1989年12月8日(金)

【熊本女子大通りスパー:富田 剛・菊川 小絵】
「あれ、菊川さんって熊大の菊川さんの妹さんですか?」
 学習塾のアルバイトに原付で向かう途中、熊本女子大学前のコンビニ『スパー』に寄って飲み物を購入した富田 剛は、駐車場の清掃をしている店員の女の子の名札に菊川と書いてるのを見て、こう尋ねた。以前交通センターでチラッと見ただけであるが、おそらく間違いないと感じている。
「はい、あれ、兄の知り合いですか」
「いつもお兄さんにはお世話になってます。富田と言います」
「あ、あなたが富田さん」
 菊川 小絵は富田の姿を見て少し違和感を感じた。学習塾のバイトのためにスーツを着ていたので兄から聞いているイメージとかけ離れていたからだ。
「えっと、富田さんは何をしているんですか」
「あ、今からバイトなんですよ。この先にある塾で講師をしてます」
 富田がスーツを着ている理由がわかったが、学習塾のバイトということも菊川にとって聞いていたイメージと大きく異なっている。
「バイトされてるんですね。でも兄と一緒に熊大で別の仕事をしてるんじゃなかったですかね」
「いや、熊大の仕事始める前にバイト始めてたからせめて今の中3の受験が終わるまでは面倒見ようかと思ってやってます」
 話せば話すほど菊川の中の富田のイメージが変わっている。兄からは富田のことは朝から晩までギャンブルをしているか酒を飲んでいるような人間であると聞いていたからだ。
「では、時間があるから行きます。ちょくちょく来るのでよろしくです
 そう言って富田は原付にまたがり、国体道路方面へと走っていった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?