てー」

 二人とも、いまにも大(おお)きな煙
(けむり)にスッポリと包(つつ)みこまれ
そうになったとき、グディが声(こえ)
をふりしぼって大きく叫(さけ)びました。

 「こら、煙のやつ、やめろ!
  ボクをだれだかしってるか」
 「ん?なんだ、こいつは?だれ
  だって?」
 「お前(まえ)なんかしるもんか。
  それにオレさまを煙のやつと
  いったな!オレさまはこのへん
  を仕切(しき)っているスモーク・
  ドラゴンよ。よく覚(おぼ)えて
  おけ」

 「そんなことしらないよ。しめ
  殺(ころ)そうなんて、あとで、
  きっと後悔(こうかい)すること
  になるぞ!」

 「なんで、こまるんだい」
 「じぶんは、アメリカからやって
  来(き)た小(こ)グマ大使(たいし)
  なんだぞ」
 「なに? 小グマ大使だって」
 「そうさ、アメリカ大統領(だい
  とうりょう)に任命(にんめい)
  されたんだ」
 「まさか、大統領の大使だなんて」
 「ほんとうさ、ルースベル大統領
  の親善(しんぜん)大使(たいし)なん
  だぞ!」
 「え?まさか、何(なに)かしょうこ
  でもあるのかい?」

 「なんて失礼(しつれい)なやつだ、
  よくきけよ。…その前(まえ)にとに
  かくうず巻(まき)をといてくれ。
  苦(くる)しいよー」
 「わ、わたしも、苦しいー」
 「よし、よし、わかった」

 ドラゴン・スモークはしぶしぶうず巻
(まき)をといたので、グディとサッちゃん
はやっと自由(じゆう)になれました。
ゴホンゴホンとせきここみながら、グディ
は親善(しんぜん)大使(たいし)になった、
いきさつをつぎのように説明(せつめい)
しました。

   ***

 今(いま)からやく100年前(ねんまえ)の
1902年の秋(あき)、ルーズベルト大統領
(だいとうりょう)はクマがりをしていた。

 そのとき、小(こ)グマをおいつめたハン
ターは、かれにとどめの一発(いっぱつ)
をうながした。しかし、もう死(し)に
そうな小グマを見(み)て、大統領は打(う)
ち殺(ころ)す気(き)になれず、スポーツ
マンシップにも反(はん)するとして、小
グマの命(いのち)をたすけることになっ
た。

 これを伝(つた)え聞(き)いた人(ひと)
が小グマのぬいぐるみを作(つく)り、
大統領にプレゼントをした。それは、
とても気(き)に入られ、選挙(せんきょ)
のマスコットになるくらいの人気者(
にんきもの)になりました。

 ところで、小グマは命(いのち)をたす
けられたとき、ひたいにケガしてしまっ
た。それが星(ほし)のマークのように
見えたので、大統領は、こりゃえんぎ
がいいと大変(たいへん)喜び(よろこ)ま
した。さっそくぬいぐるみを100匹
(ぴき)えらんで、ひたいに星マークが
つけられた。大統領はは、それを親善
(しんぜん)大使(たいし)として、世界
(せかい)の主(おも)な国(くに)々にプレ
ゼントすることにしました。

 小グマは、山(やま)の守(まも)り神
(がみ)なので、山火事(やまかじ)がお
きると、森(もり)の動物(どうぶつ)たち
を守(まも)る役目(やくめ)があり、
特別(とくべつ)の使命(しめい)を受(う)
けた大使(たいし)としてもかつやく
している。小グマは大統領のニック
ネームのテディからテディベアと名
(な)づけられ、アメリカだけではなく、
今(いま)では世界中(せかいじゅう)の
人気者(にんきもの)だということです。

   ***

 「ほら、ボクのひたいの星(ほし)
  マークを見(み)てよ」
 「あっ、ほんとうだ」

 ドラゴん・スモークは、おどろいて
口(くち)は、開(ひら)いたままでした。
じつはカリフォルニアのドラゴン・
スモークから、あるテディベアが
山火事(やま(かじ)のときにたくさん
の動物(どうぶつ)をたすけたという
話(はなし)を聞(き)いたことがあった
からです。そのテディベアが、今、
目(め)の前(まえ)にいるのだから、
おどろくのもむりはありません。

 「そうか、そんなりっぱなクマ
  なんだ」
 「それはともかく、この黒(くろ)
  い煙(けむり)はなに?」
 「うら山(やま)で火事(かじ)が
  おこっているんだよ」
 「そりゃまずいよ、ボクたちを
  そこにはこんでくれる」
 「わかった、じゃ行(い)くよ」

 ドラゴン・スモーックは先(さき)ほど
の態度(たいど)とは変(か)わって、こんど
はやさしくグディとサッちゃんを両手
(りょうて)にかかえるようにして、一気
(いっき)にスルスルと上空(じょうくう)
へ飛(と)び上(あ)がった。

 上空(じょうくう)から下(した)をみると、
山火事(やまかじ)はヘビの舌(した)のよう
に山(やま)の背(せ)にそって、メラメラと
森(もり)の草木(くさき)を食(た)べはじめ
ているようでした。風(かぜ)にふきあげ
られた火(ひ)の粉(こ)はいきおいよくまい
上がって、みるみるうちに広(ひろ)がっ
ています。

 山(やま)のおくには一つ池(いけ)があり、
動物(どうぶつ)たちの大切(たいせつ)な
いこいの場所(ばしょ)になっています。
池の水(みず)ぎわまでにげてきた動物たち
は、火の勢(いきお)いがあまりにも強
(つよ)くてみんな池の中に落(お)ちそう
です。

 「ドラゴンさん、お願(ねが)いだ
  から、まずサッちゃんを家(いえ)
  の前(まえ)におろして、すぐボク
  を池(いけ)の水ぎわまでつれて
  行ってくれない?」
 「よし、わかった。しっかりつか
  まっていな」
 「いやよ、わたしもここに残
  (のこ)ってお手伝(てつだ)いした
  い」
 「ダメ、ダメ、この火事(かじ)は大
  (おお)きくて危険(きけん)そうだ。
  お願(ねが)いだから、すぐ家に帰
  (かえ)って、町(まち)のみんなに知
  らせくれない?」

 グディからそうまでいわれると仕方
(しかた)がありませんでした。サッちゃん
はみんなに知(し)らせるために、急(いそ)
いではこんでもらうことにした。家に
もどったサッちゃんはすばやく町役場
(まちやくば)まで走っていきました。

 そして、ドラゴン・スモークはグッディ
だけを抱(かか)えて、てすばやく池に飛
(と)んで引(ひ)き返(かえ)して行きました。

 「つぎは、どうするのかな」
 「すぐ近(ちか)くにいるドラゴン
  さんの仲間(なかま)に集合(しゅう
  ごう)の合図(あいず)をかけてほしい。
  それで、大(おお)きなフェンスを
  作(つく)ってくれない?」
 「わかった。それでどうなるのかな…」
 「山(やま)全体(ぜんたい)を煙(けむり)
  ですっぽり包んじゃうんだよ。
  そうすると、火(ひ)は苦(くる)しく
  なって呼吸(こきゅう)できなくなっ
  ちゃうわけ」
 「なるほどそういうわけか。よし、
  わかった」
 「グディちゃんはどうするの」
 「ボクのことなんかあとでいい
  から、しっかり抱(かか)えていて
  くれ」

 ドラゴン・スモークは、グッディを
背中(せなか)に乗(の)せてアッというまに
上空(じょうくう)に舞(ま)い上(あ)がり、
緊急(きんきゅう)信号(しんごう)の大(おお)
きな声(こえ)で力(ちから)の限(かぎ)り、

 「ゴー、ゴー、ゴーッ、緊急(きん
  きゅう)事態(じたい)だ、大至急(だい
  しきゅう)集合(しゅうごう)せよ」

 と煙(けむり)の仲間(なかま)に呼(よ)び
かけました。すると。周(まわ)りいた煙
(けむり)たちがすばやく反応(はんのう)し、
モックモクと立(た)ち上(あ)がって、どん
どん集(あつ)まってきました。

 「ドラゴン、どうしたんだ?」
 「みんな、よく聞(き)いてくれ。緊急
  (きんきゅう)事態(じたい)だ。山火事
  (やまかじ)が発生(はっせい)している。
  このままでは危険(きけん)なので、
  今(いま)からすぐ消火(しょうか)活動(
  かつどう)に入る。すばやく「包(つつ)
  み込(こ)み作戦(さくせn)」を開始
  (かいし)するので、隊列(たいれつ)を
  組(く)んでほしい」
 「了解(りょうかい)、みんな作戦(さく
  せん)開始(かいし)だ」

 と一番(いちばん)年長(ねんちょう)のドラ
ゴン・スモークが号令(ごうれい)をかけて
から、真(ま)っ逆(さか)さまに下(した)に向
(む)かって降(お)りていった。仲間(なかま)
もあとに続(つづ)きました。

 ところが、最初(さいしょ)のドラゴンが
火(ひ)の中(なか)に飛(と)び込(こ)もうとした
とき、火(ひ)が巨大(きょだい)なかたまりと
なって立(た)ち向(む)かってきました。

 「おい、お前(まえ)はだれだ!なぜ
  オレたちの邪魔(じゃま)をする」
 「なんだと、お前(まえ)こそ、だれ
  だ!」
 「オレさまか、いわずとしれたドラ
  ゴン・ファイアーさまよ」
 「なんだと、えらそうなことをいって
  いるやつだ。何(なん)でそんなに燃
  (も)えているんだ」
 「アハハ、何(なん)のためだって、
  もちろん生(い)きるためだよ」
 「生きるためだって?」
 「そうよ、燃(も)やして食(た)べなきゃ、
  オレたちが死(し)んでしまうからな」
 「それは、かってなりへくつという
  ものだ」
 「へりくつもヘチマもあるかい」
 「オレたちは、こうしなくちゃ生
  (い)きられないんだ」
 「それはかってだが、食(た)べら
  れる草木(くさき)や動物(どうぶつ)
  たちがかわいそうじじゃないのか」
 「そんなこと関係(かんけい)ないさ」
 「それはいけないことだよ」

 そう非難(ひなん)するとすぐ、ドラゴン・
ファイアーがゴーッと真(ま)っ赤(か)な炎
(ほのお)となってグディにおそいかかって
きました。スモークとファイアーは渦巻
(うずま)き状態(じょうたい)になり、グル
グルと空中(くうちゅう)で組(く)み合(あ)っ
いました。

 どちらも一歩(いっぽ)も引(ひ)かずに
必死(ひっし)に闘(たたか)った。グディ
はドラゴン・スモークから振(ふ)り落(お)
とされないよう、背中(せなか)にしがみ
ついていました。

 スモーク・ドラゴンとドラゴン・ファ
イアの壮絶(そうぜつ)な戦(たたか)いが
はじまった。スモークたちはスクラムを
くんで山(やま)全体(ぜんたい)をスッポリ
と包(つつ)み込(こ)みこもうとました。

 しかし、スモークは火(ひ)に弱(よわ)い
ので、どんなに攻(せ)めようとしても全身
(ぜんしん)がヤケドをおいそうになりまし
た。火(ひ)の勢(いきお)いであやうく落(お)
ちそうになった。さらに悪(わる)いことに、
スモークたちは火に弱いスモークはお尻
(しり)の方(ほう)から少(すこ)しずつ焼(や)
けて細(ほそ)っていきました。

 「アチチチl、こりゃたまらん」
 「どうだ、まいったか」

 ファイアーはどんどん迫(せま)ってくる。
スモークはたまらず上空(じょうくう)に向
(む)かってぐんぐん上(のぼ)っていった。
このままでは焼(や)き殺(ころ)されるので、
雨雲(あまぐも)のレイン・スモークに助
(たす)けてもらうことにしました。

 「レイン、レイン、緊急(きんきゅう)
  事態(じたい)だ。助けてくれ」

 するとはるか上空にあった雨雲の仲間
(なかま)がどんどん下(した)の方(ほう)に
降(お)りてきました。そして、ヤケドを
してやっと浮(う)かんでいるクラウドの
体(からだ)を優(やさ)しく包(つつ)んだ。
ジューッと白(しろ)い煙(けむり)を上(あ)
げて、ほってた体(からだ)の熱(ねつ)が
ようやく覚(さ)めたので、クラウドは生
(い)き返(かえ)える思(おも)いがしました。

 ドラゴン・レインの仲間(なかま)たち
は、空中(くうちゅう)の水分(すいぶん)を
思(おも)い切(き)りほほをふくらませて吸
(す)い込(こ)んだ。たっぷり水分をお腹
(なか)にたくわえたドラゴン・っクラウド
たちは、一丸(いちがん)となって、ドラ
ゴン・ファイアーたちに攻撃(こうげき)を
しかけました。

 燃(も)えたぎっていたファイアーたち
は、レインたちの口(くち)から大量(たい
りょう)の水分(すいぶん)をかけられ、
みるみるうちに小(ちい)さくしぼんで
いきまました。レインは休(やす)むこと
なく水をかけ続(つづ)けたたので、
ファイアーは、とうとうジュルジュル
という音(おと)をたてて消(き)えてし
まった。

 山(やま)は一日中(ついたちなか)メラ
メラと燃えつづけたあと、やっともと
の静(しず)けさを取(と)りもどしました。

 池(いけ)の水(みず)ぎわの大(おお)きな
杉(すぎ)の木(き)の幹(みき)に、グディは
ぐったりと横(よこ)たわっていました。
その周(まわ)りにはクラウドたちが、静
(しず)かになびきながらグディを見守
(みまも)っていました。

 ところで、サッちゃんの報告(ほうこく)
を受けて、町(まち)から救助隊(きょうじょ
たい)が池(いけ)の水(みず)ぎわにかけ
つけたのは二日(ふつか)あとでした。
なぜかというと、レインとファイアーの
戦(たたか)いがあまりにも激(はげ)し
かったからで、山全体(やまぜんたい)が
熱(ねつ)をおびたような高温(こうおん)で、
だれも近(ちか)づくことができなかった
からです。

 グディちゃんは目(め)に涙(なみだ)を
ためた動物(どうぶつ)たちに囲(かこ)まれ
て、石(いし)の上(うえ)でじっと目(め)を
とじて横(よこ)たわっていました。みん
なを助(たす)けるため、自分(じぶん)が
ぎせいになって全身(ぜんしん)にヤケド
のキズを受(う)けてしまったのです。
グディちゃんの全身(ぜんしん)を真(ま)っ
白(しろ)な包帯(ほうたい)が巻(ま)かれて
いました。

 「グディちゃん、だいじょうぶ?」
 「……」
 「おねがい、死(し)なないいで!」

 サッちゃんはしっかりグディちゃん
を抱(だ)きしめ、星(ほし)マークにキスを
しました。すると、グディちゃんは深
(ふか)い眠(ねむ)りからさめ、かすかに
片目(かため)をあけて、ニッコリ笑(わら)
いながら、ウインクしました。

 「サッちゃん、おかえりなさい」
 「ああ、グディちゃんが生(い)き
  返(かえ)った。よかったわ」

 グディちゃんは奇跡的(きせきてき)に
よみがえり、その活躍(かつやく)ぶりは
町(まち)の多(おお)くの人(ひと)たちの知
(し)るところなりました。グディちゃん
は、今(いま)は、サッちゃんのピアノの
上(うえ)で休(やす)んでいます。

 こうしてグディちゃんは親善(しんぜん)
大使(たいし)の役目(やくめ)を果(は)たす
ことができました。

 その後、グティちゃんとサッちゃんは、
 町(まち)の子(こ)どもたちや人々
(ひとびと)とも、いつもなかよく暮
(く)らしたということです。

             おしまい

❤みなさも、グディちゃんのような
 ぬいぐるみを持(も)っていたら、
 かわいがってあげてくださいね。

 それでは、次回(じかい)のお話
 (はなし)をた楽(たの)しみに
 してください。

アナミズ (2024.02.02)

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